イケメンと雰囲気イケメン
「動くな」
「………」
「死にたくなけば駅前の本屋に行ってから北町の雑貨屋に行って、それから…」
「多いわっ!」
今日は遅刻ギリギリだったので、大学までバイクだ。
今日の講義も終わったから帰るぞーと思った矢先。
背後からペンのような物を突き付けられた。
まぁ、声でわかるんだけどな。
でもボールペンとかシャーペンって背中に刺さるとマジで痛いんだぞ?
経験者の俺が言うんだから間違いない。
「岳人に捕まる前に帰ろうとしたのによ…」
「俺から逃げるなんて100年早い」
後ろを向くと、すでにヘルメットを被った岳人がいる。
岳人が乗る様にヘルメット常備してるわけじゃないんだけどな!
許可してねーのに乗ろうとするなよ!?
「俺はいいから女の子たちと遊んでこいよ」
「今日は全部断った」
「はぁ?」
イケメンは選り取り見取りでいいっすねー!
「今日出る新刊が欲しいんだよ」
「漫画に負ける女の子可哀相だわ」
「俺が何をしようと俺の勝手だろ」
「出たよ!俺様系男子!」
雰囲気イケメンの俺がやってもはぁ?って言われるのが目に見えてる。
なのにイケメンの岳人がやると花になる。
神様…。
俺の願いを叶えてくれ…。
今すぐこの俺様系イケメンを俺様系ブサメンにしてくれ…。
「報酬に煮卵」
ぴくっ。
「そうだな…。角煮も付けよう」
ぴくぴくっ。
「喜べ…。角煮は黒豚だ」
「喜んでー!岳人さん、どこ行きましょうか?あ、最初は駅前の本屋でしたよね!今エンジンかけますんで落ちないようにしてくださいね!」
「うぇーい」
負けた。
俺の負けだよ。
無条件降伏だ。
無血開城だ。
岳人の作る料理は美味い。
特に煮卵と角煮は最高だ。最高に逸品だ。
イケメンで料理も美味いとかふざけてる。
俺の時間と煮卵と角煮を比べると俺の時間は軽い。
ああ、喜んで岳人の足になってるやるよ!
今日の晩飯は煮卵に角煮だぜー!
「岳人くん似合ってる!」
「そうですか?」
「………」
世の中は残酷だ。
弱肉強食だ。
焼肉定食食べたい…。
そうじゃない。
岳人の足となり、2件目の雑貨屋に来ていた。
1件目の本屋はいつも通りだ。
イケメンの岳人に女性がチラチラ視線を送る。
許そう。
2件目の雑貨屋。
綺麗なお姉さんが岳人にくっつきそうなくらいの距離で接客してる。
なんで?
俺は最初からいないように思われてる。
そうですよ!俺はどうせ雰囲気イケメンですよ!
ギルティ!!!
「もうやだ!おうちかえる!」
「あとちょいだから。駐車場で待っててくれ」
くそー!
あれがイケメンのイケメン力か!
いっそのこと暗黒面に堕ちようか…。
世の中のイケメンを狩ってやる…っ!!
駆逐してやるっ!!!
一人残らず駆逐してやるっ!!!!
「うわーん!」
「きゃっ…!?」
泣いた真似をしながら、雑貨店から出た俺は女性とぶつかってしまった。
こんなことなら目を覆いながら出てくるんじゃなかった…。
「すみません、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です…」
同じ大学生くらいの女性の手を取り、ぐいっと引っ張り立ち上がらせる。
お姉さんには申し訳ないことをしてしまった…。
「あのお怪我は…?」
「だ、大丈夫ですので…。ご心配には及びません…」
「そうですか…」
女性に怪我させたら死んで詫びるしかない。
よかった…。怪我していないくて…。
「あの…」
「え…あっ!すみません…」
「い、いえ…」
お姉さんの手を掴んだままだった。
俺は慌てて手を離す。
これが岳人だったら、相手の女性は目がハートになっているに違いない。
イケメン許してなるものか…!
「ホントに大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です…。お尻を地面についただけですから…」
ホントに大丈夫か?
あとで痛くなっても知りませんよ?
「失礼します…」
お姉さんは下を向いたまま立ち去っていく。
「あの…!」
「はい…?」
「当たった俺が言うのもなんですが、前向いていきましょ。下ばっかり見てると躓いちゃいますよ」
「え…、あ…」
立ち去るお姉さんに声をかける。
ぶつかった俺が言うのも変だけどな。
「し、失礼します!」
「あ…、あれぇ…?」
お姉さんは、俺の顔を見ると走って去って行ってしまった。
俺の顔ってそんなに変?
いや、フツメンだよな?
女性が逃げ出すような顔してないと思うけど…。
うわあああああああ!
なんかショック…。
悲しくなってきた…。