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86.いい歳の大人?

 ラングさんにレオンさんの活躍を語り終え、良い仕事をした達成感に包まれる。

 さぁ帰るか! と汗も出ていない額をふうっと拭い、ラングさんに続き客間を後にしようとする。


「さぁ打ち合いをしましょう!」

 ドアの前にはランスを構えるパトリシアさんと、迎えに来てくれたであろうガットさんの姿があった。

 もう暗いし、帰ろうと思っているのだが、ガットさんはすでに何かを諦めたような表情を浮かべている。多分、私がラングさんに語っている途中に説得したのだろう。


 だが論破された、と。

 相手は公爵夫人だし、脳筋だし、仕方のないことなのだろう。


「そんなに時間はかかりませんので」

 三人での打ち合いもするって私が言い出したことだし、少し待ってくださいと頭を下げる。

 立てかけておいた武器を手に取り、揃って鍛錬場へと移動する。


 向かう途中、帰宅していたらしい双子のお兄さん方とグルッドベルグ家の公爵が加わった。「見るだけ! 見るだけだから!」なんておもちゃコーナーに向かう子どもの台詞のようなものを口にしていたが、その手にはしっかりと武器が握られていた。某おもちゃショップでお馴染みの光景だ。向かう先がレジではなく鍛錬場で、握られているのが武器か車のおもちゃかの違い。


 私には子どもはいなかったが、ここからレジ周りでの大泣きに繋がり結局折れて購入するか、手から引き離して返却のどちらを取っても親御さんの疲労感が感じられた。

 だが、彼らとて子どもではないのだ。おそらくその手の武器は、私達の打ち合いを眺めながら素振りでもするつもりなのだろう。そうに違いない。深くは突っ込まずに打ち合いを開始したのだがーー最悪の結果が起きた。


「私もメリンダ君との夜間の打ち合いをしてみたい!」

「やっぱり暗闇の中だと視界の制限がある分、違うよな!」

「経験を積むのは早いほうがいいって言うだろ? だから一回! 一回だけ!」



 いい大人が揃いもそろって腕にすがりついて、駄々をこね始めた。

 パトリシアさんは一足先に夜間での打ち合いが出来たからか、満足気だ。ガイナスさんと共に場外で休憩しながら反省会に突入している。二人とも私を救出してくれる気配はこれっぽっちもない。ガットさんは遠くを見つめているし、救助の手は期待出来ない。


「そろそろ帰らないとエドルドさんが心配して……」

「大丈夫、エドルドなら今日会議で帰り遅いから!」


 そして最後の砦、保護者の心配もあえなく陥落した。


 結局、私はガットさんがエドルドさんを迎えに行く時刻まで代わる代わる打ち合いの相手をさせられた。グルッドベルグ兄弟がエドルドさんに怒られたのは言うまでもないだろう。けれど夜間の戦闘の重要性を訴え続け、折れた私は月に一度、グルッドベルグ家にお泊まりすることを提案した。その時のエドルドさんの眉間には皺がくっきり刻まれていた。トランプくらいだったら挟めそうなほど見事な狭間だった。知り合いから託されている年頃の娘を男ばかりのお屋敷に預けたくはなかったのだろう。だがあの家で男女の間違いなんて起こる訳がない。起こるとしたら武器の取り扱いについての間違いだ。夜間だからこそ気が緩んで、視界が遮られて、とのケースを考慮する必要があるだろう。だがその点はグルッドベルグ公爵が責任を持つ、と名乗り出たことで解決した。


 なんだかんだで私のお泊まりを一番待ち望んでいるのは公爵なのだ。

 すでに鍛錬場にはライトを設置しているらしい。

 これで完全に闇に包まれたパターンと、光源があるパターンの両方を再現出来ると熱弁してくれた。ライトは複数、それも光の強さが調整出来るものを用意したらしい。さすがは貴族。お金と行動力の両方を持ち合わせている。



 ーーそしてダメ押しのように、グルッドベルグ公爵が宣言した。



「当家での打ち合いに鍛錬効果が見込まれた場合、兵士達の訓練にも組み込む予定だ」


 城での訓練にも繋がる可能性があると言われてしまっては、エドルドさんはそれ以上断りの言葉を続けることは出来なかった。


「……学生生活に支障のない程度にしてください」

「もちろんだ! 学生の本分は学業にあるからな!」

 エドルドさんが諦めたように額を押さえれば、グルッドベルグ公爵はグッと親指を立てて笑った。


 エドルドさんでも言い負かせない相手がいるんだな~と眺めていた私だが、ガイナスさんからグルッドベルグ屋敷に私専用の部屋が出来たと聞かされた時には同じように頭を抱えることとなった。


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