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82.癒やしの聖女の力を発揮すべき時?

「こんなことも分からないなんて冗談だろう?」」

「田舎から出てきたばかりなもので」

 顔を歪めて震える先生に、先ほどと同じ台詞を繰り返す。


「エドルド=シャトレッドはなぜこんな娘を婚約者にしたんだ……。彼はまだ自暴自棄になっているのか?」

「え?」

「いや、きっとレオン=ブラッカーの娘だからだろう。貴族でもない癖に、あれでもガーディアンの一人だからな」

「レオンさんのこと、舐めてます?」

「は?」

「娘の前で盛大に父親を馬鹿にしてますよね? 分かっていてやってますよね? ということは何されても構わないという意思表示ですよね? 先生になるくらいですから、死ななければ人間再生出来るって知ってますよね? 聖水ならすぐにでも出来ますから、8分殺しくらいしてもいいですよね?」


 疑問を投げつけながら、ポキポキと指をならす。

 解答は求めていない。


 抑圧された環境でストレスが溜まっていた。

 そんな時に勘違いから難題を押しつけられ、レオンさんを馬鹿にされた。ちょっと手が出た所で仕方のないことだろう。いざとなったら癒やしの聖女の力を使用すればいい。神が与えてくれたその力を生かす機会が出来そうだ、と満面の笑みを作って思い切り殴りかかった。



 ーーのだが、その手が先生の頬に届くことはなかった。


「遅いと思って様子を見に来ればなにやってるんですか」

「なんで止めるんですか、エドルドさん」


 私の右ストレートをエドルドさんが止めたのである。

 Sランク昇格相当とは聞いていたが、まさか私の一撃を止めるだけの力があるとは……。死なない程度に、なんて加減しないでもっと強い力を込めれば良かった。


 そもそもエドルドさんが止めなければ!

 思い切り睨みつけるが、彼の鉄仮面のような表情は全く動きはしない。


「暴力沙汰になったら困ります」

「そしたら婚約破棄して出て行くから安心してください」

「そういう問題ではないので、拳を下ろしてください。あなたも、早く謝罪してください」

「申し訳、なかっ、た……」


 腰を抜かして、カタカタと震える先生は恐怖から声を絞り出す。

 けれどそんなの謝罪とは言わない。

 私相手ではなく、レオンさんに謝ってもらわなければ何の意味もないのだ。


「やっぱり一発くらい殴って」

「止めなさい」

 痛みで身体に覚えさせれば、と拳を手のひらに叩きつける私の肩を引き、エドルドさんはへたり込んでいる先生に視線を合わせるようにしゃがみこんだ。


「あなたのことですから私への嫌がらせ目的で突っかかってきたんでしょうが、これに懲りたら彼女に関わらないでください」

「分かった」


 先生はガクガクと震える手をポケットに突っ込み、なにかを掴んだ拳をエドルドさんへと差し出した。


「これを、彼女に」

「ああ。この鍵、今はあなたが持っていたんですね」


 エドルドさんは渡された鍵を手の中で包み込むと、私の手を引いた。

 馬車の中で、学生時代、彼がエドルドさんを一方的にライバル視して突っかかってきていたことを聞かされた。そしてエドルドさんが当主にも、権威のある仕事にも就かなかったことに苛立っていたのだろうということも。


「王都のギルド長は十分権威のある仕事だと思いますけどね」

「彼にとって貴族以外は下々の存在ですから。いえ、つい最近まではほとんどの貴族がそうでした。どんな理由があったとしても私のせいで迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした」

「もう来週から授業に出るつもりはありませんし、あの人が関わってこないならもういいです」


 次にレオンさんを侮辱されたら感情を押さえられる自信はない。

 それどころか顔すら見たくない。それこそ聖水に毒でも混ぜ込んでやれば良かったとさえ思うほど。

 錬金術シリーズの本も学校の教科書にも毒薬の作り方は載っていないが、材料に毒草を追加すれば良い感じの毒薬が完成することだろう。毒殺なんて、レオンさんの名前に傷が付きそうなことをしてやるつもりはないが。


「彼も今回のことをきっかけに学園を去ることでしょう。彼を学園に縛り付けていただろう鍵もなくなりましたし」

「鍵ってなんなんですか?」

「学園のどこかに存在する温室の鍵」

「え?」

「代々学園関係者から選ばれた者の手に渡るものなんです。実際に温室を目にした者はいないので、学園の七不思議になっていますけど」

「へぇ~」


 選ばれたプライドってやつが学園にとどまらせたってことだろう。

 温室を見つけ出したかったのかもしれない。けれどおそらく本に書かれていた手順を踏まなければ到達することしか出来ない。いや、そもそも本の情報が正しければ、温室の鍵は食堂の椅子の裏側についているはずだ。鍵が何本か存在するのか、過去に選ばれた誰かが椅子の裏に張り付けたものが回収されて先生の手に渡ったのか。はたまた彼自身が回収したのか。


 学園の七不思議にカウントされるだけあって謎に包まれている。


 とりあえず鍵も入手したことだし、時間がある時に温室探しを決行することにしよう。


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