73.デートではなく買い出し
ガイナスさんに別れを告げ、放課後はクエスト先へと直接向かう。
ギルドが用意してくれた制服はやはり動きやすい。大剣ブンブン振り回しても、崖から飛び降りても中身がチラリなんてことはない。どういう原理なのかは不明だが、乙女としてはありがたいものだ。
それよりも頭を悩ませるのは、週末の予定のこと。
「必要なものねぇ」
つい返事をしてしまったものの、必要なものが思い浮かばないのだ。ノートや文房具などの学校で使うものは一式揃えて貰ったものがまだまだ残っているし、服は必要ない。武器や防具は交換するか錬金するので買いに行く必要がない。そうなると残るは食べ物関連。
買い物というよりも食べ歩きになりそうだ。
わざわざ週末に時間を取る意味がない上に、速攻で終わりそうだが、まぁ一緒に外出することに意味があるのだろう。早く終わればその分、お屋敷でゆっくりする時間が出来てエドルドさんも嬉しいだろう。
帰りがけにいくつか目星を付けておこう。
エドルドさんのことだから、やっぱりグルメマスターの店がいいのかな? なんて考えながら、バトルアックスで近くの木々を伐採し、ストームで木材を集めていく。
今回の依頼は大量発生したトレントの討伐。
メリンダでも受注出来るCランククエストのはずなのだが、量が多い。明らかにAランク相当だ。
おそらく放置している間に数が増えたけど、ランク昇格処理をするまでの時間が勿体ないという理由だろう。どうせ昇格した所で私の所に持ってこられるのは分かりきっているので構わないのだが、報酬が高めに設定されている時点で気づくべきだったのだろう。
いつの間にか厄介事担当みたいになっているのはなんとも言えないが、初めにCランククエストに出されていただけあって、特に難しいクエストではない。
火系の魔法か、魔術具を保有していれば瞬殺だ。
だが今回、私はそれらを使用するつもりはない。
なにせトレントの木材は最高級の木材として取引されており、冒険者ギルドではなく建築ギルドに持ち込むと非常に高値で買い取ってくれるからだ。
今回、山の一区画全てをトレントが占めているため、報酬よりも買い取り価格の方が高くなりそうだ。
もちろん長さや状態などによって値段は左右されるが、細かいポイントはすでにレオンさんに教え込まれている。なるべく枝の根元を垂直に切り落とすのがポイントだそうだ。胴体部分はなるべく傷つけず、背負える範囲で持ち込むといいとのこと。私の場合、レオンさんよりもずっと背が低いため、1.5m間隔で切っていく。
またトレントの木材は錬金術シリーズの後半でも登場し、様々な家具を作るのに適している。ちなみに錬金術で作成したトレントの机・椅子セットはレオンさんがたいそう気に入り、ホテル内で使用していた。今は王都の家に置かれている。以前、建築ギルドに加工したものを持ち込めば高く売れるかもしれないと提案したのだが、腕の良い職人を知っていると思われたら後が面倒だから、と却下されてしまった。
金策には持ってこいだが、特に金に困っていないなら面倒事に首を突っ込むべきではない。
だから今回も加工品を売ることはなく、素材として持ち込む用のものをバッサバッサと刈り取っていく。
「トレントでがっぽり!」
ストームでまとめた木々に縄を巻き付けて、2束ほど背負う。本当は全部売りさばきたいのだが、少女がトレントの木材を大量に背負って持ち込めば目立って仕方がない。
残りはアイテムボックスに入れて、王都の建築ギルドで引き取って貰う予定だ。
週末の食べ歩き代くらいにはなっただろう。
るんるんと上機嫌で仕事を終え、報酬と木材の売却金を得る。
その足で王都へと戻り、翌日もその次も学園終わりに仕事先へと向かった。
そしてエドルドさんとの買い出しを翌日に控えた日の昼のこと。
今日も無事? グルメマスターとの食事会の権利を得た私達は厳かな昼食を取り、次の授業へと向かっていた。そんなとき、ガイナスさんはいつものように話を切り出した。
「ところで師匠、明日空いていないか? 父上の休みが取れたんだ。よければ手合わせをしたい」
「ごめんなさい。明日はエドルドさんと買い出しをする予定なの」
「買い出し?」
「必要なものもあるだろうって。でも多分王都で食べ歩きをすることになると思う」
「ああ、デートか。なら邪魔しちゃ悪いな」
「デートじゃなくて買い出し」
デートとは仲の良い二人が出かける行為のことを指す。
夫婦に恋人、恋人未満など関係は様々だが、保護者(仮)と行く買い出しはデートにはならないだろう。
「? 婚約者と出かけるんだからデートだろ?」
「買い出しだって」
首を捻るガイナスさんの言い分も分からなくはない。
通常、婚約者との外出はデートに換算されるものなのだろう。もしくは社交か仕事。だがその三つのどれかで言えば、私達の買い出しは社交に当たる。
婚約者として仲いいですよアピールをしつつも、知り合いとしての仲を深めていくのだから。だから決して私達がするものは、デートなんてものではないのだ。




