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037:帝国を目指して

 その後は、それはもうバタバタした。


 まず、略式ながら領主の歓待や、ゴルガッシュのアイテム返還その他、いろいろあった。

 正式なのはマナーがわからん俺には無理すぎるので、むしろテキトーにしてもらったほうが飯がうまいんで、そうしてもらった。

 なお、ヴィーデやゴルガッシュはもともとお偉いさんとの付き合いとかあったっぽいので、こういう場のマナーがわかるのはともかく、ユアンナがマナー完璧すぎてビビる。

 お前どこでそういうの覚えてくるの?


 報酬とかのやり取りは早めがいいに決まってるので、金額がそれほどでかいわけでもないし、すぐに済ませてもらった。

 少し色がついていたが、それくらいはありがたく貰っておく。俺だって金が欲しくないわけじゃない。

 責任のないあぶく銭がちょっと怖いだけなんで。


 そういうわけで、ひととおりのあれやこれやが、やっと終わって夜もふけて。


「いろいろあったけど、キレイに終わったねえ」


 城の広いテラスで、ヴィーデがしみじみとつぶやく。

 うん、終わってねえ、むしろ今始まったばかりだ。


 だって「貰うモノも貰ったし、こっそり今晩中に出発しよう!」って集まってるハズのテラスに、なぜか4人いる。


「いや、その前に、いつの間にゴルガッシュとユアンナがついてくる話になってんだよ!」


 そもそもゴルガッシュがついてくるとかこれっぽっちも聞いてない。

 ユアンナは、まあ運命としてついてくるよってのは最初から聞いてたが、そもそもコイツ本人と直接そういう話なんかしていない。解せぬ。


「えー、だってスラムにちゃんと手が入るんじゃ、私は邪魔者だしー」


「おい、お前さらっと言ったけどトラブルメーカーだって自覚あんじゃねえかよ!?」


「それにヴィーデちゃんとゴルガッシュお姉さまがいるんだから、ついて行った方が役に立つしー」


 どう考えても、モフり目的についてくるようにしか思えない、すごい言い分だぞコイツ。


「ところでユアンナよ……我は、お姉さまじゃないとなんど言ったらわかるのだ?」


「お姉さまと認めてくれたらわかりまーす!」


「……」


 おお、ゴルガッシュが反論する気をなくしている。

 たしかに、ゴルガッシュのヤツは有無を言わせず相手を圧倒する癖があるから、まったく人の話を聞かない上に、威圧をスルーするユアンナは絶妙な相性かもしれない。


「というか、俺はユアンナだけじゃなくて、なんでゴルガッシュがついてくるとかもまったく聞いてないんだけど」


「む、ついていくに決まっておるだろう。そもそも、大騒ぎになるので変に出歩くのをやめろと言ったのはお前だ。その責任を取らせてやろう」


 そんな責任あるわけねえだろ! そこ! 嬉しそうに言うな嬉しそうに!

 だいたいなんでお願いしてるお前のほうが偉そうなの!? おかしくない?

 しかも、すでにさんざんめちゃくちゃな大騒ぎにした後じゃん⋯⋯泣きたい。


「まあそれだけエイヤがすごいっていうことだよ」


「うーむ、そうか? そんなもんか、そんなもんなのか?」


 ヴィーデが嬉しそうに慰めてくれるものの、残念ながら、彼女はこういう方向でなんかしてくれるわけではない。

 癒されはするのでありがたいんだけど、作業量が変わらなすぎる。


 冷静に考えてみても、癒しスケジューラー、脳筋ドラゴン、なに持ち込むかわからん交渉役、そして雑用リーダー。

 なにこのパワーバランスがステキに歪んだパーティ。人間には荷が重すぎませんか?

 これで隣国の帝国属領通り抜けするのかよ、マジか。


 まー、俺に拒否権とか与えてくれなさすぎな人たちなので、俺がどうにかするしかないんですけどね……。


「あー、いいかお前ら。別についてくる分には止めないけどな。無茶すんなよ、頼むから無茶すんなよ。ただでさえ隣の国はやばいんだから!」


「ふむ。我がおるのだ、問題なかろう?」


「そうそう。ゴルお姉さまにわたしもいるんだし、大抵のことは大丈夫じゃない?」


 うん、だめなふたりが一番自信たっぷりなヤツだ。

 そうだよね、世の中そういうもんだよね。

 お前ら、過ぎたるは及ばざるがごとしすぎるんだよ。むしろ世間をオーバーキル。


 だいたい、こそこそ歩きたいのにクソ目立つ女性グループ連れとかさ、確実に一発で覚えられるやつじゃん!

 実質的に魔族領の帝国と違って、属領のお隣さんはそんなに魔族がそんなに多いところじゃねえし、こんな美人まみれの混成人種パーティーとか、マジ嫉妬で通報されるレベル。

 すげえ頭痛い……。


「あー、ところでゴルガッシュ先生、つかぬことをおうかがいしますが。その角と羽と尻尾のフルコンボって隠したりとか、どうにかなんない?」


 予想はつくものの、一応、聞くだけ聞いてみた。


「はッ、なにを言っている。なるわけなかろう、竜の誇りであるぞ」


 当然って顔しやがった。むしろ見せつけてきやがった。

 デスヨネー。オーラ出まくり目立ちまくりだ。


「……あ。そういえば私、変身できるよ?」


「はぁ!?」


 おおおい、ユアンナさんから突然の爆弾発言きたよ。


「あー。それ信じてないって顔だー、傷つくなー?」


「信じるもなにも、お前そんなことまったく話したことねえじゃん!?」

 

 っていうか、いきなりなに言い出すのコイツ。知り合ってだいぶ長いけど、そんなの初めて聞くぞ。なんだそのとんでもねえ超絶スキル。それとも魔法?

 あと、そのまったく傷ついてないくせに傷ついたフリのムーブやめろ。


「あるぇー? 言ってなかったっけ?」


「あるぇーじゃねえよバカ。お前どうせいままで誰にも言ってねえだろ、すっとぼけても無駄だぞ」


「てへぺろ」


「ったく……」


 だから、城の中でも平気な顔してほっつき歩いてたりしてたわけか。

 んで、マジで命に関わりかねない情報もちゃんと共有するからこれからよろしくね、ってやつだ。

 そういうのがわかるだけに、本当に油断がならない。

 これで計算なしの天然だってんだから、また恐ろしい。


 まあ、コイツなりの誠意だってことだろうと思うんで、こっちも応じるしかないけどな。


「ほう、ユアンナもなかなか見上げたところがあるではないか」


「お姉さま!ありがたき幸せでもがもが」


「ええい、だから離れろ。そのモフるというのをやめろと」


 ゴルガッシュ先生が、一番目立つに決まってるくせにえっらそうに上から目線で言うが、余計なツッコミを入れたせいで、すっかり楽しそうに絡まれてる。

 とりあえず、最強ドラゴン様ともあろうお方が、この程度でブチ切れたら負けだと思っているらしく、ユアンナには手を焼いているのが面白いから放っておこう。


「いやあ、面白くなってきたねえ、エイヤ。ボクは先が楽しみだよ」


 ヴィーデはヴィーデで、終始楽しそうだ。

 こいつもぼっちだったから、にぎやかってだけで嬉しいんだろうな。


「あー。考えてみりゃ、なるようにしかなんねえし、気にしてもしょうがねえか」


「そうだよ、いつもキミが言ってることじゃないか。後悔しないように生きるっていうやつだよ……違うかい?」


「は、こいつは一本取られたかね?」


 嬉しそうなほくほく顔のヴィーデにそう言われてみれば、たしかにそうだ。俺は別に、世話係でもなければお目付け役でもないんだし。

 改めて色々思い直してみる。


 ソロが長かったんで、なんか変な気になっちまってたが、まともに考えてみれば、俺が嫌われる心配のないパーティってだけでもすげえじゃねえか。

 どいつもこいつも、俺を変な目で見る奴なんかいねえし、舐められたりけなされたりなんてのもあるわけない。

 もちろん、変な裏表や打算だってそうだ。これっぽっちもありゃしねえ。


 しかも、俺を含めて誰一人として自分から仲間作るタイプじゃねえときた。うわ涙出そう。


 いままで、世知辛い付き合いばかりだったんで、すっかり忘れてた感じだよこれ。

 むしろ最高じゃねえのかってところまであるんじゃねえの?

 さらに言えば、俺的には、とりあえずヴィーデが楽しそうならそれでいいし、目標は人それぞれってな。


 そういう旅だ。


 ただ、このメンバーで、あの「隻眼の荊棘姫(いばらひめ)」の国を抜けるのかと考えると、絶対なんかやらかしそうな気しかしない。むしろ積極的にやる気がする。

 うん、やるわ……120%やる。やらざるを得ないまである。


 なら、うだうだ考えてもしかたないってことだ。

 むしろ、いつそうなってもいいように考えよう。こうなっちまったら、楽しまなきゃ損だもんな。

 なにせ、運命の女神がついてんだし。

次回で一章が終わりになります!

その後は書籍化作業! がんばる!

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― 新着の感想 ―
[一言] いやあ、トラブルメイカーどころか トラブルの方から来い!と言わんばかりのパーティーですねw
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