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21.乙女の天敵は即座に滅すべし

 Sランク昇格からドラゴン狩りに移行し、しばらく特殊依頼をサボっていた私達を待っていたのは当然のような激務。


 どうやら今回、二人揃って仕事の受付を制限していたことに対して、他のSランク冒険者から苦情が殺到したらしい。


 この数ヶ月しわ寄せが来たんだから、こっちも休みを取らせろ! とまるでブラック企業の有給休暇申請のようだ。


 私はブラックに染まることを恐れて辞退し、死亡しているので実際似ているのかは定かではない。だが二人のうち一人は昇級直後であることを考慮にいれて欲しい。そんな文句すらも言う暇はなく、私達が留守にしている間、交代で依頼制限をかけることで話し合いがついていたようだ。


 Sランク冒険者はいつも人手が足りていないようだし、以前からレオンさんも月に数回特殊依頼をこなしていた。

 そんな勤務態勢? が続けば苦情が出るのも仕方の無いことなのかもしれない。

 今回は言い出すきっかけにすぎなかったのだと、むしろ良いきっかけ作りになれたのだと思っておくことにしよう。


 私だってまだまだ若いのに、生涯馬車馬のように働かされるなんて業は背負いたくないのだ。


「レオンさん、まだですか?」

「後少しだ」


 そんな訳で今日も今日とて依頼をこなす。

 ちなみに今日は魔物の討伐と、その巣穴を発見&破壊が目的だ。


 町から町に移動する際の、細い山道で商人達が狙われているらしい。

 初めはC級相当の依頼として出され、数組のパーティーが失敗。ランク不相応と判断され、高ランク依頼に認定されたものの、達成出来る冒険者がおらず、被害が増え続けた結果、特殊依頼として認定されたという経緯だ。


 馬車も通れない道ということで、ギルドから支給された馬に跨がって依頼場所を目指す。

 ちなみに私の分の馬はない。私が乗れるサイズの馬には山道は無理だと言われてしまったのだ。子馬を連れて行ったところで魔物討伐の際にパニックを起こされても困る。ギルドとレオンさんとで話し合いがなされた結果、私の居場所はレオンさんの前に落ち着いた。



『馬の首にしがみつきながら、背中にぬくもりを感じる』とだけ告げればロマンス小説の一部のように見えなくもないだろう。


 だが実際走っているのは草原ではなく、傾斜の厳しい山道で。背中にいるのはイケメンな王子様ではなく、親と間違われる年の男性である。付け加えるならば竜装備ではしゃぐアラフォー冒険者でもある。


 乙女のドキドキや胸の高鳴りなんて毛ほどもない。あるのは清々しいほどの安定感だけだ。


「道狭いらしいから今日は大剣禁止な? 後、巨大な魔法をぶっ放すのも危ないから止めてくれ」

「馬の上から銃に込めた魔法弾を撃つのはありですか?」

「その方法があったか! なら、俺はロザリアが止めろと言うまで馬を走らせ続けるから、捕捉した範囲の魔物を端から撃っていってくれ」

「了解です! じゃあ早速行きますね!」


 レオンさんの胸に抱えられながら山道に住み着いていた魔物ーーゴブリンを打ち抜いていく。


 ギルドから伝えられていた分布よりもずっと手前だが、どうやら斥候班が待ち構えていたようだ。

 なるほどここで見逃せば確かに手間取るだろう。

 打ち残しのないように何発も打ち、馬の上から消えてアイテムがドロップするのを確認する。


「斥候班にしては数が多いな」

「パッと見で半数は武器を携帯していますし、確実に倒せると踏んだらここで狩ってしまうのでしょう」

「報告にあるのは帰ってくることが出来た冒険者の証言に基づくものだからな……」


 ゴブリンが携帯していた武器だが、枝に石をくくりつけて作ったような簡易的なものではなく、明らかに人の手で作られたものだった。おそらくは冒険者や商人から奪い取ったものだろう。


 被害者が多ければ多いほど武器を増していく。またゴブリンは低級魔物ではあるものの、非常に繁殖能力が高く、わずか1週間で集団を倍まで大きくすることも可能らしい。数を増やせば増やすほど厄介な魔物だ。


「巣穴は相当広いでしょうね」

「複雑に入り組んでいるだろうな。それにここまで多いと上位種も数頭紛れ込んでいるだろう」

「ええ~隠し部屋探すの面倒くさいのに……」

「ここで倒す心配をしないところがお前らしいな」

「だって私、強いですし」

「そりゃあ頼もしい」


 馬を進めれば、ギルドの報告にあった場所へとたどり着く。山の中腹に当たるその場所は想像以上に道が狭く動きづらい。小さめの荷馬車を引いた馬がやっと通れるくらいの幅しかない。こんなところで武器を持っている複数個体に挟み込まれたら、戦う手段を持たぬ商人は手も足も出ないだろう。


 だが私達はSランク冒険者だ。

 これくらいの魔物討伐は特に問題はない。


「レオンさん、馬が暴走しないようにだけ頼みました」

「了解した!」


 アイテム倉庫からもう一丁の銃を取り出して、両手でガンガン打ち抜いていく。

 中には杖を構えて魔法を使おうとする上位種、ゴブリンメイジもいたが、魔法を発動させるまでの時間が長すぎる。一応、一般的な個体は上位種を囲い込んで守る陣形を取ってはいるものの、所詮はゴブリンだ。


 弾の威力を少し上方修正して打ち込めば一発で消えてゆく。


「ゴブリン軟膏だ! 後で回収しなきゃ!」

「高く売れるだろうな」

「売りません。あれは錬金術の材料に使うんです!」

「ああ、あのよく分からない魔法か……」


 先月やっとレオンさんに錬金術の説明をしてみたものの、理解まで持って行くことはできなかった。


 どうやらステータス上昇剤を例に上げたのが悪かったらしい。

 その後いくら爆弾や薬品が作れると伝え、実際に見せてみたところでレオンさんの頭上にはクエスチョンマークが浮かび続けていた。


 結局、レオンさんの中での錬金術は『ロザリアが使うよくわからない魔法』の一つとして落とし込まれたという訳だ。

 今回もやはり否定をされることもないので、名前と生産系の魔法だと知ってもらえただけでも上々だろう。


「それで今回は何を作るんだ?」

「ニキビ薬」

「は?」

「最近ほっぺにニキビ出来ちゃって」

「あったか?」

「あります!」


 レオンさんは気づいていないようだが、私は昨日の朝に鏡越しに見つけてしまってから気になって気になって仕方がないのだ。

 通常の仕事ならキャンセルしてでも材料集めに駆けずり回っていたことだろう。


 だがまさかこんなところで材料の一つ、それも一番入手困難なレアアイテムと遭遇することが出来るとは……。

 私は相当運が良いらしい。


「うーん、そんなに気にならないと思うが?」

「私が気になるんです!」

 ニキビはどんなに小さなものでも一つ出来た時点で、二つ三つと増える覚悟をしなければいけない。やつらは簡単に増殖するのだ。


 そう、まるでゴブリンのように。

 気づいた時点で滅さなければならない。

 あまり神経質になるのもよくないと聞いたが、思春期の女子にとってはやつほど憎いものはないのだ。


「軟膏がドロップすると分かれば俄然燃えてきましたよ!」

 ニキビ殲滅に燃えながら銃をぶっ放し続けた私は合計で3つのゴブリン軟膏入手に成功した。


 もちろんゴブリンの集団の壊滅と巣穴の破壊も問題なく終了し、レオンさんが報告に向かっている間、私は部屋でせっせとニキビ薬の作成にいそしむのだった。



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