エピローグ:閑話 ミルトアーデン城、娘の部屋
「行ってしまったか……」
ボンテールは、娘の部屋から街を見下ろす。
この30年、ひたすら上を目指して走り続けてきた。
それもこれも、今までのみじめな自分ではいたくない一心で、だ。
気がつけば、自分のことすら見えなくなっていたらしい。
金さえあればいい、金だけが私を裏切らない。金を集めて強くなろう。
そう思って、部下をとにかく金を与えて使い倒し、いいようにこき使っていたつもりが、いざとなってみればどうだ。
部下を切り捨てることも出来ないばかりか、人生を救われたと感謝され、部下たちに励まされ助けられた。その上、便利に使おうとした盗賊にまで、手取り足取り教えられる始末だった。
私もそろそろ、走り方を考える年なのだろう。
「……お父様」
部屋に、優しい声が響く。我が娘、エウレーダ。
まだ16になったばかりの、色白で美しい大切な我が娘だ。この子には、私のような苦労はさせたくない。
というのに、大変な目に合わせてしまった。
娘は、呪いが解けたものの、衰弱からはまだ回復しきっていないので、ベッドから起き上がるのが精一杯だ。
もっとも、顔色も良くなっているので心配ないと思うのだが。
なんにせよ、この声がまたいつでも聞けると思うだけで、涙が滲みそうになる。
「せめて、お前が正式に礼を言えるまで、彼らにいてもらえればよかったのだがな」
昨日の今日で、挨拶もなしにもう出ていくとは。
まったく、急にもほどがある。
「ふふ……たしかにお礼を言いたかったですが、そういうものなんでしょうね、冒険者というのは」
「そうかもしれぬ。なんにしても忙しない連中だ」
エウレーダの言うとおりだろう。
自分も若い頃は、ひとところに長居せず、商機を探して走り回っていたものだ。
なら、あれだけのことをやってのける連中は、なおさらそうかもしれん。
「わたしやお父様など、きっと気にかけていないだけなんでしょう。想像でしかわかりませんが、冒険に比べればこれもふつうのコトなんですよ、彼らには」
「ふ、舐められたものだな……だが、この借りは、いつか返さねばならぬな」
「ふふ、そうですね。わたしも、どこかで礼をしなければなりません……」
やれやれ。親子で笑い合う。
まったく、私が目指していたものなど、ちっぽけなモノであったということか。
おまけに竜の加護まで残していきおって……こちらが貰いすぎだ。
となれば、まずはスラムからだ。
教育を整え、環境を整え、民衆に機会を与えなければならん。
盗賊ギルドについても、冒険者ギルドに働きかけて【斥候】と名前を改めさせる必要がある。
やるべきことも問題も山積み……忙しい置き土産を残してくれたものだ。
ただ、これは単なる約束でしかない。彼らに対する恩返しは別だ。
それに、呪いの出どころもまだ明らかになっていない。
「やれやれ、どうしたものかな」
「また心配事ですか? お父様らしいですが、もう少し周りも信用なされては?」
「む……」
娘に笑顔でこう言われては立つ瀬もない。
とは言え、ドコから始めればいいものか。金のバラまき方しか知らぬからな。
まあ、出来るところから工夫していくべきか。それしか知らぬなら、そこから始めればよい。金には色々な使い道があるのだし、あって困るものでもないのだから。
そう、ちょうど、いい感じに手を伸ばしてきたところを叩くには、いい使い所かもしれぬ。
ついうっかり勢いで閑話書きました!
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