28.父を叱責するのも娘の役目
メリンダの顔見せ兼レベル上げをしていくこと数回。
その度に少しずつ顔の細かい部分を調整していき、『ロザリア』と『メリンダ』の顔を近づけていく。
元よりメリンダの顔は、ver.1の段階でかなりこの世界の私に似せていた。
また私の方も錬金術でメイク道具を錬成して日々、この顔でのメイクを練習している。前世でもあまり派手なメイクはせず、ナチュラルメイクが多かった。だからそこまで苦ではない、と思っていたのだが、こうしてまじまじと鏡を覗き込めばロザリアは私が思っていた以上に顔がいい。
思いっきり自画自賛になってしまうが、私には地味顔だった前世の記憶があるのだ。ややコンプレックスだった垂れ目が今ではチャームポイントにしかならないことが憎らしい。初めの想定以上に微調整に微調整を重ね、メイク術を向上させなければならなかった。
けれどそれは今では私の顔で。
茶縁のメガネと三つ編みヘアーが地味さを醸し出してくれているおかげで、私の心の安心が保たれている。まぁそれでも十分可愛いのだが。
放課後の図書室、窓際で文豪作品を読んでいる女の子みたいな。地味でありながら確かな素材の良さを醸し出す、人に自慢するよりも自分の中でひっそりと隠しておきたい可愛さなのだ。
だが美人なんて三日も見れば飽きるとはよく言ったもので、レオンさんが南方に旅立つ頃にはすっかりこの顔にも慣れていた。
「お世話になりました」
「前にしばらく帰ってこなかった時も寂しかったが、今回はもう何年もこっちに帰ってこないんだろう?」
「はい」
「寂しくなるな……。王都に帰ってきた時には是非またうちを使ってくれ」
「もちろんですよ!」
私は王都に来てから、レオンさんは私とパーティーを組んでからずっと住んでいたホテルとの今日でお別れ。
すっかり仲良くなった調理長と堅い握手を交わして、ホテルを後にして南方行きの馬車に乗り込む。
なぜ王都に残るはずの私も馬車に乗っているかと言えば、レオンさんの荷物が多かったからだ。
冒険者の多くが定住場所を持たず、宿を転々とするのが一般的である。
もちろん一つのギルドをホームと決めて、その近隣のクエストを受け続けるという冒険者もいるが、非常に稀な例だ。ちなみにレオンさんは、私と出会うまで宿を転々としていた冒険者。
同じ宿に三ヶ月以上滞在したのはこのホテルが初めてだったらしい。
そしてドラゴン狩りで長期空ける際に取った行動は、お金を払って部屋をキープしておくことだった。私もレオンさんもあの環境を手放したくなかったのだ。
こうして数年単位で住み続けた結果、家と化し、しばしば出入りしていた私も気づかないほどに荷物が増えていた、と。
荷運びにアイテム倉庫を使わせて欲しいと言い出したレオンさんに案内されて、彼の部屋を見て思わず目を見開いてしまった。
まさか奥の部屋に家具を置いているとは思わなかった。
装備や武器はもちろん、服の数も多いのなんのって……。
「なんで早く言わなかったんですか!」
クローゼットに手と顔を突っ込みながら叫ぶ私はまるで引っ越し前に父を叱る娘そのもの。しかもレオンさんは単身で引っ越す予定で、手伝える人員は私しかいないのだから余計たちが悪い。
とりあえずクローゼットは中身ごと倉庫に収納することに決めてスペースを確保する。
その間、レオンさんに指示を飛ばしてそこら辺に散らばっている服をかき集めさせる。もちろん他の場所に収納されている衣類を持ってこさせるのも忘れない。
何回か着たアウター、洗濯が必要なもの、洗濯済みのもの、それ以外に分けてもらう。
レオンさんが分別したものの中から洗濯が必要なものはアイテム倉庫から取り出した洗濯バスケットに突っ込み、レオンさんに押しつける。
「今から洗濯お願いしてきてください! 他のは勝手に収納しておきますから」
「あ、ああ」
「迷惑料のチップ多めに渡すのも忘れちゃ駄目ですからね!」
小走りで部屋から出て行くレオンさんに声を投げ、私は残りのものの収納に取りかかる。
アウターは仕切りを付けて右と左に分け、そこからさらによく着ているものから順番に右から並べていく。
洗濯済みの服はランドリーバックから取り出して、分類ごとに分けていく。
下着類を捨てる習慣がないのか、引き出しが閉まるギリギリまで詰め込まれている。多いばかり多くて破れたものやペラッペラになったものまで残されている。
さすがに勝手に捨てるのも悪いので、綺麗なもの・普通・そこそこ悪い・捨てれば? の4種類に分けて上の二つは畳んで種類ごとに入れていく。下の二つはレオンさんの判断待ちだ。
衣類整理している間、離れて暮らすことになっても定期的にレオンさんの家庭訪問をしようと心に決める。
今は観光客用のホテルに泊まっているから、ホテルに頼めば掃除も洗濯もしてくれる。
南方の地でどんな環境で暮らすことになるかは教えてもらっていないが、少なくともここまで高環境ではないだろう。
「ただいま~。夕食後に取りに来てくださいって」
空のバスケットを手に帰ってきたレオンさんに手招きして、ベッドの上に並べた二軍の服達を見せる。
「これ、いるかいらないか判別してください。量多すぎるので少し減らしましょう。いくら冒険者の節約魂が根付いているとはいえ、こんな布切れきないでしょうし、ある程度減らして、必要なようなら新しいの買いましょう」
「あ~そうするかな。どうせあっち行ったらしばらく新しいの買わないし」
「ちなみにこっちは私がまだ着れると判別したのです」
レオンさんはう~んと顎を撫でながらぐるりと見渡すと、一軍服からいくつかベッドの上に投下した。
「じゃあこれ捨てるやつで。ゴミ箱に入りきるか?」
「この箱に入れて持っていってもらいましょう」
『不要品』と書いた段ボール箱を押しつけて、その中にまとめさせる。
大きめのものを用意したつもりだったが、すぐに一つ目がいっぱいになり、もう一つと視線を彷徨わせるレオンさんに二つ目を押しつける。