教授のお願い
「はぁはぁはぁはぁ…」
「いやぁ、助かるよ湊くん」
「ぐへぇ…」
ゼミの担当である勅使河原 宗近教授に頼まれ、大学構内を走り回った。
西へ東へ…。
あれが欲しいこれが欲しいと教授の願い事を全て叶えた。
勿論報酬はある。
報酬がなければこんな雑用は引き受けない。
「さて、私は湊くんに頼んだものを確認するとしよう。その間に私のパソコンに写っている問題集は何かに役立つかもしれないね。ああ、私の独り言だ。気にしないでくれたまえ。私は確認に忙しいから見られても仕方ないということだね」
「へへー!」
さすが教授分かってる。
教授の手伝いをすると、もれなく試験に出てくる問題などを事前に教えてくれる。
勿論そういった行為は禁止だ。
しかし、たまたま目に入ってしまったのなら仕方ない。
以前は法務省に努めていたと聞いている。
官僚を辞して大学の教授をしている勅使河原教授。
名前から戦国武将や気難しいイメージになりがちだが、講義の内容も分かりやすく、こうして手伝いに対する報酬にも理解がある。
「これは…」
「購買でおススメになってましたやつですね」
「ほう…」
教授は俺が買ってきたスイーツに目を奪われている。
教授は甘い物に目がない。
一人でスイーツバイキングに行ってしまうほどの猛者だ。
過去にはゼミの打ち上げでスイーツバイキングに行ったこともあるらしい。
学祭は教授の意向で甘い物になるのは当ゼミの決まり事だ。
「新作ですね」
「今年度のイチオシ!って書いてありましたね」
「ほほう…」
教授は甘味に夢中だ。
今のうちに教授のPCから書き写さないとな。
写真で撮影することはご法度となっている。
足がついてしまうからな。
「ふぅ…」
「どうでした?」
「私の購買スイーツレギュラーに入れてもいいでしょう」
「それはよかったです」
教授は次の甘味に取り掛かる。
50を過ぎて60も近いのに食欲旺盛でスゴイと思う。
俺は何個も食えないね。
…よし!書き写し終了!
「そうだ湊くん」
「なんでしょう?」
「石垣くんと丸尾くんの持っているモノを合わせればいいことになるでしょう」
「それは…」
ガッキーと丸も教授から賄賂を受け取っているのか。
良いこと聞いた。
「明日は田中くんに頼むとしましょう。4人で集まれば良いことがあるかもしれませんねぇ」
「ありがとうございます!」
明日は友樹が生贄か。
頼むぞ友樹!
「いらっしゃいませ」
「こんばんはー」
以前柏木さんからお礼としてお弁当をサービスしてもらった弁当屋に足を運ぶ。
今では週1で買いにいくほどはまってしまった。
おばちゃんの味付けがおふくろの味って感じで美味いんだよなぁ…。
「今日の日替わりって何です?」
「今日は…」
柏木さんとも挨拶をする程度の仲になり、今ではその日の日替わりを聞いたりしている。
未だに俺との会話がぎこちない柏木さんだが、このほんわかしてる柏木さんに癒されるんだよなぁ…。
大学の岳人たちイケメンにギラギラしてる女の子たちとは違うんだよなぁ。
「今日は…。回鍋肉か麻婆茄子になります…」
「うわっ!めっちゃ悩むやつだ…。柏木さんのおススメはどっちです?」
回鍋肉に麻婆茄子!
どっちも好きだ。中華を嫌いな男はいないね。断言できる。
悩む…。どっちにするかなぁ…。
回鍋肉か麻婆茄子か…。
うーん…。
「わ、私は…麻婆茄子がいいと思います…」
「んじゃ麻婆茄子で」
「はい…」
会話できるようになったけど、目を合わせてくれないんだよな。
そんなに俺と目を合わせるのが嫌なのかっ!?
そのうちおばちゃんに出禁にされたらどうしよう…。
ここの弁当美味いのに…。
「…お待たせしました。…600円です」
「ちょうどね。ありがとー」
「…はい」
このボリュームで600円は助かる。
金欠大学生からすると非常に助かる。
来週の日替わりも楽しみだなぁ…。