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31.見た目の偽装スキル希望

 結局、私が目を覚ましたのは日が暮れた頃。

 寝る前は陽が昇ったばかりだったというのに、すでにお隠れになろうとしている。



「やばっ!」

 慌ててテントの中に戻り、アイテム倉庫からお気に入りの時計を取り出せば、すでに時刻は夜の7時を指していた。


 急いでポイント交換で出した食事をかきこんで、鏡とメイク道具一式を取り出す。急いでいるため若干雑になりつつも、メリンダメイクを施す。


「ああもう! こういう時に偽装が使えれば良いのに!」


 残念ながら『偽装』スキルの対象は今のところステータス一覧や一部アイテムのみ。

 自分の姿を偽装するということは出来ないらしい。他にその手のスキルがあるのか、不可能なのかは不明だ。でも出来たら絶対便利だと思う。


 転移と揃えて重宝するのに!

 なんなら偽装が使えるならずっとメリンダでいい。お貴族様から狙われなくて済むし、毎日メイクするのも面倒臭い。肌に負担もかかるしーーなんてないものねだりでしかないのだが。



 使い終わった道具とテントを収納し、近くの村まで急ぐ。



 山方面からやってきた私に村人達は「姉ちゃん、大丈夫だったのか?」と心配してくれた。


 十中八九、山道のゴブリンのことだろう。

 だがここで知っているというのも不自然なので、何も知らない振りをして首を傾げる。



「何かあったんですか?」

「ああ、何でも向こうから山を越えようとした馬車がゴブリンと遭遇してしまったらしい。今、ギルドに依頼を出しているんだが、通れるようになるのは一体いつになることやら……」

「ゴブリンに!? 巣を作られていたら厄介ですね」

「ああ。山から無傷で帰ってこられた姉ちゃんは運がいい」

「本当に良かった……。あの、私、これから王都に向かいたいんですが馬車って……」

「ああ、なら馬車乗り場に立ち往生している馬車が何台か止まっているから声をかけてみるといいよ」

「ありがとうございます!」


 親切な村人が教えてくれた馬車乗り場へと向かうと確かに数台の馬車が止まっていた。

 ここに来るまでに商会の馬車が見当たらないということはやはり早々に遠回りルートへと出発したのだろう。ここで待機している馬車はおそらく客を降ろした馬車の中でも、戻るという選択肢を取らなかった馬車。


 つまりいつになるか分からない待機を続けているということだ。


 山道のゴブリンが一掃されたという情報を掴んでいないのだろう。

 さすがにたった数時間で依頼を受けてくれる冒険者など見つからないだろうし、山道が通行可能であるとの連絡を受けるには後数日ほどかかるだろう。


 ぼんやりと空を見上げる御者の一人に「王都に行きたいのですが……」と多めのお金を渡せばすぐに首を縦に振ってくれた。多めに渡したとはいえ、普段なら決して一人を乗せることを了承しない金額だ。

 それでも数日待ちぼうけするよりも往復して少しでも銭を稼いだ方がいいと判断してくれたのだろう。先に何台出発したのかにもよるが、運が良ければ途中で新たな客を取れるかもしれない。



 ここに戻る頃には待っていれば良かった……と思うかもしれないが、それは討伐代金だと思って欲しいものだ。



 すぐに出発してくれた馬車に揺られて数時間ーー数人の客が乗っては降りを繰り返し、やっと王都へと到着した。門をくぐれば、今日も活気づく中央街の朝市が見えて来る。



 馬車乗り場から降り、ギルドを目指せば顔見知りのおばさんやおじさんから声をかけられる。


「あらメリンダちゃん、今日はいいトマトが入っているよ!」

「デザートにリンゴはどうだい?」

「新鮮な魚が入っているよ」


 いつもなら袋いっぱいに買って帰るところだけど、今の私は大遅刻中なのだ。

 さすがに大量のリンゴやトマトを抱えて行く訳にはいかない。

「ごめんなさい。今度また」

 短く謝って、早足で朝市を通り抜ける。



 そして当初の予定から一日以上遅れて到着した私は駆け足でギルドの一番カウンターまで向かった。タタタっと足音が近づいてくるのに気づいたらしいエドルドさんは仕事をする手を止めて、ゆっくりと前を向く。



「おはようございます」

「遅くなってしまい、申し訳ありません」

 相変わらずの無表情。怒っているのか、そうでないのか分からないその顔にとにかく深く頭を下げる。


「いえ、理由は聞かずとも分かるので問題ありません」

「え……」

「先ほど馬車協会から依頼が入りましたから。報告をどうぞ」


 近くのギルドではなく、王都ギルドに依頼していたのか。

 私が見積もっていた以上に深刻な案件だったのかもしれない。


「馬車が遭遇した10体のゴブリンですが、やはり集団の一部でした。総数は約100程度。隠し部屋はなしで、殲滅済みです」


 レオンさんとの行動ですっかり慣れてしまった事後報告をすれば、エドルドさんもまた慣れた様子で書類にペンを走らせていく。


「お疲れ様でした。匿名で討伐報告が入ったことにして、確認クエストを出しておきましょう。確認が済み次第、報酬を出させていただきます」

「ありがとうございます」


 まさか報酬がもらえるなんて!

 王都へ戻る馬車代どころか、南方行きの分まで浮いたかもと思わず頬が緩んでしまう。


「いえ、あの道は流通の要。早めに討伐して頂けて助かりました。それでは行きましょうか」

「今ってお仕事中じゃ」

「どうせ私のカウンターに来る人なんてレオンさんかロザリアさんくらいしかいませんから。その二人も今はいませんし。ああ、それと今日からはあなたも私のカウンター担当になりますね」

「よろしくお願いします」


 荷物をまとめて立ち上がるエドルドさんに頭を下げれば、彼はこくりと首を縦に振った。


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