短編小説 こんな話をきいた 山もっさん
駅で寝ていたホームレスは、みんなに好かれている。
短編小説 こんな話を聞いた
山もっさん
「おはようさん〜」
ガリガリに痩せた老人が話しかけてきた。このアパートの住人だ。
真冬だというのにジャケット一枚、サンダル履き。髭面で、にっこり笑う笑顔には歯が一本も無い。
「お天道さん出てこんなぁ〜」鼻水が垂れている。
「山もっさん、そのジャケットどうしたんですか?」
「へへへ、この背広か〜?亀田さんに貰ろうたんや〜」クチャクチャの笑顔。
「亀田さんにお金借りに行ったら、この背広くれるって、もろうたんや〜いいやろ」
「そうですね、高いですよ、亀田さんのだったら」
「ヘヘヘ〜」
焼肉屋のオヤジが、やって来た。
「おい、山本!めずらしくイイかっこしてるじゃないか?」
「ヘヘヘ〜もろうたんや〜亀田さんちは、大きいで〜」
「お前なんか、亀田さんちの便所も建てられないぞ」
「ヘヘヘ〜」
「靴ぐらい履けよ」
「ヘヘヘ〜」
「山もっさんは、ウオノメが痛くて靴が履けないんですよ」
「何だ、貧乏だから靴を買う金が無いかと思ったよ。ハハハ…そうだ、これやるよ、カップラーメン。俺んち誰も食べないんだよ」
「おおきに、いつも、ありがとさん」
山もっさんは、ヨタヨタと去って行った。
それから、しばらく山もっさんを見かけなかった……
……山もっさんが死んだ。
泊まるところが無い男を泊めたら、有り金全部持っていかれたらしい。
一日一食で、カップラーメンだけだったそうだ。コタツで倒れて、それっきりだった。
出身は京都で、イイ所のボンボンだったらしい。兄さんがお骨を取りに来た。
しばらくして、
山もっさんが住んでいたアパートに貸し家の看板が付いている。
「山もっさん、京都に帰りましたね」
「……」
焼肉屋のオヤジが、ポツリと言った。
「カップラーメンなら、いくらでもやるのに…」