8.同じことをずっとやっていると……飽きる!
椅子と机によって少し生活水準が上がった訳だが、相変わらずのテント暮らし。
週2くらいのペースで町へ降りて簡単な依頼を受けたり、着いてきた冒険者を拘束したりとしていた訳だが数ヶ月が経過し――――飽きた。
そもそもなぜ私が我慢しなければいけないのか。
すでに登録は済んでいるから町を移動すればいいのかもしれないけど、また新たなストーカーさんが来ても困ると居座り続けていた。けれど一向に彼らが諦めてくれる気配はない。
もう数ヶ月だよ!?
チートとポイント交換で楽している私が言う台詞じゃないかもだけど、いい加減真面目に働け!
一番簡単な依頼である『薬草採取』は一束で鉄貨2枚くれる。しかも品質に応じて報酬の上乗せがある。この数ヶ月、普段受けている仕事と平行して、1日1束ずつでも持ち込めば銅貨10枚なんていつの間にか貯まっているだろう。
基本的にはロープで拘束して放置しているが、それでも魔物に襲われるリスクはある。加えて石や枝を投げつけて威嚇することもあるので、ただ時間を浪費しているだけでは済まないだろう。
殺意を向けられることはないから恨みを買っているかの心配はない。
だけど簡単な方法に見えるものに食いついて払っているコストの大きさに気づいていないんだろうな~。引き返せなくなったパターンかもしれない。
私も制限の多い生活に飽きてきたし、そろそろこんな無駄な行為終わらせることにしよう。
そうと決まればアイテム倉庫から手持ちの魔石を全て取り出してバックの中に詰め込む。ちょっと重いけれど持てないほどではない。入らない分は新たに交換したバックに入れて準備は完了。
指をくるくると回し、ストームを発動させながら町に降りていく。
道中ドロップしたアイテムは、この数ヶ月で磨かれたテクニックによって最近の必須アイテム『背負子』の中にボトボトと落ちていく。
「全部でいくらになるかな~。手に入れたお金で豪遊出来るかな~」
豪遊HOOOO! と一人で叫びながら、ハイテンションで山を降りる。町へ入った段階で魔法を止めたが、胸の前でクロスするようにかけたバックと背負子はそのまま。
異様なものを見るような周りの視線が気になるが、これは見せつけるためでもある。
実はソロでもガンガン狩りが出来ると思われてもいいし、バックにいる凄く強い人が手に入れた魔石を持ってきているだけだと思われてもいい。
ただ気軽に手を出していい存在ではないと思ってくれさえすれば。
この町に来るまで恐れられたくない、あまり目立ちたくはないと思っていた。だが子どもだからと舐められてずっとつきまとわれるくらいなら一歩二歩三歩と引いてくれた方がマシだ。
私のストレスも軽減するし。
ギルドに足を踏み入れ、真っ先に向かったのは換金所。
一気に大量持ち込みなんて、登録初日からずっと良くしてくれている職員さんのことを考えると申し訳ない気持ちで胸が痛む。
けれどもう無理!
我慢出来ない!
ごめんなさいと心の中で地面に頭をつける勢いで謝罪しながらも、バック二つと背負子をカウンターに乗せる。
「すみません。これ全部換金してもらえますか」
「は、はい! 数が多いので多少お時間を頂くことになります。口座をお持ちの場合、今回の換金分を入金しておくことも可能ですが、いかがいたしましょう」
「口座に入れておいてください」
「かしこまりました」
サービスとしてあるのは知ってたけど、受けられるのは一部の高ランク冒険者だけと聞いていた。交換レートが日々変わるため、苦情を減らすためという目的と、申告とは異なる魔石を納入された際にすぐ確認出来るようにという理由があるらしい。
今回は数も多いし、何々の魔石です! って申告していないからいいのかな?
正直、私もどれがどれの魔石か聞かれたところで覚えていない。それに今回は多くの人の前で買い取ってもらうことが重要なのだ。どんなに低くとも構わない。
口をあんぐりと開ける者に、こそこそと噂話を開始する者。仲間達と目配せをして、何やら画策する者もいる。
おおよそが予測した通り。
かかってくるならかかってくるがいい!
私は誰からの挑戦も受け付ける覚悟だ。
今の私は絶賛魔王メンタル。
もちろん殺す気はないけど、あまり人が押し寄せるようだったら決闘料に何かもらおうかな~。
お金で取るか、武器や防具をもらうか、アイテムをもらうかは今のところ未定。
一度に押し寄せた人数が多かったり、明らかに怪我を負わせるようなスタイルを取ってきた人は多めに請求するのは確定。
今のところお金には特に困ってないけれど、それは森生活を送ってきたから。人里で暮らすのなら今まで以上にお金を消費するのは確実。豪遊するならもっとかかる。
「がっぽり稼いで豪遊~豪遊~」
浮き足だった足取りでギルドから出てすぐの串焼き屋で豚串を三本購入する。
雑草スープ以来の異世界飯だ!
豪遊生活の第一歩が串焼きなんて庶民じみているかもしれないが、初日からずっと目を付けていたのだ。
ストーカーさん達のせいで今日の今日まで買うタイミングを逃し続けていただけ。
大口を開け、二つ分を一気に串から外してパンパンに膨れ上がった頬を揺らす。
「うまぁ」
味付けは塩のみと非常にシンプルだが、焼きたてのお肉はじゅわっと口内で汁をはじけさせる。お値段は三本でわずか鉄貨2枚。もっと早くこの美味しさを知っていればギルドに来る度に買って帰ったのに!
ストーカーさん達さえいなければ……。
私の食事を邪魔しまくってくれた彼らが恨めしい。
ロープでぐるぐる巻きにするだけじゃなくて、手持ちの食事とかお金とかアイテムをなんか適当に奪って憂さ晴らしすれば良かった! なんて思ってももう遅い。
毎回そこそこの人数がやってくるため、わざわざ顔なんて覚えていないのだ。
今の私が取れる行動はこれから来る人からは迷惑料をきっちり徴収すること。
そしてわずかな手持ちで町グルメを食べ歩きすること。
「すみません、豚串6本と牛串1本、後鳥串も5本もらえますか?」
「あいよ!」
別料金の袋に入れてもらった串焼きを小脇にかかえながら、邪魔された時間を埋めるように異世界飯を堪能するのだった。