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50.お仕事お疲れ様です

 翌日、朝食に遅れてやってきたエドルドさんは今の今まで用事を済ませていたようだった。

 昨晩のことは一切話さず、もくもくと食事を口に運んでいく。

 今日はエドルドさんの好物、ヤコブさん特製フレンチトースト ~メープルシロップ追いかけ~なのに、頬一つ動きやしない。それどころか食べ始めてから一度も紅茶に手をつけていない。

 たった一ヶ月ちょっとしかエドルドさんと食事を共にしていない私でも、これはかなりの重症だと判断できてしまうくらい異様な光景だ。

 よほど昨日の用事が堪えたのだろう。

 大人って大変だな……。

 疲労が溜まっているのだろうエドルドさんに思わず同情の眼差しを向けてしまう。

 私は仕事が終わって帰ってきて更に朝まで仕事なんて出来る気がしないので、老後のためにお金は貯められるだけ貯めておこうと心に決める。


 そういえばレオンさんってあんまり貯金しているイメージがないのだけど、大丈夫かな?


 同じ仕事をこなしてはいるものの、懐事情は分からない。

 私と出会う前に稼いだお金やSランク冒険者として呼びつけられることもあるし、気軽に王都に家を買うくらいの貯金はあるのだと信じたい。

 だが今回のように定期的に莫大なお金を躊躇なく使っているとも限らない。

 Sランククエストは入るお金も多いが、出るお金も他のランクと比べれば大きい。私には不要だが、レオンさんは武器や防具の整備を定期的に行い、新調することもしばしば。戦う魔物によって普段とは異なる装備を使用することもある。

 いくらSランク冒険者には引退後にも仕事が与えられるとはいえ、いざという時のために、私も余分なお金を用意しておいた方がいいだろう。


 それにしてもこの世界って高齢者支援サービスってあるのかな?


 力には自信があるからある程度は私だけでも出来るかもしれないが、一人出出来ることには限界がある。

 身動きが取れない状態になれば、私もそう長くは家を開けられない状態になるかもしれないし……。

 介護人形の導入を目指して、レオンさんが動けなくなる前に人形を操る精度を上げていきたいものだ。


「ロザリアさん、どうしました?」

「え?」

「眉間に皺が寄ってますよ」

「あ、すみません。何でもないです」

 自分の老後よりもレオンさんの老後を心配していた私の眉間には皺が寄っていたらしい。

 慌てて右手で眉間をぐりぐりと強めに撫でて皺を伸ばす。


「義弟のことなら、同じ事は起きないと思いますので安心してください」

「義弟さん? 何のことですか?」

 なぜここで義弟さんが出てくるのだろうか。

 いきなりの登場に思わず首を捻る。


「昨日教室に連れ込まれたのでしょう」

「ああ、その件ですか! それなら来週以降あの授業には出ないようにしますから何の心配もありませんよ」

「今回は何事もなく済んだようですが、あなたはもう少し危機感を持ってください」

 どうやらエドルドさんは私は義弟さんのことで悩んでいるだと思っていたらしい。

 だがその一件はすでに私の中で解決済みだ。

 それに危機感と言っても、私は一般人であれば簡単にいなせるだけの力を持っているのだ。どこをどう警戒すればいいというのだ。そりゃあ力の調整は気をつける必要があるだろうけど、事前にすべき警戒とはまた別の話だ。


 エドルドさんが何を心配しているのか分からないが、適当に相づちを打っておく。


「はぁ……」

 けれどそれに返されるのはエドルドさんのあきれ顔とため息で。仕事に出る彼と同じ馬車に乗って学園へと向かう最中も、やれ気をつけろだの警戒心を持てだの懇々と説かれてしまった。


 仕事から帰っても子どもの心配をしなければいけないなんてエドルドさんも大変だな……。


 レオンさんから預けられたという責任があるのだろう。

 今度から余計なことを話さないでおこう。

 エドルドさんのお説教まがいのそれを真面目に聞いているふりをしながら「はい」「はい」と首を縦に振る。

 エドルドさんがギルド付近で馬車を降りるまで適当に聞き流して、一人になった馬車の中で『学内での報告は無難な話のみ!』と脳内メモに書き記す。


 そんなに警戒すべきことなんてない。

 義弟さんの件は同じ授業を受講するのを避ければいいだけ。

 授業数は多いし、早々同じ授業に当たらない。

 そんなことを思っていた私だが、学園へ降り立った数時間後、エドルドさんの言いつけを真面目に聞かなかったことを後悔することになる。


 まさか警戒すべき相手が義弟さんただ一人ではないとは予想もしていなかったのだ。


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