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6.お祝いのケーキにろうそくは必須

 ギルドカードを首から提げてギルドを出れば優しそうな笑みを顔面にぺっとりと貼り付けた先輩達が私を出迎えてくれた。


「お嬢ちゃん、冒険者になったばかりなんだって? 俺たちのパーティーでよければいれてやるよ」

「いやいやそんなおっさんばかりのところよりもうちのパーティーの方がいいって。うちは女もいるけど、男所帯じゃ不便だろうよ」

「なら、私のところのパーティーにすべきね。男なんて一人もいないんだから」

「それなら同じくらいの年のメンバーがいるうちのパーティーがおすすめだぞ!」


 それぞれにアピールポイントを並べてはうちに入れと勧誘してくる。けれど全員揃って親切からの申し出でないことくらい一目瞭然。顔を見れば大体分かるけど、その他にも判断基準がある。


 例えばこちらを眺めつつもスルーしていく、真っ当そうな冒険者さんのしらけたような視線とか。

 遠くて何言ってるのか聞こえないけど、明らかに彼らを毛嫌いしてそうな表情を浮かべる冒険者さんとか。


 ご愁傷さまとでも言いたげに手を合わせているお兄さんに至っては助けてくれたっていいと思う。だが手を出さないのが暗黙のルールなのだろう。


 弱肉強食の世界なのか、面倒くさいから関わらないのかは分からないけど。

 どちらにせよ自力でここから脱するしか道はないようだ。


「私、しばらくはソロで戦っていこうかなって」

「は?」

 一掃するためにそう答えれば誰もが目を丸くして、口をぽかんと開いた。そしてしばし制止した後で堰を切ったかのように大声で笑い始めた。


「それはないぜ、嬢ちゃん」

「いくら何でも無理よ~」

「ここまでは難なくこれたようだが、さすがに死ぬぞ」

「初めは先輩に頼ろうぜ? な?」

「少し頑張って、駄目だったらその時は頼らせてもらえると嬉しいなって思ってるんですが……」


 いくらチートステータスを持っているとはいえ、ガイドブックを所有しているとはいえ、これから壁にぶち当たることもあるだろう。


 自分を過大評価しすぎている可能性だってある。

 けれど私の勘が『この人達よりは確実に私の方が強い』と告げている。


 それに無理せず初めは薬草狩りとかリスクの少ない仕事をしつつ、今まで通りざくざくとゴブリンを狩って当面の生活資金を稼げば何の問題もないだろう。


 怪しい人達に頼る必要はない! を何十枚ものオブラートでがっちりと包んだ言葉は、自分の力を過信しているお嬢ちゃんのそれに聞こえたらしく、全員が気を悪くすることなく立ち去ってくれた。


「その時は気軽に声をかけてくれよ!」

「無理だけはしないことね!」

 ――なんていい人ぶった言葉を残していった訳だが、とりあえず立ち去ってくれただけでもありがたく思っておくべきだろう。



 それにしてもこの後どうするべきか。

 本当ならばここから町を散策して、現地のご飯を堪能しつつ、今日から泊まる宿を見つけたいところだがどうも予定通りには進ませてくれないようだ。周りを見渡さずとも、私を狙う人影が少なくとも5つほどあるのは容易に分かる。銀行口座に仕舞ってあるから手持ちなんてほとんどないんだけど、それでも子どもを倒せば獲得出来る金額と考えればなかなかのものなのかもしれない。


 登録可能場所を絞ったことによって、登録場所が初心者狩りの場所にでもなっているのだろうか。


 異世界治安悪すぎでしょ!


 ギルドの冒険者がこんなだと、気軽にお店や露店でご飯を食べることも出来やしない。ましてや宿なんて寝ている間に身ぐるみ剥がされる可能性大だ。宿の場合はいつものように結界を張ればいいんだろうけれど、わざわざ宿代払った上で結界を交換してポイントを消費する意味が分からない。


 二重払いは勿体ない。


 ならば残された選択肢は昨日までと同じキャンプ生活。

 折角人里に降りてきて、ふっかふかじゃなくてもベッドで寝れると思ったんだけどなぁ。

 誰にも聞こえないようにひっそりとため息を吐いて、山へ向かって歩き出す。警戒心0を装ってですたこらさっさと歩き続ければ、後ろをついてくる。


 依頼を何も受けていないのにいきなり山へと向かい始めたらおかしいと思ってくれるかも? なんて少しは期待したのだが、残念ながら一人も脱落者はいない。


 どれだけ警戒心がないんだろう。

 子どもを狙ってたら自分が罠にかけられちゃいました~なんてラノベや漫画の悪役を罠に引っかける常套手段なんだけど……。その可能性も含めた上でついてきてるのかな? ってそこまで私が心配する義理もないか。


 ある程度ひらけた場所へと進んだところで、くるりと身体を反転させる。


「皆さんご存じとは思いますけど、手持ちのほとんどは銀行に預けちゃったので今はほとんどないんですよ~。なのになんでここまで着いてくるんですか? 答えてくださいよ、っと」


 煽るように声をかけて、彼らが潜んでいると思わしき場所めがけて足下の石ころを投げつける。身体強化はかけていないが、ステータスがステータスだけになかなかのスピードだ。前世だったらこのスピードの球を投げられるってだけで甲子園まで進めそうだ。



 プロどころかメジャーからもオファーが来ちゃうかも!? 

 そもそもこんな剛速球をキャッチ出来る相棒を見つけるのが困難だろうけど。



 実際、受けるどころか避けきれなかったストーカーさん達は次々に音を立てて倒れていく。手応えがまるでないのだが、もしかしてここにいるの全員索敵専門だったのかな?

 それとも私が弱い人の居場所しか探れてないだけ?

 だが道中、崖を降りる時に交換したロープをバックから取り出している間もこれといったアクションはない。


 逃げられた?

 いや、ここは追い払えたと前向きに考えよう。

 取り出したロープで全員をぐるぐる巻きにして近くの太めの木に縛り付けておく。魔物の餌食になるかもしれないが、運が良ければ仲間に救出してもらえるだろう。


 こればかりは運だ。

 私が冒険者達のカモにならなかったのも、こうして対処出来たのもたまたま前世の記憶があり、人よりもステータスが高かったからに過ぎない。


 この世界に転生したこと自体は不運だったのか幸運なのかは分からないが、今日の私に限って言えばとても運が良い。


 でも彼らは知らない。

 悪巧みをしたことで神様の怒りをかったかもしれないし、私の近くに来たことで全部運を吸い取られちゃったかもしれない。


 どっちにせよ死んじゃったらアンラッキーってことで!

「油断は駄目ってギルドの職員さんも言ってたでしょ。人生、弱肉強食+運! 生き残るか上手く転生出来るといいね!」

 それだけを言い残して、その場を立ち去る。


 ガサゴソと音が聞こえた気がするけれど、敵か味方かそれ以外か。

 私の知ったことではない。


 それよりも今日のご飯は何にしようかな~。

 冒険者としての門出を祝って小さめの丸いショートケーキでも食べちゃおうかな~。


 ろうそく立てようかな? なんて考えながら今日のキャンプ地を探すのだった。


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