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96.消えた本

 それからユリアスさんとは転生仲間として、休日や放課後はチャットを楽しむ仲になった。

 だが彼女にも私が『メリンダ』として学園に通っていることは内緒だ。

 彼女には悪いが、私が冒険者であり、その関係でほとんど学校には来ていないのだと嘘をつかせてもらった。

 また少し家の事情が複雑なので……と遠回しにあまり家のことは触れないでくれと頼んでおいた。冒険者業をしている時点で何か訳ありなのは察してくれていたらしく「分かった!!」と即返信が返ってきた。


 いい人なのだろう。

 授業と単位の問題になった時も、彼女は特例措置のこともあまり気にした様子はなかった。


「それって後で辛くならない?」

「課外活動で単位もらえたりするので大丈夫ですよ」

「課外活動?」

「一応Sランク冒険者なんで、特殊クエストとかこなすといろいろと考慮してくれるんですよ~」

「それ、私に言ってもいいやつ?」

「……ユリアスさん、私が正規の方法以外で単位もらってるって言いふらしませんよね?」

「言わないわよ」

「なら大丈夫です! 私、明日から来週いっぱい隣国で狩ってきますので連絡遅くなるかもです」

「桶です! 怪我しないように気をつけてね」

「桶頂きました! お土産になりそうなものあったらお渡ししますので~」


 狩りに行くのは国外ではなく、国内で。

 リリアンタール家の動きが緩和したことから制限が少しは軽くなったとはいえ、週に1・2回の仕事しか受けていない。嘘をつくのは心苦しいが、ユリアスさんの話を聞いてからは、顔も知らないリリアンタール公爵からはなんとしても逃げきって見せるという気持ちが大きくなっている。


 また不思議な話だが、ユリアスさんとロザリアとして接触をした日から例の学園本がアイテム倉庫から忽然と消えた。おそらくあの本は『乙女ゲーム攻略本』だったのだろう。ふんわりとではあるがネタバレをふんだんに含む物語を聞かされたことで役目を終えた、と。案外あの本の役割は私を乙女ゲームに参加させようと、どこかの神様が用意したものなのかもしれない。けれど私に乙女ゲームの知識はほぼなく、そもそも学園入学前に大幅にシナリオが変更されていたため、気づかれることはなかった。


 そう考えるとなんだか申し訳ない気分になってくるが、思うように進んでくれないのが人生というものだ。

 どうにかしてシナリオを元通りになんてもくろまずにグルメマスターの考案したご飯でも突きながら、大人しく空から見守っていて欲しい。


 えのきダンスを踊りながら、謎の少女『ロザリア』のことを考える。

 それとなくユリアスさんにヒロインが複数人存在するのかと尋ねた所、彼女に心当たりはないようだった。

 エドルドさんの調査にも依然として引っかからないまま時間ばかりが過ぎていく。


 変わったことといえば、ユリアスさんの体型くらいだろう。

 初めて会った時に比べて随分とスマートになっている。

 王子に痩せろ、痩せろと小言を言われると愚痴を零していたので、彼女には内緒で身体強化をかけさせてもらった。若干激しく動いた所で身体の負担が軽減される。もちろん完全に切れる前に回復魔法をかけることも忘れない。それを短期間で繰り返すことで彼女の身体の中で脂肪燃焼が活発化している、と思う。確実に筋力は増えている。だがこの短期間での激やせに一番関わっているのはおそらく成長チート。全体的にステータスはメキメキと上昇し、その度に消費カロリーが上昇している。


 また王子との関係だが、彼の溺愛は相変わらず。

 メリンダとして二人の様子を目撃する度、私の中でますます『悪役令嬢』というものが分からなくなっていく。シナリオとやらがどうあれ、私が2人の間柄を邪魔するつもりはない。卒業式で行われる断罪エンドから斬首刑に移行するのだと、笑いながら語ってくれたユリアスさんだが、二人の仲を邪魔すれば首を切られるのは私だ。王子に、というよりもグルメマスター信者たちから。グルメマスターの幸せを邪魔するなら多分王族にでも刃を向けるのが彼らだ。実際、つい最近グルメマスターのことを馬鹿にしたご令嬢が一人、社交界から姿を消したらしい。ユリアスさんに気づかれる前に迅速と。


 私もガイナスさんから聞いて初めて知ったのだが、信者界隈では有名な話だ。


 姿も名前も知らないが、グルメマスターを馬鹿にするとはどこの田舎者だろうか。

 それによほど空気が読めないのだろう。

 常識知らずな私でも、グルメマスター文化に触れた時点で何かを察したというのに!


 それにしても同じ転生者でありながら、ユリアスさんはよくこんな短期間で教祖になりあがったものだ。

 カリスマチートというやつなんだろうか。

 もしかして私が知らなかっただけで、『悪役令嬢転生』とはこういうものなのかもしれない。

 私tueeeなぶっ壊れステータスチートなんてはしゃいでいた私が妙にしょぼく感じてしまう。彼女の前では化け物と呼ばれようが、ただの赤子に等しいのだ。多分、信者たちも彼女のためなら化け物討伐も喜んでするだろうし……。あり得ないと思えないのがグルメマスターなのだ。


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