36.これってバグですか?
「良かったんですか?」
「ええ。義弟がここにいると知れば義母が騒ぎますから」
「仲、悪いんですか?」
「悪くはないと思いますよ。毎月見合い写真片手に孫孫騒ぐことを除けばいい人ですし」
「それはなんとも……。私の場合は婚期過ぎても結婚出来るか怪しいところがありますけど」
「不純異性交遊禁止なんでしたっけ? ガイドラインから外れた相手を見つけ次第、相手を処理するように言われてます」
「ガイドラインって……」
「段階ごとの処理方法が書いてある表ありますけど、見ます?」
ごそごそと胸元を探るエドルドさん。
表があることにも驚きだが、それを携帯しているエドルドさんもエドルドさんだ。
「どうせ恋人とか出来る気がしないんでいいです」
「そうですか? 見たくなったら言ってください」
私に恋人を作るのを阻止するためにエドルドさんに預けたんじゃないかとさえ思えてくる。
少なくともエドルドさんの義弟さんと学園で初遭遇をしたら最後、三年間恋人が出来る気がしない。ただでさえ出来る気がしないのに輪をかけて確立が下がる。
そして友達も。
まぁぼっちでも勉強は出来るし、ペアを組む系の授業を避ければ何の問題もないのだが。
食事は一人でも人が集まる所に行かなければいいだけの話だし、大学生時代も一人でご飯を食べる機会はあった。
一人カフェもカラオケも慣れたものだ。
なんならぼっち飯回避用の人形を作って横に置いておけば良い。
ぼっち学生生活の計画が詰まってくる度に寂しさが募っていくが気にしたら負けだ。
小屋生活よりはずっとマシ! と自分に言い聞かせる。
「まぁ『竜殺しのレオン』の娘で、王都のギルド長の家に下宿していると聞けば早々手を出そうという輩は出てこないと思いますけどね」
「……すみません。私、ギルド長の家に下宿する予定とかないんですけど?」
「今さら何を言い出すんですか。すでに住んでいるじゃないですか」
「私が住んでいるのはエドルドさんのお屋敷ですよね?」
「ん? ああ、知らなかったんですか。私、あなたが王都に来る数ヶ月ほど前から王都のギルド長を務めているんですよ」
「聞いてないんですけど!?」
私は短期間でどれだけ新情報を聞けばいいんだ!
RPGゲームのプロローグでもここまで重要情報ぶっ込んでこないけど、この世界の情報開示バランスはどうなっているんだ!
バグか? バグなのか?
それとも運営のシナリオ担当が悪いのか?
通販サイトの評価欄に『詰め込みすぎて意味不明』とかきこまれた上で星一つとか食らうレベルだ。
第一、エドルドさん一人に対して『貴族の長男』『Aランク冒険者』『王都のギルド長』ってポジションの高い設定盛り込みすぎ。
その上、顔もいいし独身だし、義弟さんによれば女性嫌いときた。後半の三つだけでも確実に一部女性の心を射止めるキャラではあると思う。人気ランキングで毎回5本の指に入るだろう。主人公のサポート役として最初から最後まで活躍しそうだとは思う。
だがこれはない。
盛り込みすぎて主人公の立場が食われてしまう。
そして私の脳内がまたしてもショート寸前まで追い込まれている。
「本当に知らなかったんですね。いやぁ、妙に肝が座っているとは思っていましたが、まさかただの世間知らずだったとは……」
「有名なんですか?」
「王都ギルドのカウンターは地位の高い順に並んでいるんですよ。低い番号は年齢によって左右されることもありますが、1番カウンターに座るのはギルド長であることは設立当初から変わっていません。知らないのはもぐりかよほどの田舎者くらいで、下心もなしにギルド長に近寄ろうなんて人はなかなかいませんよ。私も初めは警戒していたんですけどね……」
まだまだ出てくる新情報。
まさかカウンターの数字にすら意味があるとは……。
だが田舎から出てきてすぐにソロを決め込んだ私が知る方法などなかったのだ。
エドルドさんもこんな反応しているということは、レオンさんもまさか私が知らずにエドルドさんのカウンターを利用しているとは思わなかったのだろう。
まぁ知らないからといっても特に不便はなかったから構わないのだが。
「あれ、警戒だったんですね。私はてっきり愛想がないのだとばかり……」
「それは否定しませんが」
「あ、しないんですね」
「ギルド長に必要なのは権力を上手く使うだけの頭と、必要とあれば他者を組み伏せるだけの力ですので」
「なんか脳筋っぽいですね」
「あなたに言われたくはないです」
「私脳筋じゃないですよ!?」
「自覚ないんですか……」
はぁ……と長いため息を吐くエドルドさん。
頭脳派タイプではないが、脳筋でもないつもりだ。
ただ力で解決すれば早いから大抵のことはどうにかしてしまうだけで。




