3.夢はビックにマイホーム
アイテム倉庫の取得を目指して刈り続けた結果、私が交換したのは『アイテム倉庫』ではなく『攻略ガイド』でもなく『お一人様テント』と『寝袋』と『使い捨て結界』だった。
アイテム倉庫を交換出来るポイントを稼いだ頃にはすっかりと日が暮れていた。
私のチート能力をもってしても時間の経過ばかりはどうしようも出来ず、人の身である以上、睡魔は襲ってくるものだ。
前世の身体でも一日8時間睡眠が必須だったが、この幼い身体はそれだけでは足りないようで小屋生活のほとんどは睡眠に費やしていた。寝るくらいしか時間を潰す方法がないために編み出された長時間睡眠なのかもしれないが、記憶はあってもさすがに身体の変化理由までは分かるはずがない。
どんな理由があったとしても眠いことには変わりはない。
どうせ一日もすれば稼げるポイントなのだ。だったらまた明日稼げば済む話だ。今日よりも明日の私の方がずっと要領良く稼げるだろうから、明日になればアイテム倉庫の取得も出来るだろう。
宿屋が見つからなければ使い捨て結界はまた交換しなければならないが……これは真っ先に交換しておくことにしよう。
命、大事。
カチカチと骨組みを合わせてから布部分を引っ掛けてテントの完成だ。身体を折って入ると思ったよりも天井が近い。一人用テントなんてこんなものなのだろうか。少なくとも子どもの私一人が寝るには十分すぎるほどのスペースは確保されている。でも背の高めの男の人が寝るには手狭だと思う。
もしかして交換一覧のテントがやけにバリエーションに富んでいたのはそこも考慮されていたのかも。
必要ポイントはお高めだけど『移動式魔空間ハウス』なるものもあって、広い場所で寝たかったら取ってみるんだな! みたいな煽りすら感じた。高い癖に結界は付いていないようだが、交換可能スキルには『結界』があったからこちらと合わせて普段使いが出来そうだ。
一生が後どれくらい続くのか分からないけれど、まだまだ先が長いのなら、後々余裕が出てきた時に取ってみるのもいいかもしれない。
憧れの一戸建てマイホームってやつだ。
移動式だけど自分が所有する家だからまさしくマイホームなのだ。
転生して2週間。
村の小屋軟禁から森でのテント生活から変わったばかり。
けれど夢はビッグに抱きたい。
村の人達に、家族に認められなくても私は生まれ持った高い能力とチートスキルをフル活用して生き抜くつもりだ。
だって私、転生者だもん。
チートを生かさないなんて勿体ないこと出来ないのだ。
それからしばらく森で魔物を狩ってはポイントを稼ぐ日々。
『アイテム倉庫』取得後、すぐに『使い捨て結界』をいくつか交換して収納した。
もちろん寝袋とテントも。
これでやっと拠点を動かせるようになった。
小さいとはいえ、テントを担いだまま戦うのは一苦労だし、張ったまま遠くへ移動するのは危ない。一回こっきりで捨てていくなんてもってのほかだ。
テントを交換後、オプション画面に追加された『リサイクル』システムを利用するという手もあるが、これはコスパが悪すぎる。
このシステム、交換したものはもちろん、この世界のものをポイントに還元出来るシステムだ。
試しにナイフで還元率を確かめてみたところ、何度も魔物を切っているためかわずか1にも満たなかった。小数点以下のポイントとして加算されているのかもしれないが、最悪無料引き取り。まだまだ現役でいてもらいたいので、すぐにキャンセルボタンを押した。
次に調べたのはまだ数回しか使っていない寝袋。
こちらは交換ポイントが高かったためか、還元率もやや高めの7ポイント。それでも交換ポイントと比べればささやかではある。
この世界のもの、ゴブリンの魔石で試してみたところ、2ポイントしか加算されなかった。それでも我が相棒のナイフよりは高いポイントだ。貴重と判断していいのではないだろうか。
この世界での価値が低いのかはまだ未確定。
意外と高く買い取ってくれる場所があるかもしれない。
買い取り場所があるかどうか以前に村を出てから一度も人に出会っていない。だがアイテム倉庫もあるし、しばらく荷物の重さに悩むこともない。
だからこの数日でまた増えた魔石の総数の1割ほどは残すことにして、残りは全てポイントに還元した。
その結果、食事が少しリッチになった。
ついでだからと服も何枚か交換した。
ロザリアはお風呂に入るという習慣がなかったため、ずっと同じ服を着ていても不快感はないのだが、そもそも着ていた服がよれよれだった。その数年単位で着ていただろう服は森を走り回る際にかかる負荷に耐えられず役目を終えようとしていたのだ。
さすがにボロを着続ける訳にはいかないと、いくつか交換して収納に突っ込んでおいた。
これからはもう少し頻繁に着替えようと思う。
今のところポイント交換一覧には洗濯系のスキルはなく、洗剤の交換ポイントがやけに高いからリサイクル行きになってしまうのだが、もったいないと思ったら負けだ。一回そんなことを考えたらまたぼろになるまで着続ける気しかしない。至るところが破けて肩やお腹が露出するなんてそんな生活は送りたくないのだ。
こうして身軽になり、生活指数も上がった私は魔物を狩り続けた。
狩って食べて狩って狩って狩って食べて寝て手持ちの魔石が多くなったらポイントに変えて。
そして『攻略ガイド』を手にした。
A6サイズで結構な厚さのあるそれは前世の完全攻略ガイドみたいな名前がついた攻略本のような見た目だった。中身をペラペラとめくってみればそれぞれの街ごとの地図や説明、魔物の詳細データが記されていた。
明らかに取得するまでにかかる苦労と、中身が見合っていない。
これもまたチート能力の一つということだろうか。
なんだろう、この気持ち。
お誕生日にゲーム買ってもらう約束したけど、待ちきれずにお小遣いで攻略本買っちゃった時ってこんな感じなんだろうな。
上機嫌で読み進めて、いざプレイする時には詳細知っちゃってて楽しみが半減しちゃった~みたいな。
まぁ、読むけど。
ゲームっぽい世界だけど、ゲームではない。
ゲームオーバーなんて赤い文字も出てこなければ、セーブ地点からもう一度やり直すなんてことも出来ない。死んだらそこで終わりなのだ。
ズルかろうが、楽しみが減ろうが関係なく読み進めていく。
テントの外で使い捨て結界を使い、中ではあぐらをかきながらペラペラとめくっていく。
お供にはポテトチップスとコーラ。
甘さとしょっぱさをフットワーク軽く行ったり来たり出来る最強のタッグだ。ちなみに味はのり塩。しかもじゃがいもにこだわったプレミアムなタイプだ。ガイドが汚れないように割り箸も交換した。前世ではあるあるだけど、今世ではちょっぴり贅沢。だけど頭フル活用させないと内容頭に入ってこないし、
これは必要経費だ。
一人だが、取りやすさを重視したパーティー開きした袋から一枚ずつ挟んで口に運んでいく。たまにコーラのしゅわっと感を堪能し、糖分を補給するのも忘れない。
「ポテチコーラ最高……」
呟いたところで賛同してくれる人はこの世界にはいないだろう。それでも口から出る感嘆の言葉を抑えることは出来なかった。
こうして私は異世界の知識を得たのだった。