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63.幸せなハンバーグ

 錬金を繰り返し、ブンブンと剣を振る。

 そろそろいいかな~と思いつつも、最後は収納にある中で一番大きな魔石を取り出して出来を確かめた。一振りでパッカリと割れた魔石がゴン――と音を立てて落下した時だった。


「……お前、なにしてんだよ」

「試し切りですが何か?」


 会いたくない人ランキング堂々の第一位が現れた。

 どうやら馬車に乗ってやってきた客人の正体は義弟さんだったようだ。

 私が帰ってきたと聞いて、追い出しに来たのだろうか。

 銀髪の少年に煽るように告げて大剣を鞘へと仕舞う。


「さすがにそれは無理があるだろう!!」

「真実ですので」

 授業終わりに空き教室に連れ込むのもどうかと思うが、乙女の部屋にノックなしで入室も一般男子としてどうかと思う。家族や幼なじみならいざ知らず、義弟さんは他人である。接触回数も片手で十分足りるほど。


 一体どんな教育を受けてきたのだろうか。

 冷めた視線を向ければ、義弟さんを挟んで向こう側にも冷めた視線を送る人物が若干一名。


「ジェラール。あなたはなぜ、私の婚約者の部屋を許可もなく開けているのですか?」

「だって兄貴が心配だって言うから」

「私の婚約者なのですから、私が確認します。あなたは帰りなさいと言ったでしょう!」

「だって……」

「だっても何もありません。帰りなさい」

「ううっっ」


 至極真っ当なお叱りを受けた義弟さんは瞳を潤ませる。

 潤んだ瞳でキッとこちらを睨み付けてくるが、今回もやはり彼が100%悪い。スッと視線を逸らせば「兄貴なんて嫌いだ!!」と捨て台詞を吐いて逃走した。ダダダと音を立て、階段を降りていく。やはり貴族の令息とは思えない。エドルドさんは跡取りを辞退したと言っていたが、彼が次期当主になる領地の民達が不憫でならない。

 学園に通う三年間で少しは大人になるといいのだが……。

 今回の家出で少しだけ大人になった私は、まだまだ子どもの少年の成長を心から祈るばかりだ。


 窓の外からは馬車が発進する音が聞こえる。

 同時に「メリンダ=ブラッカーめ、覚えてろよおおおおお」との叫びが聞こえるが、無視だ無視。

 覚えてろも何も、私は学園生活に一番不要な彼のことを記憶から抹消したい。

 貴族は貴族同士、仲のいいお友達とでも学園ライフを堪能していればいい。


 変にライバル視してくれないといいのだが……。

 遠くを見つめていれば、エドルドさんはスタスタと足を進めて私の真っ正面に立つ。


「それで、いつ帰ってきていたんですか?」

「一刻ほど前ですね。誰か来ていたようなので、部屋で待機していました」

「気にしなくても良かったんですよ」

「すみません、言い方が悪かったですね。面倒事に巻き込まれたくなかったので」

「その厄介事に私は長い間、捕まっていたのですが?」

「エドルドさんは兄弟でしょう?」

「腹違いの、がつきますけどね」

「慕ってくれているんだからいい弟さんじゃないですか。……出来れば私は今後も関わりたくありませんが」

「それは諦めてください」


 長いため息を吐きながらもしっかりと付き合っている辺り、そこまで仲は悪くないのだろう。義弟さんの方も「嫌いだ」と捨て台詞を口にするが、エドルドさんが大好きなのが透けて見える。

 私に絡んでくるのだって、半分以上はお兄さんに構って欲しいからだろう。残りは嫉妬。一緒に暮らしているのが『ロザリア』であれば義弟さんの態度も変わりそうな気がしなくはないが、なぜ彼がロザリアと会いたがっているのか分からない以上、変に接触もしたくはない。


「食事、出来ていますけどどうします? 剣の調整を続けるようでしたら終わるまで待ちますが」

「もう終わったのでご飯食べます! お腹ペコペコなので!」


 へこんだお腹をさすってから大剣をベッドサイドに置けば、エドルドさんは「行きましょうか」と身体を反転させる。けれどドアから先に進み出すことはしない。ドアの近くでこちらを窺ってくれている。

 レオンさん滞在期間にすっかりと元通りどころか、エドルドさんとは少しだけ距離が近くなった。まだレオンさんと同じ、とまではいかないが、彼が私のことを気にかけてくれていることは伝わってくる。

 だから私もトトトと駆け足で寄って「今日のご飯なんですか?」となんてことない話題を投げる。今までは話題提供はエドルドさんからされることが多かった。

 彼からの問いかけに、私が答えてーーといった感じだ。

 けれどあの一件で、私ももう少しエドルドさんのことを知りたいと思えた。迷惑をかけないように、なんて隠し事をし続けていたら多分一向に先に進めないような気がする。だから私は怒られるのを、呆れられるのを覚悟で私をさらけ出そうと決めたのだ。


 レオンさんにもそうしたように。


「今日はハンバーグです。昨日、好物だと言っていたでしょう」

「覚えていてくれたんですか?」

「そりゃあ昨日のことくらい覚えてますよ」

「まぁそうですけど、気にしてくれたのが嬉しいんです」

「そう、ですか……。好きなだけ食べなさい。足りなければまだまだ作るとヤコブも張り切っていますから」

「はい!」


 鉄板に横たわるハンバーグにナイフを差し込み、一口サイズよりもやや大きめに切ったものを口いっぱいに頬張る。噛めば噛むほどじゅわっと弾けるような肉汁と旨みが広がっていく。



「ひあわへ」

 頬を押さえながら呟けば、正面に座るエドルドさんは少しだけ頬を緩めたような気がした。



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