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ホラー

*父親の想い

作者: 寿々喜 節句

「娘よ、結婚してくれ」


 私の娘は現在三十二歳。

 結婚がすべてとは思っていないが、浮いた話を聞かないのもなんだかさみしい。

 父親の私にだけ話していないという可能性は否定できないが、それらしい素振りや怪しい行動も見られない。

 父親というひいき目を差し引いても、顔立ちは悪くないと思っている。いや、ひいき目を差し引くことなんて出来ないのかもしれない。

 親ばかと言われても言い返すことはできない。やはり娘と言うのは目に入れてもいたくないほどかわいいものだ。

 だから誰か他の男と一緒にいると想像すると、本当は嫌悪感を抱くことも確かにある。

 いつまでも娘は娘だ。子供は子供なのだ。


 そんな自慢の娘には小さい頃、ピアノを習わせた。

 私自身が音楽に疎いところがあり、困ったこともあったので、そんな思いをさせたくないという私の都合で、習わせた。

 ただ娘は楽しんでピアノを弾いていたらしく、そんな裏事情を大人になってから話したら笑って許してくれた。

 正直ほっとした。

 あの小さいながらもドレスを着て、大勢の前でピアノを弾いていた発表会が懐かしい。

 押し入れの奥にあの時のビデオが残っているが、娘は捨ててくれと言っていた。

 捨てるわけがない。後で出して久しぶりに見てみよう。


 小学生の頃は夏にキャンプに出掛けたものだ。

 兄の後ろにくっついて、森や湖を散策していた。

 それを私は妻と遠目に見ているだけで幸せだった。

 あの時飲んだコーヒーの味は今でも覚えている。

 私がやると言って、熱いやかんを一生懸命持って淹れてくれたドリップコーヒー。

 お湯を入れすぎたせいで、豆が溢れて最後はシャリシャリと食感を楽しめた。

 息子は今はもう家庭を持って、子供もいる。

 私と同じように、子供とキャンプに出掛けている。

 送られてくる写真はかつて私が息子としていたキャンプそのものだ。

 こうやって受け継がれていくのだなと感慨深いものがあった。


 中学校に上がると、小説を読むようになった。

 私はミステリー小説が好きなので、同じようなジャンルだといいなと思っていたが、ラノベ? というジャンルだった。

 よくわからないが、ファンタジーと言っていた。

 何にせよ、本を読むことはいいことだ。いつかミステリー談義でもしたいものだ。

 しかしその反面、友達が少ないのではないかと心配になった。

 娘はやはり妻の方が話やすいだろうと思い、妻経由で状況は聞いていた。

 内気な性格のせいでやはり友達が少なかった。

 ただ小説好きの友達がいると言っていたので、その友達を大切にすればいいと、妻に伝えたのを覚えている。

 今でもたまにイベントに一緒に行っているらしい。何のイベントなのかは知らないが。


 高校の頃は少し不安定だった。

 年頃の娘のことは全くと言っていいほどわからない。

 妻に任せきりにしていた。

 任せるほかなかった。

 よく言う、お父さんと一緒の洗濯は嫌だ、状態だった。

 覚悟はしていた。しかしいざその場面に出くわすと、ショックは大きかった。

 ただ私だけではなく、兄に対しても嫌悪感を抱いていた。

 つまり男性に対して意識するようになったということだろう。

 この頃は息子が彼女を作って家に連れてきたりしていたので、とうとう娘にも彼氏ができるのかと期待半分、不安半分で覚悟をしていたが、それらしいことは一切なかった。

 胸をなでおろしている自分がいるのも気がついている。


 それから浮いた話もなく大学生になった。

 よほど本が好きだったのか、文学部に進んだ。

 多分真面目に勉強をしていたのではないだろうか。

 成人もしたし、過度な干渉もしないようにしていたので、学生生活についてはあまり詮索していない。

 それはその時期に妻が他界したという理由もある。

 私自身、相当参ってしまって、今となっては申し訳ないが、子供たちに気を回す余裕がなかったのだ。

 息子は社会人となっていたので、大きな心配もしていなかったが、学生の娘にはきついのではないだろうかと思っていた。

 しかし、娘は母のことをしっかり見ていたようで、妻亡き後は娘が家のことを率先してくれた。

 大学での勉強、本屋でのアルバイト、我が家での家事全般とあの頃の娘は超人だった。

 今でも思い出すと頭が下がる。

 しばらくすると私も妻の死を受け入れることができ、心が落ち着いてきた。


 気が付けば、私も定年退職を迎えることになった。

 最後の出勤日、娘はいってらっしゃいといつものように送り出してくれた。

 そしていつものように仕事をして、同僚たちからのプレゼントを持っていつもと違う帰宅をしたら、クラッカーが鳴った。

 頑張ってよかったと思った。

 息子と息子の婚約者と娘の三人が出迎えてくれた。

 肩の荷が下りたと言うか、何かわからないが、報われた気がした。

 たぶん間違っていなかったのだろうと思った。

 その時もらった万年筆は宝物だ。棺に入れてほしい。

 

 大学卒業後は念願の司書になり、近くの図書館で働いている。

 仕事と家の往復と、たまにイベントに行くだけの生活だ。

 男の気配はない。

 あまり化粧をしないし、おしゃれにも気を使っていないようにも見える。

 ただやはり私からそういった話をするのは気が引ける。

 働いていた時、セクハラには十分に気を付けていたので、女性に対して恋愛の話をすることはご法度だと思っている。それが娘だとしても。

 一方息子は予定通り結婚し、子供が生まれ、二つ先の駅近のマンションを購入して、それなりにやっているらしい。

 近くなのだから、たまには孫に会わせてほしいと思うが、自分から言うのはなんだか恥ずかしいので、じっと我慢して待っている。

 だから私は今は、娘と二人暮らしだ。

 段々妻の若い頃に似てきたなと思うが、妻の若い頃はもう私と結婚していた。

 娘には幸せになってほしい。

 そう願わない父親はいないだろう。


 私は娘が好きなのだ。

 こんな質素で地味な娘だが、かわいくて仕方がない。

 妻に似てきた点も嬉しくて仕方がない。

 やはりあの妻亡き後、妻の代わりに家のことをしてくれた時から、娘の良さがぐっとわかったと思う。

 結婚してほしい。

 父親がこんなことを言うのは狂っているとわかっている。

 世間に受け入れられないことも十分承知の上だ。

 しかしやはり結婚してほしい。

 妻と出会ったとき、この気持ちが大きくなり、結婚に至った。

 その気持ちが今再燃している。

 結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。結婚してほしい。

 この気持ちを口に出してはいけない。

 これを口に出した瞬間に、すべてが終わる。

 だからここに記するだけにする。


「娘よ、結婚してくれ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 以前、読ませていただいてましたが感想を書いていなかったので、もう一度楽しく読ませていただきました! やっぱり最後の連呼が効いてますね〜! ここでグッとサイコな感じがして最高です( *´艸`…
2022/01/26 20:50 退会済み
管理
[良い点] 結婚してほしい連呼で一気にホラーに…… 好きなのはまだいいとして結婚にこだわりますね……笑 妻がなくなった理由も怪しくなってきた笑
[良い点] 事細かに思い出を語るお父さん。 ぎりぎり理性が残ってるみたいですが、さらに言えない思いを重ねていくのかと思うと、この先なにが起きるのか予想できず怖いですね。
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