45.謎の書物の中身はやはり謎が多い
『運命の相手を探せ!』と書かれた書物はガイドブックと同じ大きさだった。指示書にしては大きく、かといって攻略本というには表紙がシンプルすぎる。
今時、真っ白の背景に黒字、それもゴシック文字で書いただけの書物など買う人はなかなかいないだろう。
中身が分かっていればまだしも、これがシュリンクかけて本屋さんに陳列されていたら私は買わない。
タイトル以外にも何か提示すべき情報があるだろう、と呆れてしまいそうだ。だが私が購入前に知らされていた情報はタイトルと交換に必要なポイント数のみ。
返金ならぬ返ポイントは出来ず、リサイクルに突っ込めば一部しか還元されないというなかなかリスクのある購入方法で、前世の私だったらまず試さないだろう。
だが表紙だけで判断してはならない。
錬金術シリーズで身にしみて理解している私は暇つぶしにはなることを祈ってページをめくった。
すると1ページ目見開きにタイトルがあり、その後ろにはなんと目次がついているではないか。
なんとも親切な設計だ。
これが一体どのような書物なのかを知るため、目次に目を通していったのだがーー。
「意味わかんないんだけど……」
並んでいるのは『構内図』や『隠しアイテム一覧』、『授業一覧』の文字ばかり。
それも後半には人名の書かれた章が存在する。
その中にはつい数刻前に見たグルメマスターことユリアス=シュタイナーの婚約者、マルコス王子の名前が記されている。はっきりと覚えていなかったので、該当ページまで飛んで確認してしまった。少し細身に補正がかけられた全身イラストの横にはしっかりと『バールグベルグ王国第一王子』と記されていたので間違いはないだろう。
自分の住んでいる国の王子の名前くらい覚えておけという話だが、グルメマスターを前にすれば王子の名前なんて些細なことなのだ。どうせ顔を合わせる機会もないだろうし、今覚えたからよしということにしよう。
名前やイラストの他にもいろいろと情報が書かれていたが、とりあえず目次へと戻る。
そして目次の文字を指でなぞっていけば、もう一つ、見覚えるある名前に辿り着く。
『ロザリア=リリアンタール』ーーそう、私の名前だ。
なぜたまたま入手した書物に私の名前が刻まれているのだろうか。
ここで手に入る書物を普通のそれと比べるのは間違いなのかもしれない。ガイドブックだってこの世界の住人が手に入れることは困難だろう。今回の書物も転生者特典の一つだと考えた方が良さそうだ。
とにかく私は『ロザリア=リリアンタール』のページを開いた。
王子のイラストと同様に、少し補正がかかったイラストがあった。けれど確かにそれは『ロザリア』のイラストで、すっかりご無沙汰になったパッションピンクの髪と見慣れた顔は確かに私の素顔そのものだった。
お貴族様に探されなければ、私もこの姿で入学していたことだろう。
いや、そもそもお貴族様に探されていなければレオンさんとパーティーを組むこともなかったので、前提がズレるのか?
再捜索がかからずとも、髪は赤茶に染めたまま入学する予定だったし、地毛のまま入学する未来は数年前に途絶えていると言えるだろう。
それに細身と言えば聞こえはいいが、筋肉がほとんどついていない身体は今の私には少し頼りなく見えてしまう。こんなんじゃろくに山を越えることも出来ないだろうと思ってしまう辺り、私もすっかり冒険者職に慣れてしまっているのかもしれない。
女性らしさを加えてくれたのかもしれないが、残念ながら私はそんなものは求めていないのだ。
小屋から飛び出した時点で、私は守りたいと思ってもらえるゆるふわ系女子になんてなれっこないのだ。
今からでもなれるとしたらそれは『ゆるふわっとドラゴン倒しちゃう系女子』である。
マストアイテムは竜装備。
全身コーデもいいけれど、ワンポイント飾るだけでも十分流行に乗ることが出来るお手軽ジャンルである。
それなら私もオシャレ出来るかも~なんて、そもそも流行るかどうか以前に竜装備を手に入れるにはドラゴンのドロップ品を集められる力を持っているか、購入出来るだけの財力を持ち合わせていないと無理なのだが。
そんなの100年経っても流行る訳がない! と自分で突っ込みを入れて、ゆるふわ系女子(笑)なロザリア=リリアンタールさんの説明に目を通していく。
「本作のヒロイン? リリアンタール家の養女? 何それ? 意味分かんないんだけど……」
途中にあった『癒やしの聖女』だけは称号にあったはずだ。確か初期からあったような?
特に使う用事がなかったため、うろおぼえではあったが、ステータス欄を確認すればそれは確かに称号欄に記されていた。
相変わらず何の役に立つのかは分からないけれど、それでも『本作のヒロイン』だの『リリアンタール家の養女』よりはずっとマシだ。
何、ヒロインって。
いつからこの世界作品になったのだろう?
もしや私、本当にゲーム世界に転生してしまったのだろうか?