76.貴重な友人
昼休み。
お食事会の抽選に外れてしまった私達は中庭でお弁当を広げていた。
私はヤコブさんの特製弁当、ガイナスさんはお肉中心のおかずとサンドイッチ。
見た目の体格差こそあれ、食事量は同じくらいか私の方が多めなので弁当箱の大きさにあまり差はない。むしろ私の方がやや大きめ。たまにガイナスさんが物欲しそうな顔でおかずを見つめてくることがある。そんなときはガイナスさんのおかずかサンドイッチと交換して、と仲良くやっている。グルメマスターの食事会ではおかず交換なんて出来ないから、これは抽選外の日の特権と言えるだろう。
今日も蓋を開けてからすぐに卵焼き一切れとハンバーグ一切れを交換する。
だが抽選外の日の昼食にはもう一つ、お決まりのことがある。
「それでここなんだが……」
「うーん、お兄さん達の速度だと次打ち込む前に責められちゃうと思うから、3手前から型を変えて」
「だがこうすると兄達の得意な型にならないか?」
「全く同じじゃなくてアレンジして打ち込めば、油断が出来ると思うからそこを突くのは? 初めだけで終わらせないように何パターンか作って、今後もどこかで取り入れられるようにしとくの」
「おい」
脳筋のガイナスさんだが戦闘方法の探求については余念がなく、私が打ち合いをした日以外にも相手の動きをノートにまとめているのだ。そして返しに困った時や新たな戦闘法を導き出す時、私に相談してくることが多い。迎えが来るまでの間に話し合うこともあったが、最近は私が仕事をマメに受けるようになったため、放課後の時間の確保も難しくなった。またこちらもやはりグルメマスターの食事会では出来ないので、自ずと抽選外の日になる。
食事を取りながら話し合いをしても十分まとまった結論が出るのは、ガイナスさんがしっかりとノートにまとめているからだろう。字も綺麗で読みやすい。前世の学生時代、色を使い分ければ見やすいノートになると信じてペンケースをカラーペンでパンパンにしていたこともあったが、黒・赤・青の三色でも十分見やすいノートが完成することを思い知らされた。転生して初めて三色ボールペンの合理性を理解することとなった。
けれど単純にテンション上がる・上がらないで考えると前世の私では三色でテンションは上がらない。
特に苦手な教科ではカラフルに彩らなければ睡魔に支配されて、テスト前に頭を悩ませることになっただろう。女子中高生は合理性に生きていない。どんなに綺麗なノートを見せられた所で興味がなかったら参考書と同じだ。自分のご機嫌取りは大事なのだ。
今世の私も三色ノートを前に興味を持てているのは、単純にこれがガイナスさんの戦闘ノートだから。
力で大抵のことはどうにか出来てしまう私だが、グルッドベルグ家の人達との打ち合いをしていると自然と動きや交わし方にも興味が出てくるのだ。
「実践で試してみたいんだが、師匠、今日も仕事か?」
「うん。でも早めに調整して打ち合い出来る日作るわ。いつが空いてる?」
「俺は今週末に夜会が一つと、来週の中頃にお茶会がある」
「おい」
「あ、休み? ノート取っとく?」
「次の回で分からなくなってたら見せてもらってもいいか?」
「わかった」
私の仕事は冒険者業で、エドルドさんが調整してくれているので今のところ授業を休むということはないが、ガイナスさんはそうはいかない。時々、家の事情でこうして休むことがある。そんなとき、他に知り合いらしい知り合いがいない私は一日中一人で過ごすことになるのだが、案外不便は感じない。
貴族ばかりの学園で庶民が一人で歩いていれば虐めが起きてもおかしくはないと思うのだが、そこはやはりグルメマスターが一枚噛んでいるらしい。そのおかげで私は虐められることもない。平等の精神が根付いているのだ。だったら友人も想像より簡単にできそうなものだが、積極的に作ろうとは思えなかった。なにせ私は普段、脳筋のガイナスさんと一緒にいるのだ。会話の内容の7割が戦闘。残りの3割が授業とご飯、その他である。一般人が混ざった所で会話に参加出来るはずもない。また、私がガイナスさんと学園生活を共にしないという選択肢もない。彼は一年学年が違うため、三年生になったらぼっち生活が一年続くことになることは想像にたやすいが、それでも私は自称弟子と一緒にいることを選んだ。ガイナスさんは私のことを師匠、師匠呼ぶが、この世界で一番私の友人らしいのは彼だ。脳内で勝手に友人認定してしまっているほど。
レオンさんの次か、レオンさん・エドルドさんの次くらいに素でいられる存在かつ保護者でもない。
ステータスやスキルを明かしたいとは思えないが、ガイナスさん、いやグルッドベルグ家の人達には明かす必要もないだろう。けれどバレることを恐れてもいないーーそんな貴重な存在なのだ。
グルッドベルグ家は揃いもそろって脳筋だがいい人達で、彼らとの出逢いには感謝している。




