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75.封蝋と家紋とファザコンと

 夕食後、私は自室の机と向き合う。

 あっという間に週末を迎え、やることといえばたった一つ。

 レオンさんへの手紙を書くことだ。

 特に今回は学園復帰してから初めての手紙だし、現状報告を多めに。


 グルッドベルグ家の当主、アスカルド家の当主と友人になったこと。

 学園の勉強はついて行けそうで、学園ではガイナスさんと仲良くやっていること。

 そしてエドルドさんと王都に新しくオープンした定食屋さんに行ったこと。


 ガイナスさん以外、知り合いらしい知り合いはいないことは伏せて置いた。勉強にはついていけそうだが、グルメマスター信仰者トークにはついていけそうもない。今はまだ相手がガイナスさんだから、グルメマスタートークも問題なく続いているだけで、狂信者だったら無理だ。おそらく学園には狂信者の方が多いのだろう。統率は取れているが、グルメマスターの周りには常に取り巻きがおり、授業中の席順などは取り巻きが近くを固めていることが多い。

 それでも食堂の席はちゃんと抽選に参加している所は、平等を重要視するグルメマスター信者らしい。

 それでも一応友達は出来たし、初めて出来た友達二人が年齢層が高めなことはレオンさんも突っ込まないだろう。

 いや、若い男の子を初めての友人と紹介するよりもずっとマシかもしれない。不純異性交遊がどうのこうのと一覧まで作ってしまうほど過保護なのだから。もちろんアスカルド公爵からプロポーズまがいのものをされたことは伏せておく。そんな情報を与えてしまったら、手紙が届いた翌日には王都で仁王立ちをしていることだろう。そんなことになったらレオニダさんに申し訳が立たない。

 ただでさえ私の捜索で時間を取らせてしまっているのだ。近々南方の仕事を受けて、少しでも貢献するくらいはした方がよさそうだ。

 今度エドルドさんに相談してみようと心に決め、レオンさんの近況を気にする文を綴る。特に食事と生活面。食事は暴飲暴食していないか、洗濯はしっかりと出しているか。冒険者である以上、同じ服を何日も続けて着るなとは言わないが、脱いだ服は洗濯。汗はちゃんと拭いてから寝ることと文字の下に二重線を引いて強調する。

 山暮らしをしていたお前が言うか? と思われるかもしれないが、あんな生活が精神衛生上良くないことは体験者である私がよく知っているのだ。


「落ち着いたら南方に遊びに行きますから、その時に大掃除で時間潰させないでくださいね。また一緒にたこ焼き食べましょう、っと」


 また枚数がかさばった手紙に通し番号を付けて折りたたむ。封筒の中にいれ、席を立った。

 封のされていない手紙を手に、エドルドさんの部屋へと向かう。

 前回は封蝋を頼んでしまったが、封蝋セットでも買ってくれば良かったかもしれないと今になって後悔する。

 手紙を送ってもらう手間はどうしてもかけてしまうが、頻繁に手紙のやりとりをするとなれば封するくらい自分で出来るようになった方がいいだろう。


 封蝋セットって高いのかな?

 火は魔法で代用出来るし、スタンプ部分は錬金術でどうにかなるので、主に必要となるのは蝋だけなのだが、専用のものとなるとそこそこのお値段がするかもしれないーーとなるとなおさら自分で封をするべきだろう。


 そもそもブラッカー家って家紋あるのかな?

 もしなければ封蝋に押すスタンプ? の模様は家紋以外でもいいのだろうか?


 そこも踏まえてエドルドさんに確認を取った方がよさそうだ。

 コンコンコンと軽くノックをし、エドルドさんの部屋へと入る。


「欲しいもの、出来たんですか?」

「欲しいもの、というか教えて欲しいことが出来ました?」

「私が教えられることなら」

「封蝋の押し方教えてください」

「ああ、そんなことですか」

「あと、レオンさんの家って家紋あるのでしょうか?」

「レオンは平民ですし、ブラッカー家の家紋はありませんよ」

「その場合、押す柄って好きなものでいいんですか?」

「構いませんが、あなたは我が家の家紋を押せばいいでしょう」

「ないなら私がデザインしたものを押したいんです!」

「あなたが?」

「はい!」


 家紋がないなら、私達親子を示すマークがないのなら作ればいい。

 ドラゴン殺し親子に相応しいドラゴンのマークが入ったマークを、私の大剣と共に描くのだ。人形作りで磨いた器用さでスタンプくらいものの数時間で出来てしまうだろう。今日は押印方法だけ教えてもらって、今度の手紙から作ったスタンプを押せば良い。封筒に一緒に入れられるようだったら同封して。一方的な行動ではあるが、別に公式なものとして使って欲しい訳ではないのだ。ただロザリア・メリンダ姉妹に渡す手紙に使ってくれれば。ううん、使ってくれなくてもいい。ただ私がブラッカー家の名前と、レオンさんと私をイメージしたスタンプを使うことを許してくれればそれでいい。


「…………ロザリアさん、レオン好きが加速していませんか?」

「してますよ」

 あきれ顔のエドルドさんを真っ直ぐと見据え、曇りなき眼で答える。


 相当なファザコンか、デザイン職志望か、はたまた印鑑師になりたいという夢でもなければ、わざわざ封蝋に押すスタンプを自作したいなんて言うはずがない。


 親離れを目指していたのは、家出をする前までの話。

 今ではどこに出しても呆れられるだろう立派なファザコンだ。


「はぁ……。教えてあげますから、こっちへ来なさい。今日はこの手紙に押してしまうので、今度から自分で作ったものを使うといいでしょう」

「ありがとうございます」


 頭を下げ、エドルドさんに封の仕方を教わる。

 翌日、学園から帰宅をすると私の机には封蝋用の蝋・シーリングワックスが置かれていた。


 送り主はエドルドさんだ。

 王都で欲しいものはないと連呼していた私だが、次回からは自分で購入することにして、今回はありがたく受け取らせてもらうことにした。


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