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61.お揃い

 それからレオンさんは数日ほど王都に滞在した。

 どうやら私に会いに来るために休暇を貰っていたらしい。

 王都の家に寝泊まりしている間に「帰りたくねえけど、帰らなきゃな~」とぼやきながら教えてくれた。

 念願のたこ焼きをくるくると回しながらよく許しが出たな~と思えば、レオニダさんの計らいらしい。

 ハフハフと口の中で冷ますレオンさんに麦茶を差し出せば一気に煽って、無言でコップを差し出してくる。そこにトクトクと音を立てて注げば、それもすぐ空になった。けれど今度差し出されたのはコップだけではなく、お皿も。


 たこ焼きを気に入ったらしい。

 じいっとたこ焼きを見つめるその瞳に、言葉なんてなくとも理解は出来た。

 焼きあがったたこ焼きをポイポイっといくつか乗せれば、口に入れ、あつうううと声を漏らした後に「行ってこいって言われたんだ」と話してくれた。

 レオニダさんの腰はまだ完全に治った訳ではないが、だいぶ楽になっているようだ。魔物の動きも安定しており、多少なら元々南方にいる冒険者達だけで対処は出来るからと背中を押されたのだという。

 多分、凄く落ち込んでいたのだろう。

 上げて落とされた分、初めのロスよりも反動は大きかったのだろう。ご迷惑をおかけしたお詫びとして、錬金術で腰痛薬を生成する。飲み薬と貼り薬の両方を多めに作って、紙袋へと入れた。レオンさんに「これレオニダさんに渡してください。ここ入れておきますからね」と告げれば「さすが俺の娘」と白い歯をニッと見せつけるように笑った。


 王都を旅立つ直前には約束だった絵本を買ってくれた。

 初めて入るこの世界の本屋さんは想像以上に量とジャンルが揃っていた。学園の図書館ほどの冊数も、敷地面積もないが、もちろん絵本も揃っている。

 お取り寄せを頼むことも出来るのだそうだ。

 注文・受け取りカウンターがレジとは別に用意してあるくらいだからお取り寄せを頼む人も多いのだろう。仕切りとして使われているカーテンの隙間からはいくつもの本棚と棚に差された本が見える。

 また興味がある本を見つけたらこの店に足を運ぶことにしようと決め、絵本コーナーへと足を進める。

 やはり『救国物語』は人気作品のようで、表紙が見えるように立てられたものとは別に5冊ほど棚差しになっていた。レオンさんはその中から二冊取り出すと、レジへと向かう。


 なぜ二冊なのだろう?

 私が首を傾げれば、2袋に分けてもらったもののうち一つを手渡してくれた。


「こっちはメリンダのな。で、こっちはロザリアの。姉妹とはいえ、別々のが欲しいだろ」

 その言葉に余計分からなくなる。

 なにせレオンさんはメリンダとロザリアが同一人物だと知っているのだ。


 決して安くはないものをなぜ?

 疑問に思ったが、すぐに答えは出た。


「これは今度ロザリアに会った時に渡そう。それまで俺が持っておく」

 そう告げたレオンさんの表情は竜装備を手にした時と同じだった。


 お揃いだな、と笑った顔が妙に懐かしく思える。

 ロザリアの分じゃなくてレオンさんの分でしょ、なんてわざわざ言わない。

 代わりに馬車乗り場へと向かう途中に見つけた露店で二本のミサンガを購入した。二本とも全く同じもので、赤とピンクの紐で編まれている。


「これ、ロザリアさんに渡してください」

 自分の腕に付けてから、小さな紙袋に入れられただけのそれを手渡す。受け取ったレオンさんの頬はすっかり緩んでいた。わざわざ口に出さずとも、レオンさんには二つの色の意味が伝わったようだ。


 手首になり、足首になりつけてくれればいい。

 恥ずかしいなら付けなくてもと付け足そうと思ったけれど、止めた。だってそんなことを言ったら、私が恥ずかしくなりそうだから。


『ロザリアのミサンガ』を大事そうにしまうレオンさんに行きますよ、と声をかけて今度こそ馬車乗り場へと向かった。




「定期的に連絡して、顔見せろよ。後、家出したくなったらまず俺の元へ来ること。いいな?」

「はい」

「なんなら今からでも転移場所の登録に来てくれても……」


 ここまで来て、まだ言うかと呆れてしまう。

 はぁ……とわざとらしいため息を吐いてから、真っ直ぐとレオンさんを見据える。


「エドルドさんが受講手続きを済ませてくれているみたいなので、週明けからまた学園に戻ります」


 私が姿を消してから数日後が受講科目手続きを行う日だったのだが、エドルドさんはとりあえず第一週で出席していた科目のほとんどに受講手続きを取ってくれたらしい。

 前世では必ず生徒自身が行う必要があったが、今の私が通う学園は貴族が多いため、使用人が手続きをすることもあるのだとか。それに忙しい日々を送る貴族にとって数週間ほど学園へと足を運ばないことはよくあるのだそうだ。必要ならば補習を頼むことも出来るとのこと。しかもマンツーマン。さすが入学にお金がかかるだけあって、アフターケアは万全のようだ。

 それにしてもエドルドさんには馬車の中や食事の時に学園でのことを話してはいたが、まさか出席した科目全て覚えられているとは思わなかった。しかも渡された時間割からは、受講をするつもりはない、と告げたものはしっかりと抜かれている。もちろん受講予定のなかったものもいくつか含まれているが、エドルドさんとて超能力者ではない。

「無理して全てに足を運ぶ必要はありませんから」なんて言っていたが、有り難く全ての科目に足を運ばせてもらうことにする。

 できれば『植物学』も外しておいて欲しかったなんてワガママは言わないのだ。



「そうか……。だが事前の連絡なんて寄越さなくても、いつでも遊びに来てくれて良いからな!」

「わかりました」

 名残惜しそうなレオンさんに、心配するなと笑みを浮かべ、馬車乗り場まで見送った。



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