003:運命の出会い
「その……こんな姿だが、大丈夫か?」
あああ女だ、こいつマジ女だった。
しかもとんでもない美女っていうか美少女っていうか、美女どころじゃねえ美女中の美女で、まるで後光が差してるぐらい尊みあふれてるじゃねえか!?
キレイで可愛くてキレイで可愛いぞ。どう見てもすごくキレイで可愛い。
俺にはそれ以上まともに出てくる言葉はないくらい、とにかくキレイで可愛いすぎる。
頭の角も、あからさまに魔族っぽいがぴったり似合ってる。
……本当にこんな理想的なヤツなんて存在してていいのか?
やべえ、どう考えても一発殴るとか無理だ……ドラゴンみたいに覚悟さえ決めれば殴りに行けるってもんでもねえぞこれ。
「ちょ、おま……なんでそんな……。ああ言葉にならねえ……どっかの姫なんてもんじゃねえぞ、おい!?」
コイツどんな感覚してんだ。こんな姿で文句なんかあるわけねえだろ、いや綺麗すぎるっちゃ綺麗すぎるんで、逆の意味ならわかるけどさ。
もう、美女なんて言葉ですましていいのかわかんないぐらい、素敵に激しくこの世のものとは思えないっていうか、実際にバケモノなんだから、この世のものじゃないすげえ美女だろコレ……そりゃ免疫のないやつは、こんなのひと目見たら卒倒もするわな!
「その……平気か? ボクを見ても特に問題はないか?」
「問題なんてあるわけないだろ! っていうかむしろなんで今まで真っ暗にして隠してたりするんだよ、見せなきゃもったいないだろ!」
「……は?」
「なんだその神がかった銀髪に白磁の肌、極めつけにサイッコーに均整の取れた神プロポーションに可憐な瞳! 俺の貧弱な頭じゃそれくらいしかわかんないが、キレイすぎ美しすぎ可愛すぎってやつだろ、ふざけんなテメエ!」
ああくそ、だからか! だから声が妙に耳障りだったってわけか!
コイツ、声から姿から、全てが好みすぎるじゃねえか!
完全に不安そうに無邪鬼な顔できょとんとしやがって! そんなの、不用意に頭なでたりして可愛がるぞこのヤロウ!
なんだこの極めつけにヤバイ存在。もうココまで来ると女神とか魔女とか妖姫ってやつだろオイ。
こんなの、国の2つや3つくらいかんたんに傾くに決まってるぞ!
存在自体が歩く禁忌の書みたいで、むやみに綺麗すぎて逆に困る。
全てがドンピシャすぎて、俺の心がざわつきすぎるってやつだ。
幻覚でも見せられてるんじゃないだろうな?
もはや王侯貴族どころか神とか魔物の領域でしかないぞ。いやバケモノだから魔物の領域で合ってるのか。
っていうか俺、こんな見目麗しく神々しいまでの小娘に向かって、さんざんバケモノとか言ってたのか。死にたい。
周りの瓦礫が崩れたらマジ死ぬけど死にたい。
「ええとその様子だとほめ言葉だから……ボクは一応、見た目的には大丈夫と思っていいんだな? 言っただろう、誠心誠意尽くしたいと」
うわ……マジで、深々と丁寧に心からお辞儀しやがった。
世の中なんでも思い通りになるような、とんでもない能力の美しすぎる魔物様が、だ。
こりゃあどっかの王様に頭下げられるより難しいぞ、おい。
だいたい、さっきまでの胡散臭さがなくなって、逆にうまい話すぎねえか?
なんでそれなら最初から姿現さなかったとかいろいろあるし。
「いやちょっと待て。なんで俺なんだ? 冷静に考え直してみると……その、なんかいろいろおかしくないか?」
「決まっている。だって、ボクがキミに好きなように使われたいと望んでるからだ」
胸に手を当てて、まさに長年待ち焦がれてたって感じで切なげに絞り出すように、熱っぽく宣言された。
これじゃ、まるで告白かなんかじゃねえか。
ヤバイヤバイヤバイ。落ち着け、落ち着け俺。
だいたい、好きなようにって……こんなヤツにお願いされたら、いろいろ勘違いするぞ。
駄目だコイツ。ウソもつけないレベルで話し下手な上に真面目すぎだ。
そのせいで、気持ちが高ぶりすぎてて話が通じてない……そこからかよ。
「えーと、その……すまん、そうじゃない。悪いが、そういうお前の感情とか都合を聞いてるんじゃない。理由やいきさつを知りたいんだ」
「あああ……すまない。なるほど、そういうことか」
いちいち、なんだか遠慮して恐縮がっている。
むしろ、勘違いして熱くなったのを照れて恥ずかしがってすらいる。
コレが演技とは思えねえし、まいったな……暗いときのがやりやすかった……。
これがこいつの言う運命か! 運命ってやつか!?
「ボクはね、運命を操ってしまうんだ。基本的に物事が都合よくなってしまう。おかげで、封じられる前は他人にいいように使われてたんだけど」
「は? お前さんに都合よく思い通りなら、使われる理由もねえんじゃねえの?」
「逆だよ。誰かに賛同してしまうとかすると、都合が良くなってしまったりするんだ」
あー、なるほど。
自分が誰かの意見に傾いたり、好き嫌いとかを持っちまうと、いろいろ世の中の運命に問題がでてくるってことか……っておい、それってかなりヤバくねえか?
これ魔王だろ、むしろ魔王どころか魔神とかそういうやつ? すごすぎてワケわからん。
「その、よくはわからんが全部言う通りだったとして、だ。もしマジならすげえ能力だと思うんだが、いいことに使ったりすればいいんじゃねえの?」
「それが……ボクには人間や他の生き物の善悪や良いこと悪いことがよくわからないんだ。物事を知ってるだけで、理解できているわけじゃないから」
なんかすげえ真剣にさびしそうに悩みを語られた。
いきなり懺悔か相談室じゃないかって気さえする。
まあ……運命なんてものを操るなんてのが自然な感覚だったら、そうなっちまうのか。
たとえば、戦争で勝った側が必ず正しいかどうかなんて誰にもわかんねえもんな。
「でも、キミだけは操れない。そういう相手を1000年かけて見つけた。それが理由だ」
さっくり言ってくれてますけど、コレって衝撃の事実すぎませんか?
クソ長い時間、ずっと俺を待ってたってことじゃねえか……けど、コイツは人も騙せねえみたいだしなあ。
「おいおい。それじゃ、なんだって俺は26年かけてこんなとこ来たって話になるんだよ」
操れないのに、俺がここに来るハメになったとかおかしいんじゃないの?
それになんか大層な話になってきて、俺みたいな野郎には過ぎた話に思うんだが。
「キミは操れない。でもそれ以外の運命がボクに都合よく動いたからだよ。だから26年もかかったし、キミの運命は歪んでひどいことだらけだったろう? ボクに近づきすぎたせいでこうして死にかかってるくらいだ」
うーわ、あっさり衝撃の事実が語られた。やってらんねえ。
言うとおりだとしたら、マジで今までのアレコレは全部こいつのせいだってことかよ。
しかもコイツにとっちゃ、1000年かけてやっと見つけた希望ってことになるじゃねえか……俺は自分のクソ人生にそんな後悔してるわけでもねえし、さすがに怒るに怒れねえぞ。
「……まあそう言われて、納得はしねえし、出来ねえし、その必要もないと思うんだが。だが、それはそれ、これはこれだ。たとえそうだとしても俺の人生を譲る気なんてねえぞ?」
「うん、わかってる。だから……ボクの運命をキミに託す。言ったろう、キミに自由に使われたいんだ」
さっきから、だいぶ必死そうにお願いされてる気がする。
いろいろ紆余曲折がたまりすぎてて、しかも話下手なせいで端折り過ぎなんだが、ガチで真剣にお願いされてる……ってより、もはや懇願以外の何物でもない。
おかしなことになってきたな、これ。
運命すら思いのままに操る神々しい美少女魔物にお願いされる、しがない盗賊(26)。
なんだか、俺みたいなやつにへりくだるコイツが、かわいそうになってきたぞ。
「ええとだな、こちとらしがない盗賊ハンターですよ? そんな魔王とか神クラスっぽいトンデモ能力の悪魔みたいなヤツが、俺なんかでいいって本気で思ってるワケ?」
「あたりまえだ! そんなの決まってる……キミはボクの運命の人だぞ。ついさっきだって自分の命より世界を選んだばかりじゃないか」
それはもう、切実に泣きそうなほど真剣な目でお願いされた。
しかも運命の人って……いやまあ運命を操るようなバケモノ様からしたら、事実上そういうことになるのかも知んないけども。
コイツ本気だ。
どうしようもなく本気だ、くそっ。
こんなの、目を見たらすぐわかっちまうじゃねえか。このままほっとくと、どうしていいかわからなさのあまりに泣きそうだぞこいつ。泣き方もわからなそうなくせに。
この調子じゃ、相談どころか話すらまともに出来ないに決まってる。
ああもう、簡単に本心かどうかわかっちまうとか嬉しくない職業病だぞ。
勘弁してくれ……すげえ超絶魔物様のくせに、そんな純粋なキラキラした目で期待をこっちに向けるな、頼むから。
どう見たって、俺にそんな甲斐性ないんだってわかりそうなもんだろ?
「そりゃ買いかぶりってもんだ。こんな世の中、死ぬときぐらいまともに死にたいだろ。死ぬ前がクソだからって、死んでもクソなんてのはゴメンだってのが人間ってやつでな」
まったくクソだ、この世はクソだとしか思えない。
やれやれ、なんで姿見せろなんて言っちまったんだろうな俺。
こんなの、いたいけな箱入りお姫様にいじわるするだけのカッコ悪りぃチンピラじゃねえか……。
「買いかぶるもなにも……エイヤ、キミの言葉で言うなら、このクソな世の中のクソ連中をメチャクチャにしてやることだって出来たはずだろう?」
「そりゃまあ……俺の人生は俺のモノだが他人の人生は他人のモノだし」
運命とかを操るとかなんとかは知らんけども、少なくとも他人にまで俺みたいなクソ人生送らせねえほうがいいと思うからな。
「封印される前のボクは言われるままにした。1000年前は言われるままにたくさん国を滅ぼしたりしたんだ。たぶんめちゃくちゃしたんだと思う。だけど、ボクにはみんなにとって、なにがよくてなにが悪いかはわからないんだ」
心底、苦しそうで情けなさそうな顔で言いやがった。
本当に裏表ないんだなコイツ。
あー……わかったわかった、だからそんな悲しさと切なさをミックスしたような、そのくせこっちを気遣ったような、それでいてどこかすがるような顔をするな。
しかたない小娘だな、ちくしょう……そして俺もだ。
さっきまでバケモノ扱いしてたってのに、コイツの顔見ただけでこれかよ……クソ。俺もほんとクズ野郎だ。
どう考えても俺より年上の小娘なのに、こんな態度されたら断れないと来た。
「なにがいいとか悪いかなんて俺が知るか。知ってたらあんな事もこんな事もやってねえだろうし、こんなところにいねえよ、ただな……」
頭をかきながら、話を続ける。
くそ、こういうのダメなんだよ。
「その、マジで困ってるヤツを蹴倒すほど腐っちゃいねえってだけだ」
半分本当で半分ウソ。
いままでたくさん蹴倒してきた。単に、倒れたやつまで踏まないってだけだ。
自分の欲求に忠実ってだけのことで、その中に【後味の悪さまで味わいたくねえ】ってのがあるだけでしかない。
だから……この目を裏切りたくない、そんだけだ。