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006:脱出準備


 まあ、そっちにも理由がなんかあるんだと思うんだけどさ。

 にしたっていきなり大冒険過ぎませんかヴィーデさん。


「……む、どうした。それで大丈夫のはずなんだが……ダメかな?」


「いや、ダメとは言わないが、その……なんだ。どう考えても世紀の大脱出だろう、それ。運命を操るってヤツだったらこう、なんか素敵パワーとかあったりしないのか?」


 うん、そもそも崩れないようにするとか、それ以前に最初からダンジョンから脱出してるような運命があってもいいと思うんだ、俺。

 しかも、いつの間にか手を引くオプションが追加されてる気がする。


「なにか問題があるかい? 運命から言えば脱出できることになってるから問題ないはずだよ?」


 なにがおかしいのか全くわからない、といった感じのヴィーデ。

 あ、これ現場を知らない指揮官の発言だ、やばい(やばい)。

 現実を教えてやらないといけない。


「あー、軽く言ってくれますけどねヴィーデさん? 空を飛ぶとかすごく運動能力があるとかとても力持ちとか、もしくは素敵な魔力で壁吹っ飛ばすとか、どんな岩でも防御するとか、なんかそういったのに優れてたりします?」


「いやまったく」


「マジで?」


「マジで」


 マジなのか……。

 こりゃあ、感覚に相当ズレがある気がする。


「ボクは姿が人間とあまり変わらないし、運動も行動も人間とあまり変わらないと思うよ? それに体を動かすのは久しぶりだからね。まあでも、ボクは身体に行動を依存していないから、疲れたりとかそういうのはないかな」


「え、それじゃ魔法とか、なんかスーパーパワーとか、そういうのは?」


「人間から見たら魔力は無尽蔵なレベルでいくらでもあるし、たぶん出来るけど、効率悪すぎてあまり直接物理で使うものでもないかな。でも、運命には問題ないし無事に済むはずだよ?」


 ヴィーデはそんなの当然といった様子だ。

 出来なくはないけどやる気なし。すでに必要な手は打ってあるから問題ないってやつか。

 うん、ダメだ、明らかにダメなパターン。自信たっぷりに明るく嬉しそうに言っちゃいけないやつだ。


 ……ああ、そうか。

 こいつの言う運命的に正しいってことは、つまり【俺の行動や考えも全部が運命】なんだな。


 そして俺はコイツのご主人様。

 たぶん、彼女の操る運命には俺のことまであまり含まれてなさげか、もしくは俺がやる行動も同時に含まれてるかどっちかってやつか。

 要するに、俺が全部まとめて面倒見るって話じゃねえか、おい。


 運命ってこんなにも切ない。


「ヴィーデさんや。お前さんの言う運命ってのは実際のところを知らない話でな。現場の人間はそりゃあ毎日が命がけで大変なワケですよ。で、その運命ってやつがちゃんとつつがなく流れるには、いろんなやつが苦労するわけでね?」


 そう! たとえばいまの俺とか!


「で、聞いた感じ、いまのお前さんはぶっちゃけ普通の人間か、よくて駆け出し冒険者でしかない」


「うん、そういうことになるね」


「となれば、俺が全力フォローしてやっと外に出れるか出れないかってところですよ。まあ運が悪ければ普通にダンジョンと一緒に土の中に逆戻りってわけでね? ありていに言えば、結果を知ってたって、そうそう信じられないような物事なんか世の中にたくさんあるってことだ」


 コイツに「無事に脱出できる」と言われたって、それは結果論でしかない。

 世の中なんてのは、過程があって、初めて結果が出るように出来てる。


 もしかしたら別に頑張らなくてもどうにかなったりするのかもしれないが、世間ってやつはふざけたようにクソみたいなもんだ。

 だから、だいたいのことは誰かが一生懸命になった結果で出来てる……たとえ、どんなにシケたことや、うまくいかないことでも、本人はだいたい本気だ。

 誰もがいっぱいいっぱいで溺れかけで不幸まみれになりながら、なんとか息継ぎしながら過ごしてる。それが運命ってもんですよ。


 まあ、俺としてはそんなあやふやな運命とやらには命を預けらんないんで、もしこいつの言うように都合のいい運命とやらがあるにしても、精一杯なんか色々やった上で勝手にそうなるもんだってのが正しいと思う。


 もし、正しくなくても知ったことじゃない。

 なんか少しマシになるかもしれないなら、そうすべきだからだ。


 頑張ったおかげで、いつもの飯にサービスの付けあわせがでてくるかどうか。

 そいつが俺の考える運命ってやつだ。

 頑張らないでも飯が食えるからいいだろってのは運命じゃない。そいつは、保険ってやつだ。いざってときに困らないようにするための残念賞でしかない。


 残念賞にすがって生きるようになったら、人間終わりだ。

 俺は、そんな【おかずが一品ついてくるだけ】の、ちっぽけなプライドを捨てたくない、それだけのことなんだけどな。


 俺の人生はショボいかも知んないが、俺の人生だ。選んで望んでそうなってる。

 どんなに不幸だろうが後悔しねえ、それが俺のモットーだ。


 それが、運命に巻き込まれまくって26年もえらい目にあってたってことなら、そのへん実際に体験してもらうしかないってな。

 っていうか、コイツにも同じ目にあわす、絶対。


 なのに、ウチのヴィーデお嬢様ときたらですよ。 


「わぁ! その考え方はすごいなエイヤ! 素晴らしい!」


「……は?」


「そうだな。たしかにキミの言うことには一理ある、ぜひ見習わなければ。運命の結果が分かっていても、ゆるめずたゆまず最善の努力をするってのはなかなかできることじゃない。やっぱり最高だなぁ、キミは。なら、ボクはさしあたってなにをすればいい?」


 嬉しそうに拳を握りしめたまま完全にやる気十分ですよ。


 ちょっとは痛い目を見たほうがいいんじゃないかと思える一方で、微笑ましいと思うあたり俺もクソなんだが。

 まあ俺の人生、それだけろくな目に合わなかったってだけなんだけどな。ただ、そんなクソ経験もどっかで役立ってるかと思うと、ダメな過去ってやつもあながち馬鹿にできない。


「やることと言えば、ゆっくりでいいからコンスタントに走ること、これに尽きる」


「ふむ、それくらいならできそうだ」


「つまずかない焦らない転ばない、でも、ここぞって時にはなりふり構わず振り絞る。そういう意味ではスタミナの心配がないのはありがたい。とにかくヘタに止まらないことだ」


「なるほど!」


「配分間違って歩いたり休むと、結果的には、ゆっくり走るより遅くなるからな」


 ヴィーデは、新しいおもちゃをもらったんじゃないかってくらい、キラッキラの目で真剣に聞いている。食いつきがすげえ。


 まあ、基本的に走り続けることなんだが、疲れを知らないお嬢様だっていうなら、こういうドレスか魔術師みたいな格好の素人でも、なんとかなるかもしれない。

 というか、人間は崩れ落ちる地下遺跡を見たら、運命がどうこう以前に逃げるものなんですよ、ええ。ダンジョンが崩れ落ちる中、笑顔でスキップしながら脱出とか無理だから!


「なるほど。エイヤはさすがだな……ボクにとっては運命は必然だし、そうなっていると思うとキミが言うほど積極的には動かない気がするから、その考え方や行動力は本当に見習うべきだね。よろしく頼む」


 尊敬するような眼差しで……いやたぶん実際に尊敬しながら熱く語られた。


 うん、たぶんそこ幸せそうに感心しながら目を輝かせるところじゃない気がするんだ。

 人間は常に必死で一生懸命なんですよ、日々を過ごすので精一杯なんですよ。しかも崩れるダンジョンから脱出するとなればなおさら。


 だってのに、いちいち素直で可愛いくてけなげだからな。毒気抜かれるぜもう……。


「……じゃあ、お前さんの分も含めてざっと計画だけ立てるから、少しだけ時間をくれ。俺だけならともかく2人だからな」


「わかった、準備ができたら教えてくれ。そこまで巻き戻す。開始はキミが封印を外す直前からで、ボクを拾ってからが崩壊のスタートになる」


「はいよ。走力にはせいぜい期待しておきますよお嬢様」


「むっ……お嬢様? それはボクのことか?」


「それ以外に誰がいるってんだよ、ヴィーデお嬢様。別に姫とか王女様でもいいんだが、今後のこともあるからな。どっかのお忍び貴族令嬢とその付き人って立場ぐらいのが後々楽だし、雰囲気もそれっぽいんだよ」


 まあ箱入りとか、見目が綺麗すぎて人心を惑わしそうとか、そんな意味も含めてな。


「おお、エイヤは本当に物事の見通しがいいんだな。ボクはそんなところまでは考えていなかった。それにしてもこのボクがお嬢様だなんて……ああ、ダメだ。こんな時だってのに興奮して落ち着かないぞ」


 うわ、ほんとにこのお嬢さんは人間をダメにする装置だな。

 あからさまに顔を赤くしてドギマギしやがって。

 こんなにほほえましく喜ばれたら、なんとなくそう思っただけとか言いだせねえじゃねえか。


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