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031:ダンジョン篭城戦・中盤

 朝。

 こちらの最大の利点は、ヴィーデがいることだ。

 なにせ、篭城戦だってのに外の情報がわかる。こいつが攻めてこないと言ったら攻めてこないので、見張りの必要がない。おかげで非常にぐっすり眠れる。

 篭城戦で一番キツイ「時間と体力の問題」が解決されてるんだから、これ以上頼るってのは申し訳ない。


 まあ、敵さんのほうも、あれだけひどいことになると、中途半端に頭を使うボスのせいで余計に身動き取れないのはわかってるんですけどね。

 そりゃあ「罠だらけの洞窟なのに、いつ煙が出て動けなくなるかわからない」なんて、誰だって入りたくないに決まってるし、そんな状態にした責任者の言うことには従いたくない。


 で、領主がタダのクソ野郎でないなら、なんか別の手を打ってくるわけで。

 それなら、弱ったと思う所に先手で交渉を仕掛けるってのが、世の中の定番だ。


「さーて、こんだけ捕虜いたらこっちもめんどくさいし、やることやりますかー」


「よく、ボクに頼らないまま、あんな人数を相手しようと思うよね」


 ヴィーデが感心したようにつぶやく。

 組織とか相手にするときは、逃げるか立てこもるしかないから、やること決まってるんですよ。

 そういう意味ではダンジョンってのは分岐はあっても、ほぼ一本道だ。守る側にとっては大変ありがたい。


「いや、すでにありがたすぎるくらいお世話になってるよ、だって寝られるし」


「そ、そういうものなのかい?」


「そうそう。ヴィーデはそこで黙って笑ってくれればそれでいいから」


「こ、こう? こんな感じ? これでいいの?」


 えええそんなんでいいの?って感じのヴィーデが超可愛いが、実際そうだから仕方ない。

 篭城戦なんて、少しずつ連続で攻略されてこっちが寝られないってのが一番厄介なんだし。

 あの人数と物量を使って、交代しながら丁寧に時間をかけてじわじわ攻略されたらたまったもんじゃない。


 されたらされたで、こっちもえげつなく恐怖と後悔でじわじわ精神削っていくんですけども。

 だからって6人パーティを2時間おきに10回撃退しても、向こうはまだまだ元気で余裕たっぷりなのに、こっちは丸1日働いた計算だからな。


 それでも、一定時間耐えきったら、こっちの勝ちになる予定なんだけどね。


「さて、じゃあここでおっさんに伝令だ。よろしく頼みますわ」


「⋯⋯ほ、本当に、我々全員を相手するつもりなのか?」


 まさか、本当にこんなことになると思ってなかったぽいので、おっさんはガチでビビってる。

 こんだけ人数かけて地道に攻略していきゃ、普通は、ダンジョンのソロ冒険者なんて簡単にすりつぶせると思うもんな。


 ふざけんなっての。

 こっちは今まで、いろんなやつに散々な目に合わされて、それで人生横取りされてきたんですよ。


「決まってんだろ。勝ち目がなきゃ勝負する意味ないじゃん」


「い、いまだったらまだ⋯⋯私がひとことぐらいは⋯⋯」


「無理でしょ、もう領主の立場なんてとっくに丸潰れじゃんよ。わかりやすい成果がないと引くことすらできねえって」


 おっさんには政治がわからぬ。

 なのでそういった駆け引きは理解できないらしいが、こんなの、グループでは絶対のお約束でな。

 スラムだろうが貴族だろうが、グループのボスってヤツはみんなの見てる前で殴られたら「相手に落とし前をつける」必要がある。力を示せないヤツは、立場と資格を失うからな。


「じゃ、向こうもびっくりするかもしれねえけど、伝言とかよろしくな!」


 目隠しとさるぐつわをして、そのまま「いーち、にーい、さーん」と、ぐるぐる回す。

 このまま担いで運んで、出口がわかりそうな適当な場所に置いてくれば終了。

 あとはおっさんが地道にがんばってくれれば、適度に拘束が緩んで、勝手にことが進んでくれるって寸法だ。上手くいけば、これでいい感じに済むんじゃねえかしら。

 いやー便利便利。



***


「伝令ーーーッ! 領主様に伝令ーッ!!」


 兵士の方が騒がしくなり、あたりがざわついている。


「早朝から、一体なにがあった」


「生存者が、なんと、敵からの言伝を携えて帰ってまいりました!」


「なんだと?」


 ぐぬっ、忌々しい。

 兵士たちの精神的回復を待って昼頃から動く予定を立てていたのが、相手が先手を打ってきおった。これでは後手に動かざるを得ないではないか。


「それで、どういった内容だ」


「こちらになります」


「なに、手紙だと?」


 さっそく開封して読んでみる。


【ミルトアーデン子爵 ボンテール閣下


 拝啓


 このたびの攻略戦において、大変ご健勝のことと思われますが、いかがお過ごしでしょうか?

 失礼ながら、火急の要件のため、挨拶も早々に本題に入らせてもらいます。


 こちらは現在、そちらの捕虜について全員の無事を確認しております。

 このまま撤退なされるのであれば、命は保証します。ですが、攻略を続けるのであれば、捕虜の命はさだかではありませんし、残念ながら、今後も犠牲者は増え続けると思います。


 閣下にも引けない理由がおありのようですが、兵士たちはどう思うでしょうね。

 立場ある方や皆様方、ともに大変なご苦労があるかと申します。


 こちらは大変恐縮ですが、ご期待に添いかねますこと、心よりお詫び申し上げます。

 次の予定を楽しみにしております。


 では、領主様閣下一同、お体を大事になさってください。


 敬具


                スラム出身でどうしようもない盗賊野郎より



 追伸

 スラム出身だからって、他人様をなめんじゃねえよバーカバーカ m9(^Д^)プギャー】



「ぐッ……ぬ……!!」


「い、いかがされましたか!?」


「いや、なんでもない。あまりに失礼な内容だっただけだ」


 思わず声が出るほどに、これ以上ない、慇懃無礼かつ失礼極まりない手紙だ。

 こちらに都合があり、交渉の余地など一切ないことを見切っていて、この内容。

 捕虜について、こちらが譲歩できないのをわかっているクセに容赦がない。


 しかもだ。


 スラム出身で、ちゃんとした読み書きが出来る。どこかで文字を覚えたのだ。

 それだけでも驚きなのだが、あの盗賊は「まともな手紙の書き方を知っている」ということだ。

 冒険者の中でも、魔術師や僧侶でなければ、そうした知識など知らないはず。


 つまり、だ。

 それだけ頭の回る人物が、いきあたりばったりではなく「本当に我々100人を相手にして勝算がある」ということになる。これはそういうところまで読ませる挑発だ。


「……なぜだ」


 疑問は尽きない。

 脅しにもひるまない。力押しも通じない。それどころか先手を打たれていいようにされている。

 ただのスラム上がりの盗賊に、この私を含め、100人が赤子のように扱われている。

 これでは、まるで相手の方が格上ではないか。


 断じて認めることは出来ない。


 もし、たとえそうであったとしても、だ。

 これだけは、なにがあろうと譲ることは出来ない。であるなら、すべきことはひとつしかない。


「全員を集めろ……今後の方針を伝える!」


 そこまでの相手ならば、こちらも覚悟を決めねばならない。

 もとより個人的な都合なのだ。


「私は……これより個人パーティを組んでこの試練に挑む! 名前を挙げられたものは私とパーティを組むことになる。他の者に関しては、残りたいものだけココに残ってくれればよい。このような主で良ければ、だが」


「な、なんですと! 領主様が御自ら!?」


 部下が驚くが、仕方がない。

 たとえあの手紙が完全なハッタリだとしても、部下が死ぬと分かっていて兵を動かすわけにはいかぬ。

 小細工をしようにも、生き証人がいる以上、手紙の内容が兵士たちに漏れるに決まっている。そうなれば、もともとの失策が我が責任である以上、ただの暴君として扱われる可能性まである。


「そうだ。そういう手紙の内容だ。悔しいが、これだけの犠牲が出ている以上、私の個人的な理由にこれ以上、大事な部下を付き合わせるわけにはいかん」


 当然のことながら、施政者は自ら冒険などに出るべきではない。

 若い頃は商人だったとはいえ、いまはその体力も衰えている。そもそも、単騎で出るべきではない。政治でもないのに。

 無茶かもしれないのは十二分にわかっている。いや、もちろん無茶でしかない。


 そんな事は最初から存在する問題で、いまさら考えるべきことでもない。

 だが、ココで引くわけにも兵を動かすわけにもいかぬなら、これは誰かでなく、最初から私が対応すべき問題だったとも言える。

 ……その、本来あるべき状態に、この私が無理やりに引きずり出されたのだ。

 立場にかかわらず、誰にも試練を与える。そういう場所だったことを私が知らなかっただけ。


 なぜなら……ここは”宿願の迷宮”であり、踏破したものこそが願いを叶えられるべきだからだ。


「出るぞ、準備をせねばならん。だが、奴め……このままでは済まさんぞ、決してだ!」

ロシアロケしてきました、すごかった

あまりのすごさに太って帰ってきました……おそロシア

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