「「全日譚」」
「なあ、黒矢」
部活の帰りすがら、僕は
親友の竹春と、道草を食っていた。
冬を前にする、河川岸の丘で。
冷たい風を浴びたかったからなのか、それとも
偶の習慣のお陰か。
自然と、寒さは感じなかった。
話は、進み。
「四季ちゃんだよ。四季ちゃん。
もう、失踪から2週間なんだろ。なにかさ、手掛かりとか、進展とか、
そういうの無いのかよ!」
竹春は、いつも楽しい性格だから、
こんなに真剣口調で話すのは、珍しかった。
「いや、
何もわからないままだよ。
相変わらず、失踪理由も置き手紙以上のことは、
出て来ないし。家族も友達も、
あいつの変化に、気付かなかったって
ことなのかもな」
僕は、偽らず素直な意見を言い放つ。
「それにさ、なんか実感がないんだよ。
四季は、僕たちと違って偏差値76の進学校。
ハニプロで推されてる女優もしていて、去年から、ロサンゼルスに留学していたから」
はぁー、と
あからさまに、竹春が溜息を漏らす。
「お前さ。
いくら、俺達より優秀で有名人だからって、
言い草が冷たすぎるだろ。兄妹なんだから、もっとさぁ」
僕は、続ける。
「何度か話したと思うんだけど。
妹の四季と霧は、特殊なんだよ。尖り過ぎてて、浮き世過ぎてるんだ。
兄妹なのに、10年も別居してるし、僕と格が違い過ぎるんだよ」
僕は、10年来抱えていた妹たちへの、
嫉妬じみの感情を口にする。
「それってさ。
ただの、兄妹コンプレックスじゃんか。
お前の劣等感と、家族に持つ優しさを、
ごっちゃにするなよ。もし、四季ちゃんが、死んでしまったら、
2度と逢えないんだから」
瞬間我に返った。
ずっと、1人で抱えこんでいたからか。
初めて、零したこの感情は、
僕の偏見で偏っていた。
今思い返しても、
この時の僕は、正しく現実を、
考えられなかったんだと思う。
そしてその日は、
竹春に四季の、置き手紙を転送して解散した。
竹春重は、1人っ子だった。
子供時代は、よく1人で、
近所を飛び回っていたらしい。
そんな、竹春にも人生の転機があった。
10歳のクラス替えの日。
早朝から、外国の帰国子女が来る話題で、
学年中で盛り上がっていた。
勿論、転校生は、黒矢一家だった。
全校集会当日も相成り、
3人の転入生挨拶が、きっとその場にいた皆んなの
記憶に残っているはずだ。
俺は、自宅に着くと。
過去の思い出や感傷やらを、一旦落ち着かせ
黒矢から貰った手紙を、見ることにした。
英語で書いてあるので、以下は翻訳。
「お久しぶりです。
兄ちゃん、霧ちゃん。変わりありませんか?
久々に、手紙を書いてみるので、上手に書けるか
分からないけれど、私は、
今日人生で、大きな決断をすることになります。
上手く伝えられないけれど、
家族である、兄さん、霧ちゃんには、私のこと。
家族だったこと。忘れないで欲しいから、ここに手紙として、
置いていきます。
私は、10月から半月間。
ここアメリカで、モデルとファッションデザイナーの
勉強を続けていました。
日本と同じく、めげずに頑張っているので、
着々と夢に進んでいる確信があります。
食事や健康面も、渡米後は少しもたついて
いましたが、ここでも周りに支えてもらい、
楽しい毎日を送れていました。
けれど。私の環境が変わり始めたのは、先月からです。
ニューヨークとロサンゼルスで、3月14日に、
ウイルステロが、あったの。
それでね、何があったのかと言うと
友達が2人。目の前で突然消えたの。
その日、普通に教室を移動していた、私の隣で突然。
ネットだと消える瞬間の動画も拡散されていて。
それで、動画をスローで巻き戻して見て見ると
XXが、映っていたの。で、XXの噂がすぐ広まって。
飛行機は、旅客機が飛ばないみたいで、逃げられないし。
私は、もう今日いなくなってしまうんじゃ
ないかと、思うと恐くて恐くて恐くて
なので、残った友達と一緒に、遠くへ行く事にしました。
幸い、食料と協力者を確保できたの。
死体も山程あるけど、皆んな笑ってるから、きっと平気だよね。
後は、兄さんと霧ちゃんがアメリカに着くことで条件が揃うの。
XXが待っているから、先に行っているね。じゃあね。
親愛なる 零と霧へ」
終
前
日
譚
。