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#104 謎艦隊

「はぁ!?なんでリーナ皇女様が、この部屋にいるんだ!?」


 部屋の戻ると、なぜかベッドの上にリーナ皇女が座っている。


「そりゃおめえ、一応、おめえの妻じゃねえか」

「いや……だからって、なんだってこの狭い部屋に連れてくるんだ?」

「ここで寝るんだよ。皇女様は」

「はぁ!?」


 とんでもないことを言い出すレティシア。僕は反論する。


「だ、だが、このベッドには、3人も寝られないぞ」

「おうよ。だからおめえ、リーナの部屋で寝てくれ」

「は?なんだって!?それはどういう……」

「いいからいいから!明日はおめえの相手してやっからよ」


 と言って、僕を部屋から追い出すレティシア。この第8艦隊の司令官である僕が、その旗艦の自身の部屋を、追い出されてしまった。手には、別の部屋の鍵が一つ、あるだけだ。

 ため息を吐きながら、僕は仕方なくリーナ皇女の部屋へと向かう。鍵を開けて入ろうとすると、僕は怒鳴られる。


「ちょっと、変態提督!なんで皇女様の部屋に入ろうとしてるんです!」


 お馴染み、グエン少尉だ。僕は応える。


「ああ、リーナ皇女なら今、僕の部屋でレティシアと一緒だ。」

「……じゃあなんで、提督がここに?」

「レティシアに、追い出された」

「へ?レティシアちゃんに?」

「と、いうことだ。今日はここで寝るしかない。明日は戦艦キヨスに向かうんだ、さっさと休ませてもらう……」


 唖然とするグエン少尉を前に、僕は皇女様の部屋へと入る。にしても、女性の部屋で寝ることになるとは……と思ったが、ここにはほとんど、私物らしいものはない。あるのは、あの鎧くらいのものだ。女性の部屋という雰囲気はないな。

 で、僕は珍しく、1人の夜を過ごす。いつもはレティシアのぬくもりを感じながら、いつのまにか寝ているという日々を過ごしているのに、今日はシーツの肌触りしか感じられない。虚しいな……


◇◇◇


「んふふーん!」


 部屋には、私とこの不敵な笑みを浮かべる魔女だけが残された。


「な、なんだ」

「いやあ、こうして二人っきりになるのを、待ってたんだよ」


 大丈夫か、こいつ?なにやら嫌な予感がする。


「わ、私をどうするつもりか?」

「そうだなぁ、まずは話をしようぜ」

「は、話?」

「そうだよ。おめえのこと、全然知らねえからな、俺は」


 などと言いながら、妙に私に顔を寄せてくる。なんだ、この魔女は?


「し、知らぬということもなかろう。私がフィルディランド皇国の皇女であり、第8軍を率いていたということは、既に話したであろうが」

「そんなことを知りたいんじゃねえよ。なんていうかな……なんていうかなぁ、おめえから、女らしさをさっぱり感じないんだ」

「はぁ!?」

「つまりだ、お前、まだどこか俺らに警戒して、本音を見せていねえんじゃねえのか、ってことだ」

「それは、仕方がないことではないのか。ここにきてまだ、7日も経っておらぬのだぞ?」

「んなこと言ってもよ、もうおめえもこの船の一員なんだ。いつまでも、他人行儀たあ行かねえだろう」

「それはそうだが……」

「てことだ。まあ、あんまり細けえことは考えるな」


 と言って、レティシアのやつ、私の肩に手をおいて尋ねる。


「ところでおめえ、カズキのこと、どう思ってるんだ?」


 いきなりこれだ。私は応える。


「どうと言われてもだな……一見、頼りないが、いざという時は大胆な男。そんなところか」

「それはそうだが、他にはねえのか?」

「他にか……うーん、そう言われてもな……」

「じゃあ、俺が教えてやらあ。あいつ、ああ見えて、結構ドSなんだよ」

「ど……どえす……何だそれは?」

「俺はよ、背中から抱きつかれるのが大の苦手でよ、だけどそういう俺の弱みを突いて、敢えて抱きついてきやがる、そういうやつだってことだ」

「……最低な奴だな。それが、グエンがあやつのことを『変態』だと呼ぶ理由か」

「まあな」

「だが、それがどうしたというのか?それでは単なる、夫批判ではないか」

「いやあ、違うんだなぁ、これが」

「……そなたの言っている意味が、分からんな。」

「カズキは、誰にでもそういう態度をとるわけじゃねえ、ってことだよ」

「どういうことだ?」

「つまりだ、気を許した相手にしか、本性のさらに内側に隠れた闇の部分を見せねえ。だが、俺には見せている。これがどういうことか、分かるか?」

「それは、ヤブミ殿がそなたに、それだけ気を許している相手だ、と認識している、と」

「まあ、そういうこっちゃな。どうだ、すげえだろう」


 すごいのか?別に、うらやましいと思うことはないな。


「だが、今のおめえは多分、何言ってんだこいつ?くらいにしか思っていねえだろう」

「それはそうだ」

「ダメだな」

「何がダメだと?」

「そんなことじゃ、人生損しちまうぜ。本性をさらけ出せるほど、心許せる相手の一人や二人はいねえと、おめえはただの孤独な皇女様でおしまいだぞ」

「いや、別に構わぬが」

「分かってねえなぁ、だいたいおめえはよ、皇女様と呼ばれてるわりに、女らしさが全然感じられねえんだよな。それがいけねえ。せめて、俺とカズキを取り合うくらいの可愛らしさがねえとな」

「おい、ちょっと待て……な、何を……」


◇◇◇


「全センサー、機器類、異常なし!0001号艦、発進準備完了!」


 翌朝、いよいよ駆逐艦0001号艦は、発進に向けての準備の最終段階を迎えていた。

 僕のすぐ横には、リーナ皇女がいる。昨夜は僕をそっちのけでレティシアと一緒だったが、一体、何があったのだろうか?

 というのも、このリーナ皇女、なにやら心なしか、妙に色気じみてきたというか、昨日までのあの刺々しい感じがわずかながら薄れたような気がする。今は鎧の下に着る綿製鎧のようなものを着ているが、これがドレスなら、間違いなく皇女様という言葉の雰囲気そのままの女性となりうるだろう。

 レティシアよ、何をやらかした?


「よし、機関出力上昇!重力アンカー解除!」

「了解、機関出力上昇!重力アンカー解除!」


 艦橋内には、艦長の号令と航海長らの復唱が響く。ヒィーンという甲高い機関音が、この艦橋内にも鳴り響く。


「短距離レーダー作動!大気圏内、進路方向に障害物なし!」

「出力、さらに上昇!駆逐艦0001号艦、発進!」

「出力上昇、プラス10!0001号艦、発進します!」


 柔らかさが増した皇女様などお構いなしに、駆逐艦の機関が猛々しく回り出す。そして艦橋内いっぱいに機関音が響き渡り、いざ上昇というところで、それは起きた。

 突然、機関音が乱れる。ガクンという振動の後、あのフォーンという音が響く。


『機関室より艦橋!左機関室、熱暴走!』

「なんだと!?こんな時にか!」

『緊急冷却の要あり!』


 なんてことだ。発進時に、機関熱暴走だと?こんなパターンは初めてだ。

 なんだか、嫌な予感がするな……


◇◇◇


 なんだ、何が起こっている?いきなり、床がドーンと揺れたかと思うと、この艦橋内が騒がしくなってきた。

 が、私の目の前にあるモニターというやつに、一段と騒がしい奴が映し出される。


『おらおらぁ!』


 レティシアだ。どうやら、今起きている事態の解決のために、あやつが動いているようだ。そのモニターを通して、私はレティシアの行動の一部始終を知ることとなる。


『おい、どこだ、熱暴走してんのは!?』

『はい!核融合炉と重力子エンジンの間の配管部!』

『おい機関長!水だ、水出せぇ!』


 活躍の場が滅多にないと言っていたが、あの魔女でなければできないことが一つあると言っていた。それがまさに今、目の前で起こっている。


『おりゃあ!』


 手の中で、放たれた水をまるで収穫した綿花を束ねるがごとく、くるくると丸めていくあの魔女。そしてそれを、大きな機械仕掛けのある部分に押し当てるのが見える。

 ジューっという、まるで焼け石に水をかけた時のように音を立てるその仕掛けからは、蒸気がもうもうと上がる。モニターとやらがその水煙に覆われて、何も見えなくなる。

 ヤブミ殿はというと、その一部始終をじっと見つめている。こういう事態にはなれていると言っていたが、そうは言えど、まるで熱し過ぎたサウナ場のごとく上がった水蒸気、あれが危うくなかろうはずがない。

 が、水煙が消えぬうちに、叫び声が飛んでくる。


『冷却完了!機関正常!』

「よし、機関出力、再度上昇!発進可能出力まで上げろ!」

「機関出力上昇、プラス10!」

「抜錨、駆逐艦0001号艦、発進!」


 オオシマ艦長が叫ぶ。甲高い音に覆われたこの艦橋の窓の外が、ぐらりと動く。やがて、皇都の地面が徐々に離れていくのが見える。


「高度300!上昇速度、50!」

「出力上げ!速度上昇!」

「了解、出力さらに上昇!プラス30!」

「高度、まもなく1000!」


 騒がしい艦橋の壁際を通り、私は正面の窓にたどり着く。眼下には、皇都が見える。

 大地の上に築かれた城壁の中の中心街と、その下に広がる周辺街が、ここから一望できる。そして、その向こうには霞みがかってはいるものの、一筋のややうねった河が見える。

 ああ、あれは第5軍に追われて、私とテイヨが乗り越えた河だ。その向こう側は、真っ黒な瘴気が表面を覆っている。


「僚艦9隻、合流!」

「了解、各艦に伝達、円陣形を組みつつ、上昇を続行せよ!」

「はっ!」


 そんな皇都や河が、雲や霞みに阻まれてほとんど見えなくなっても、さらにこの船は上昇を続ける。気が付けば、灰色の駆逐艦が何隻か、窓の外に現れる。

 それらはゆっくりと移動しながら、この船の周りを囲み始める。その囲みの上側の空が、次第に暗くなる。

 おかしいな……今は確かまだ、朝のはずだが。どうしてこれほど、空が暗いのか?


「まもなく、高度3万です!」

「全艦に伝達、規定高度に到達し次第、出力70パーセントまで上昇し、大気圏離脱、周回軌道に乗る!」

「はっ!」

「ただし、軌道半径を補正!いつもの数値では、弾道軌道を描いて地面に激突するぞ!注意せよ!」

「了解!」


 意味の分からぬやりとりが続いている。そういえば、この大地が丸い球体であろうことは、我々も知っている。だが、この高さでも、それが本当なのかまでは分かりようがない。

 それが、この世のずっと高い場所、宇宙という場所に行けば、その形を見ることができるという。


「高度3万メートルに到達!」

「全艦に伝達!出力70パーセント!」

「両舷前進半速!」

「両舷前進半速、ヨーソロー!」

「対地速度、急速上昇!速力7千!」


 ゴォーッという小うるさい音と共に、背景が動き始める。だがそれは、まるで地面が後方に流れ始めたが如く奇妙な光景だ。

 そして窓の外は一瞬、真っ暗になる。この船の先が空を向く。昼間のはずの空は、まるで夜空のように星が見える。その星がまた流れ、やがて下が明るくなる。

 その光景を見て私は、思わず息をのんだ。


 まるでラピスラズリのような青い球面があり、その上からは絵師が筆で乱雑に描いたような白い筋がものが浮かぶ、不可思議なものが現れる。だがそれが、私がいた大地であることをすぐに悟る。

 茶色と緑色に染まる部分は、おそらくは大陸であろう。あの青いのは、海か。私は海は見たことがないが、水を満々とたたえる場所だと聞いている。まさにその伝聞通りの光景が、真下に広がっている。


「全艦、周回軌道上に乗りました!」

「そうか。ではすぐに、軌道離脱に入る!両舷前進いっぱい!」

「両舷前進いっぱーい!」


 だが、この船の連中は、すぐにでもこの美しい青い大地から離れようと試みる。そして、それまで聞いたことがないほどのけたたましい音が、この艦橋に鳴り響く。

 先ほどまでの何倍も大きなゴーッという音と、そして床や壁、椅子までがビリビリと震え始める。眼下にあるあの青い球体は、あっという間に後ろへと流れていく。

 ああ、何といううるさい音なのか?だが、銃士隊の銃声に比べれば、まだどうにか我慢できる大きさではある。が、この壁と床の震えは何とかならんのか?今にも、ばらばらに砕けそうで、心もとない。しかしこの艦橋にいる20人ほどの者は、誰一人としてそれに気に留める者はいない。

 再び真っ暗な星空に戻る。が、また窓の外に、あの青い球体が現れる。


「ただいま、地球(アース)にてスイングバイ中!」

「いつもとは周回半径が違うぞ。注意せよ」

「了解!」


 しかし、今度の球体はあまりにも小さく見える。それだけ遠く離れているのだろう。だがそれは、徐々に接近して、今度は右隣りにそれを眺める。そして、あっという間に通り過ぎる。

 けたたましい音だけが、鳴り響く。そして窓の外は、再び星空へと戻る。

 渦巻き状の星の海だけが、外に広がっている。


◇◇◇


「ただいま、巡航速度に入りました。」

「了解。戦艦キヨスのいる軌道までは?」

「はっ、あと1時間ほどで到着します」

「そうか。」


 もう窓の外には、星以外には何も見えない漆黒の闇だけとなる。といっても、この宇宙にはこれ見よがしに巨大な、棒渦巻銀河が見える。

 この銀河が、どこの銀河なのかが分かれば、我々の位置が割り出せるのだが、今分かる範囲には、これと類似の銀河が見つかっていない。

 少なくとも500万光年は離れた場所であろうとの報告は受けた。いずれにせよ、500万でも100万でも、途方もない距離には違いない。我々の活動範囲は、せいぜい1万4千光年だぞ?

 それはともかく、今、我々は補給のため、戦艦キヨスを目指す。


 そういえば、もう見るものがなくなったとみえるリーナ皇女が、こちらに戻ってくる。しかし、初めて見るこの宇宙空間に不安と戸惑いを抱いたのか、いつものようなあの刺々しい覇気が感じられない。

 というか、さっきから、なんだろうな……この人、こんなに可愛らしい人物だったか?

 いや、ほんと、レティシアよ、お前この皇女様に、何をしたんだ?


「気は、済んだのですか?」

「あ、ああ、おかげさまで」

「そうか」


 自身の住んでいた場所から、遠く離れてしまった不安を抱えるのは当然としても、いつもと雰囲気が違い過ぎて、正直、困る。

 ただでさえ、僕の妻ということにされてしまったわけだ。互いに意識しないというわけにはいくまい。なにせ昨夜は、僕は部屋を追い出されたわけだからな。

 にしても、顔が少し、赤いな。恥じらう乙女、とでも言わんばかりだ。いや、レティシアよ、お前何をこの皇女様に……

 その皇女様が艦橋を出てしばらく経った時、突然、事態が動く。


「艦隊主力より入電!」


 いきなり、緊迫した声が飛び込む。僕は、通信士に尋ねる。


「どうした!」

「戦艦キヨス、および艦隊主力400隻が停泊する宙域に、接近する物体ありとのことです!」

「接近する物体?なんだそれは」

「距離、120万キロ!数、およそ100!」

「こちらのレーダーは捉えられないのか!?」

「はい、距離400万のはずですが……こちらからは、捉えられません」


 タナベ大尉が応える。だが、妙な話だ。これくらいの距離であれば、通常の物体ならば捉えることができる。

 つまりそれは、通常ならざる物体。具体的には、ステルス塗装を施したやつだ。

 それも、我々の持つそれとは異なる、未知のやつを。


「艦隊主力に打電!指向性レーダーにて、物体を特定!光学観測も実施せよ、と!」

「はっ!」


 そういえば、出発前に珍しく、機関トラブルを起こしていたな。まさかとは思うが、あれがフラグで、おかしなものを呼び寄せたというのか?


「艦隊主力より、映像来ました!」


 と、いきなりその不審物体の映像が送られてくる。正面のモニターに、それらが映し出される。

 それを見て、僕は愕然とする。

 まさにそれは、この星に到達する直前、我々にビーム攻撃してきた、あの無人迎撃システム徒歩と同じ姿の物体。

 そんなものが100隻も、ずらりと横陣形で、艦隊主力への接近を続けていた。

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