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25.新メンバー追加ってどういうことですか?

「パーティーにエドルドさんを入れるってどういうことですか?」


 とある日の夕食後。

 話があるとレオンさんの部屋に呼び出され、切り出された話題に思わず声を荒げてしまう。


「少し事情があってな……」

「事情って何ですか? というかそもそもエドルドさんって、ギルド職員ですよね? もしかして担当する冒険者が少なすぎてクビになったとか……」


 今さら誰かをパーティーに加えることにも驚きだが、その『誰か』がエドルドさんなんて……。ギルドの職員が冒険者パーティーに加入するなんて聞いたことがない。


 一体どういうつもりなんだ、と身体を前のめらせればレオンさんは両手を前に突き出してどうどうと私を宥める。



「安心しろ。エドルドは今まで通り、ギルド職員を継続する。けれど冒険者としてうちのパーティーにも加わる」

「そんなの可能なんですか?」

「ああ。エドルドはロザリアが王都に来る数年前まで冒険者をしていたこともあって、資格は持っている。それもAランク冒険者だ」

「Aランクというとなかなか強いんですね」

「元々Sランク昇格間近と言われた時に職員になっただけで、今でも続けていたら間違いなく俺と二人で冒険者の最前線を走っていたことだろうな」

「ふ~ん。詳しいんですね」



 レオンさんが過大評価をすることはまずない。

 それどころか彼の同業者を見る目は誰よりも厳しいのだ。それが命取りになると知っているからだろう。だからなぜエドルドさんがそこまで上り詰めたにも関わらず冒険者を辞めたのかを疑問に思いはしても、Sランクに近いAランク冒険者相当の実力という評価を疑うつもりはない。



「まぁ冒険者をやってみないかと誘ったのも俺だしな」

「それでなぜ今さらパーティーに? 職員になるからって辞めたんでしょう?」

「ああ。それだがエドルドが仕事に来ることは基本的にはない」

「? 同じパーティーなのに、ですか?」


 パーティーに所属する冒険者の場合、特殊な理由でもない限り共にクエストを受けるのが一般的だ。一緒に仕事をこなさない場合、ギルド貢献値の振り分けにも影響が出るため、ギルドに申請を出す必要が出てしまう。


 それもギルド職員さんに申し出て、専用の書類に記入して、印鑑をもらう、というなかなか厄介な手続きをその都度行わなければならないのだ。そのためパーティーから外して、再び仕事をする際に加入させるのが一般的だ。それを初めから一緒に仕事をする予定がない者を入れるなんて何を考えているのだろうか?


 レオンさんの真意が掴めずに眉を顰れば、彼はこちら真っ直ぐと見据えて口を開いた。


「エドルドにはロザリアへ、仕事と報酬の受け渡しを行って貰う」

「それはどういう……」

「ロザリアも来月から学生だろう?」

「レオンさんが通え通えうるさく騒ぐから仕方なくですけどね」

「本当に後から役立つんだって! 学は身につけられる時に身につけた方がいいから!」

「卒業後の話はともかくとして、私が学生になることと、エドルドさんが私へ仕事と報酬の受け渡しを行うためにパーティーに所属することがどう関係するんですか?」

「お前を探している貴族が捜索の手を広めている」

「まだ諦めてなかったんですね……」


 髪染め効果があったかはさておき、ここ最近では例の貴族の話はめっきりと聞かなくなっていた。レオンさんも何も言わないし、てっきり諦めて手を引いたのだとばかり思っていたが、案外しぶとかったらしい。


 そこまで子どもが必要なのだろうか。

 事情を聞いたところで哀れむつもりも、自ら名乗り出てやるつもりもない。

 私の生活に支障をきたさないよう、さっさと諦めてくれと願うだけだ。


「このままだと学園に入学する予定もバレかねない。そしてこのタイミングで、南方で唯一のSランク冒険者が倒れた」

「南方の冒険者ってレオニダさん、でしたっけ? 高齢だとは聞いていましたがまさか……」

「ぎっくりをやった」

「は? え? ぎっくりってあのぎっくり腰?」

 倒れたってぎっくりか……。

 決してぎっくり腰を甘く見ている訳ではないが、最悪の事態を想像していたため、妙に力が抜けてしまう。


「そう。あの結構辛いことで有名なぎっくり腰だ。まぁ元々レオニダ婆さんは結構年だし、あそこはSランクは一人しかいない上に、Aランク・Bランク冒険者は数年間不在なままだ。数ヶ月前から高ランク冒険者が育つまでの間だけでも拠点を移せないか、って打診があったんだがまさか倒れるとは……」

「そんな話、聞いてませんよ」


 もしかして以前、エドルドさんが言っていた事情ってこれのこと?

 いい加減親離れしろって言ってたし、エドルドさんはずっと前から知っていたのだろう。超重要な秘匿事項だと思って深くは聞かなかったのに、こんなことなんて……。


 気にして損した気分だ。

 そういうことはもっと早く言え、と白い目を向ければ、途端にレオンさんは焦ったように弁明を開始する。


「俺だって行く気はなかったんだ! 拠点を移せばこの時期にロザリアと離れることになる」

「……私、そこまで幼くないんですけど。一人暮らしぐらい出来ますよ。というか、レオンさんと出会うまでずっと一人でしたし」

「例の貴族がSランク冒険者『ロザリア』に目を付け始めていると聞いても?」

「え?」

「エドルドがその情報を掴んでな。奴らはなんとしてもグルメマスター在学時に娘を学園にねじ込みたいらしい」

「それだとまるで私が探されている理由がグルメマスター絡みのような……」

「元々はロザリアの人並み外れた能力に目をつけていたらしいが、今ではグルメマスターとのお近づき要員だな」

「それはなんとも……」


 まさか例の公爵令嬢がここで関わってくるとは……。

 ただ年齢が近かっただけで、彼女には何の罪もない。

 だがこんなことを聞いてしまうと途端に苦手意識が湧いてしまう。

 今まで通りグルメマスターが考案したご飯は食べるつもりだけど、彼女にはなるべく近寄らないでおこう……。


 貴族と庶民なんて同じ学園の生徒とはいえ、早々お近づきになる機会なんてないのだろうが。


「すでに学園の入学者名簿に載った『ロザリア=リリアンタール』は『メリンダ=ブラッカー』に変更しておいた」

「メリンダの方はともかく、なんで名字の方をちゃっかりレオンさんとおそろいにしているんですか?」

「隠蔽はしたものの、ロザリアを名簿から消したのと同時期に全く見覚えのない家名の人間が追加されたことを貴族サイドの人間が知ったら、確実に怪しまれるだろう。それに一般庶民枠で入学させるとなれば身分証明も必要だ。適当にでっち上げるのも無理ではないが、完全なものを作成するのは難しい。怪しまれた際に身分を洗われたら厄介だ。だから子どもを入学させるだけの金を持っていてもおかしくはない俺が、養子として迎えた孤児を学園に通わせたということにした」

「なるほど……。でもそれだとロザリアの学園入学の義務はどうなるんです?」

「ロザリアは学園に入学するのが嫌で武者修行に出たことにする」

「そんなのありですか……」

「Sランクに上り詰める冒険者の多くがルールに従わないからな~」

「義務とは一体……」


 じゃあ私も学園に通わなくていいんじゃ……という突っ込みはなしだ。

 レオンさんに言えばまた長々と教育の必要性について説かれてしまう。それでは話が進まない上、今からだと朝まで続く可能性がある。最後まで聞いたところで学園生活から逃れられるとも考えづらい。


 私に残された道は、勉強熱心な人に娘認定されてしまったと諦めて学園に通うしかないのだ。



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