11.新しい武器を使ってみた
移動は辛いが、魔物討伐は苦ではない。
むしろ馬車で縮こまり続けて溜まったストレスを発散するのにちょうどいい。
ナイフでちまちまダメージを付けるのも面倒だと、自分の身長ほどある大剣を交換してぶん回す。
回す度にぶおんと音を立てながら空を切り、魔物の身体も断ち切る瞬間の快感は小さなナイフでは感じることは出来なかっただろう。
ソロだからこそ出来る戦い方なのだろうが、新たな道への門を開いた気分だ。
大剣を交換する時に下の方に小さく『COMING SOON』と書かれていたし、まだまだ沢山の武器が追加されることだろう。ポイントに余裕があったら武器を開拓していくのも楽しいかもしれない。
パーティーを組む予定もないし、この調子でお尻が痛くならない範囲でガンガン行こう!
依頼に書かれていた魔物の数とプラスしてポイント交換用に多めに倒して魔石をゲットする。大剣のコツを掴んでからはもう一つ交換して「二刀流!」なんて楽しんでいたが、さすがに日が暮れる前には馬車乗り場へと戻った。
テント生活もすっかり慣れているから今日もテントで一夜を過ごしても全く構わないのだが、御者のおじさんや一緒に馬車に乗り合わせた冒険者さん達を心配させてしまうのは気が引けた。
私がソロだと話したら呆れていたようだが、ついて行ってやろうか? と心配してくれた優しい大人でもある。しかも「もちろん報酬は活躍分配な!」と付け足したところを見るに真っ当な冒険者でもある。いくら私の依頼が『薬草採取』だと勘違いしていたとしても、『人数分配』なんて言われたら警戒してしまうところだった。
いくら報酬が少ないとはいえ、自然に見える親切を受けられなくなってしまったのは前の町での出来事があるから。
だが冒険者である以上、ある程度他人を警戒することも大事だろう。
彼らのそれが善意だろうとは分かっていても「大丈夫です」と断ることにした。
誰かに頼りたくないというのが一つ。そして手伝ってもらったら私は私の依頼をこなせないというのがもう一つの理由。
今回は後者の理由が大きい。
断ったとはいえ、それでも心配そうに見つめる彼らには『最終馬車に間に合うように帰ってくる』と告げた。もしも私が時間まで帰らなければ心配させてしまうだろう。さすがに探しまではしないだろうが、心労をかけさせたくはない。
実際、問題なく依頼はこなせているのだ。
ここに長く残る理由もない。
もう少し大剣を振り回したかった……と思わなくもないが、それは翌日以降の楽しみにとっておこう。
そう決めて大剣をアイテム倉庫へと仕舞い込み、馬車乗り場へと向かった。
行きの馬車で乗り合わせた人と、見知らぬ顔が半々くらい。
声をかけてくれた冒険者さんは私の顔を見つけると柔らかな表情で手を振ってくれた。
「嬢ちゃん、仕事は終わったのか?」
「ばっちりです!」
「そうか。それは良かったな」
冒険者さんは無遠慮に私の頭をガシガシと撫でる。
前世だったら知らない人に頭を撫でられるなんていい気はしないんだけど、今は嫌な気はしない。
下心が一切なく、彼が私を子どもだと思っていることが大きいのだと思う。今まで接してきた大人のほとんどが『良い人』とは言えなかったから、彼のような純粋な優しさを向けてくれる相手には安心感を抱いてしまう。
もちろん恋愛感情のようなものではなく、一人の人間として『少しなら気を許しても大丈夫な相手』という意味で。
王都に着くまでの間、冒険者さん達はいろんな話をしてくれた。
旅先で会った強い魔物に、変わった依頼人。美味しい食べ物から彼らの夢まで。
彼らは皆、出稼ぎに来ているらしい。
同じ村出身の仲間でパーティーを組んで、ここまで上り詰めた彼らはある程度お金が貯まったら実家に帰って親の仕事を継ぐのだと言う。
「農夫の子どもがここまで上り詰めるのは凄いことなんだぜ!」
そういって笑う彼らはどこか誇らしげであった。
王都へ着いた馬車から降り、ギルドに向かう彼らとはそこで別れた。
同じギルドを使っていればいつかは私が受けた依頼が『薬草採取』ではないことはバレてしまうだろう。
「俺らが分かることなら教えてやるから困ったら声かけろよ?」
その言葉の有効期限はとても短期間かもしれない。
それでも今日くらい、彼らの中の私は『強力なステータスを持っている化け物』ではなく、『一人で田舎から出てきたばかりの初心者冒険者』でいたかった。
だから依頼の報告は明日にして、今日は寝床となる宿を探すのだった。