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80.無理難題でもチートがあれば突破出来る

 メリンダとしてもロザリアとしても、仕事の受注を止め、早2週間。

 グルッドベルグ家に頻繁にお呼ばれしているため、身体がなまるということはないが、いかんせん対人戦ばかりしていると飽きる。バッサバサと切り捨てたい。若干猟奇的な思考ではあると自覚している。けれど人相手だとどうしても力をセーブする必要があるのだ。何も考えずにただただ剣を振り回し、銃弾をぶっ放し、魔法で一掃したいと思うのは仕方のないことだろう。抑圧された環境下におかれているからこそ、欲望が沸々と湧き上がる。それでも我慢我慢と自分を押さえ続けていた。


 ちょうど中間テスト期間が近かったのが良かった。

 レオンさんの教えに従い、真面目に授業を受け、分からない所は先生に質問する。特に家出期間中の授業内容を重点的に押さえていく。何人かの先生はマンツーマンで補習を行ってくれるという。話には聞いていたが、さすがは貴族御用達の学園。アフターフォローも抜群だ。


 空き時間や放課後を上手く利用して補習を受け続け、今日で最後の科目ーー薬学一般。

 こちらは授業内容についていけない訳ではなく、応用部分で分からない所があったから質問をした所、時間がかかるからと放課後に教室に来るように言われたのだ。


「この薬品が作れなければ単位はあげませんから」



 けれど私を待ち構えていたのは教室で足を組んで待ち構える白衣の先生だった。

 私は質問に答えてもらうために来たのであって、単位認定試験を受けにきたのではないはずだ。単位が決まる期末テストどころか中間テストすら行っていない。なのになぜ単位をどうのこうの言われなければならないのだろうか。

 授業中に見せる優しい表情はどこへやら。鋭い視線はどこか敵視されているようにも見える。


 ドアに一番近い机の上には大量の材料が並べられており、黒板には課題と思われる薬品名が記載されている。


 これが授業でやった薬品ならまだ、裏試験みたいなものかと納得出来るのだが、指定された薬品は私が質問したかった応用問題を解いて生成した薬品を使用した薬品。必要な材料は記載していないのに、途中で必要となる薬品名をわざわざ記載している所を見るに、嫌がらせ目的以外の何者でもないだろう。



 なぜ嫌われているのかは理解出来ないが、課題薬品名には見覚えがある。

 そう、錬金術シリーズで予習済みなのだ。作ったことはないし、作り方は違うけれど「この薬品を作れ」との指示しか与えられていない。つまり作り方は自由。真面目に薬学的手順で作るか、錬金術で作るかはその人の自由なのだ。


 普段ならどうせ他の科目で単位もらえるし、目を付けられないように振る舞おうとする私だが、抑圧された環境下での嫌がらせに我慢出来るほど大人ではなかった。



「材料が足りないので少しお時間頂いても?」

「途中で使用する薬品さえ持ち込まなければいくらでもどうぞ。いや、薬品を持ち込んだ所であなたに作れるとは思いませんが」


 ふんっと鼻で笑われた瞬間、私の堪忍袋の緒が切れた。

 ダッシュで王都の卸し店へと向かい、いくつかの材料を見繕う。店にないものはポイント交換で用意した。アイテム倉庫から小さめの錬金釜を出すのも忘れない。材料と釜を手に、人目に付きにくいルートを通って教室へと戻った。


「早かったですね」

「あまり先生を待たせるのも良くないと思って」

「生成にかかる時間に比べればこれくらい大したことはありませんよ」

「生成くらいすぐに終わりますよ」

「はぁ?」


 嘲笑う先生を横目に、私は材料をポンポンと釜に突っ込んでいく。

 さすがに火の魔法を見せるつもりはないので、火は教室の物を使用した。


 そこから煮詰めていくこと数分ーー課題の薬品『聖水』が完成した。


「冗談、でしょう?」

「そうだと思うのなら飲んで効果を確かめてみては?」

「毒が入っているかもしれないのにそんなこと出来る訳がないでしょう!!」

「生徒に毒を盛られる可能性を考慮している時点で、あなたは教師失格なのでは?」

「ぐっ」


 いくら錬金術シリーズで読んでいたとはいえ、かなり後半になって登場する薬品だ。

 薬学を用いても生成出来るとはいえ、かなり高位の技術をもっていなければ作成することは不可能。手順をしっかりと踏んだ所でちゃんとしたものが作れるかどうか分からない。それが回復薬の最上位に君臨する『聖水』なのだ。普通に買うとべらぼうに高い。最高ランクのポーションの数倍は下らない上、基本時価。Sランク冒険者であるレオンさんは常に何本か持っていたが、店に並ばない日も多いらしい。そんな特別なものを普通の学生が作れるなら、もっと一般に流通していることだろうし、聖水生成技術欲しさに子どもを学園に入学させる商人も増えるだろう。



 ぷるぷると震える先生は、やがて意を決したように瓶を手に取り、中身を一気に飲み干した。

 毒かと疑っておいてなかなか肝が据わっている。

 やけになっているだけかもしれないが。


 幸運にも中身はれっきとした聖水。

 精神的に多大な負担をおったのか、はぁはぁと肩を揺らしながら息継ぎをしている先生だが、肌つやが良くなっている。つるっつるで、目元のクマもなくなっている。まさか聖水にそんな効果があったとは……。ただの回復アイテムではなかったのか。今度にきび出来たらニキビ薬塗らないで、聖水を飲み干そうと心に決める。錬金術を使えばパパッと作れるし、帰ったら使用期限をオーバーしないくらいの量を作り置きしておくことにしよう。


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