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026:運命ってヤツの捉えかた


 「さーて、じゃあ早速ダンジョンでひと仕事しますか」


 「うん! それで……ボクはなにをすればいい?」


 張り切るヴィーデがいちいちかわいい。

 仕事と言っても、罠のポイントとかわし方、仕掛けの見回りと確認ぐらいしかやることないんだけども。


 まあ、それでもとりあえず、領主がくる前にやることはやっておきたい。


 入口であんな事になったところに領主がやってきたら、おそらく大変なことになるんだろうなって想像はつく。

 ぶっちゃけ、こちらの戦力を誤解させたり、相手の混乱を招くのも必要な仕事っちゃ仕事だったので、そういう意味では、不必要にでかい警備は俺にはありがたかったとも言える。

 だって、運が良ければ、衛兵連中が失態を隠すために、俺らの戦力を大きめに盛って話す可能性まであるし。


 たった一人や二人の侵入を見張るのに、ひと部隊も使っておいて「あっさり侵入された上に領主様お出迎えセットは全部焼かれました」なんて怖くて話しにくいもんな。


 敵にまで情報を丁寧に教えてくれるような、人のいい部隊長の苦労が忍ばれる。

 つうか、おひとりさま探索の専門家舐めんじゃねえぞってのもあるけども。


 正々堂々とせず、正面切らないで戦えないと、世の中にはこういうトラブルだってつきものだからな。

 世の中、なんかあったときに、いつだって喧嘩できるくらいの心の準備は必要だ。

 数の暴力で泣き寝入りなんてのはしたくないもんな。


 ……そんな事を考えながら、ヴィーデに罠を一通り説明して回る。


「そこ、ただのくぼみに見せかけて罠だから、踏むと足取られて転ぶぞ」


「へえ……こんな自然を利用した罠ってのもなかなか侮れないね」


 感心したように罠周りをチェックするヴィーデ。


 彼女のすげえところは、この理解力もある。

 普通、転ぶって言われて、それがすごい罠だっていう解釈が出ない。


 だってこいつはそもそも魔神かなんかみたいだし、付き合ってる相手が帝国皇帝とか、ゴルガッシュみたいなとんでもないドラゴン様とかですよ。


 そんな彼女が「転ぶ」ってだけの人間用の罠を「侮れない」って考えるこの理解力だよ。

 

 実際問題、意図せずに足を取られて転ぶってのは見かけ以上に恐ろしい罠でな。とくに、洞窟なんかで下手に転ぶなんてのは最悪中の最悪だ。

 いとも簡単に骨折、捻挫するし、最悪、頭が陥没して死ぬまである。

 石の地面っていう鈍器に、自分の重量で、ろくに防御もなしに殴られるんだからな。


「しかし、ヴィーデはすごいな。これがヤバい罠だってわかるのか」


「ボクは、転んで死んじゃうような運命だってたくさん知ってるからね……」


 なるほど、いろんな実例を知ってるぶん、理解も早いのか。


 それにしたって、コレの危険度がわかるってのは、マジで冒険者としても心強い。

 人間の動きについて英雄クラスが普通だって勘違いしてたくらいだってのに、修正力と分析力半端ないな。覚えとこう。


「ところでエイヤ、ひとつ聞いてもいいかな?」


 珍しく、ヴィーデの方から質問が出てくる。

 いつもなら、喜んでこっちの対応を見てるか、嬉しそうに聞いてるだけなんだけども。

 これはいい傾向かもしれない。


「なんでも構わないぜ、答えられる範囲なら」


「ボクは……どこまでやっていいんだい?」


 なにかを決めた感じのヴィーデ。

 やる気だこれ。あどけない笑顔でおっそろしい質問だな、オイ。


 ただまあ、なんであれやる気が出たってのはいいことだ。

 どうも、いままでなにも踏み出せないとこまで落ち込んでたっぽいからな。

 彼女にしてみれば、息をするように運命が動くってのは大変なことなんだろうが、俺は本人でもないし、そんなもん肩代わりもできない。

 それに、背負いすぎだっての。


「んー、無理のない範囲で好きにやっちまっていいんじゃねえかな」


「無理のない範囲?」


 もしかして、止められると思ってたんだろうか。それとも、範囲をわかりやすく指定してくれるとか思ってたかもしれないなあ。

 だが、俺に答えられるのはそのどっちでもない、ちょっと厳しい対応かもだが、必要な話だ。


「ひとことで言えば、あんまり気にするなってことだよ」


「あ……その、ええと?」


 せっかくの決心を、半ばスルーされたみたいになったヴィーデが戸惑う。

 そりゃそうだ、自分では覚悟だと思うかもだが、決心ってのは最初から無理してんだよ。


「ヴィーデ。お前さん、無理しすぎじゃないか? もっと肩の力抜いてもいいんだぜ?」


「それって、どういうこと?」


 そうか、そこからか……。


「お前さん、運命は自由になると思ってるし、自分で好きに弄り回してると思ってるだろう?」


「そうだよ、ボクが思えばそのとおりになってしまうからね」


 なにをいまさらそんなことを聞くんだろう、といった感じの表情だ。

 うん、薄々感じてたが、これは出来すぎてわかってねえってやつだな。


「逆だよ。ヴィーデのほうが運命に振り回されてんのさ。全然使う側に回ってねえんだよ」


「……え?」


「深く考えなくていいってことさ。前にも言ったがヴィーデの能力だろ、そんなの普通だっての」


「ちょ、ちょっと待って! これ、普通? 普通って言っちゃっていいの?」


 慌てる姿がいちいち可愛らしい。

 ちゃんと向き合って考えてみたことがないって感じだなあ。


「そうだよ、普通だろ。だって呼吸するようにできちまうんだから仕方ないじゃん。息をするだけで誰だって生きてるけど、それだって十分すげえのにみんな理解してないしさ」


「エイヤは、本当にすごいことをサラッと言うよね……」


 美少女の、感心半分呆れ半分って感じの尊敬の眼差しって、なかなか見られなくて貴重かもしれない。しかも、伝説級の魔神様ですからね。


 でも、運命とか操られてもそうでなくても、俺にできることなんて変わらないからな。

 世の中なんて、他人はどうあれ、自分に出来ることを最善であるように地道にやるだけですよ。


「まあ、疲れたり振り回されるってんなら、自分で思ってるより運命なんてうまく回ってねえんだよ。能力が本当に思った通りに使えてるなら、困らねえし便利なだけだろ」


「……あ」


 意識の隙間を自覚したっていう、隙だらけ無防備な顔。

 こいつに付き合うことに決めてから、彼女のこういう表情を、つい見たくなってきたのは自分でもなんか申し訳ない気もする。


「能力ってのは道具だぜ。たとえば、馬が人より少し速く走れる程度のことですよ。で、馬と人間はそこそこうまくやってるだろ?」


「うん……うん!」


「馬は、人より速く走れるのが普通で、別に気にしてないと思うんだ。だから、ヴィーデの能力だって、他人より少し運命を回せるだけってことでいいんじゃねえか?」


 ヴィーデが、言葉を失うほど驚いてる。

 でも、自分とはどこかで向き合う必要あるし、能力なんて自分次第だしな。


「運命を変えるなんて、実際は普通にどこの誰でもやっててさ。いまの俺だって、領主の運命ぐちゃぐちゃにかき回してるだろ? 世の中なんてそんなもんかもしれねえよ?」


 まあ、俺の言う運命の考えかたは、ヴィーデの認識とは違うかもしれないけどな。

 それでも、コイツがなにをどう思うかに関係なく、俺は俺に出来ることをやるだけだ。俺が必要だと思ったことを俺がやるってのは別に変わらない。


 で、肝心の彼女は、自身を抱きかかえるようにしながら、なんか身を震わせて……あれ?


「ああ……本当に、本当にだ。キミは……素晴らしく大胆な考えをするよね」


 え、ちょっとまって。ヴィーデの目が潤んでる!

 俺、そこまでなんかヤバイこと言った? なんかやらかしちまったか!?


「うわ……いやその、悪い、俺なんか変なこと言っちまったか?」


「あああ、ごめんエイヤ。そうじゃないんだよ、逆だ逆! ボクが感動しすぎて少しおかしくなってるんだ! キミは本当に最高すぎてもう……なんと言っていいか」


 顔を真っ赤にして感動してるってやつだったってわけか、ああよかった。

 俺、なんかそこまですごいこと言ったつもりはねえんだけどな。


「その……ええと、なんかの足しになってくれりゃそれでいいってことよ」


「あは、あはははっ! そうか、そうなんだね……まったくキミってやつは!」


「……は?」


 いきなり、すごく吹っ切れたように嬉しそうに笑い出した。

 泣くほど感動したかと思えば、次の瞬間いきなり笑い出すとか、ワケがわからない。


「よし、じゃあもう遠慮しないよ! ボクはボクらしくってのは……合ってるかどうかわからないけど、たぶん、こういうことでいいんだよね!」


「……え?」


 そして、いきなり手を握られた。

 あまつさえ、白くて細くてきれいな指にきゅっと握りしめられた。

 なにこの感触ヤバい。あのユアンナのヤツですら、こんなふうには握らない。


「エイヤは、もう絶対にボクのご主人さまだからね!」


 うん。

 もう、なにを言われても、主人としてとてもステキに彼女の言うことには逆らえない気がする。こんな嬉しそうな顔で言われたら無理。超無理。

 そして、なんかひどくおかしな方向で納得された気がする。

 とてもやる気になってくれた上で、自分らしさってやつのきっかけを見つけてくれたっぽいのは嬉しいのだが、いろいろとマズイ気がする。


「いやあの、ヴィーデさん? それ、どういう意味……」


「”さん”付けなし!」


「はい」


「これからはボクをヴィーデって呼びすてすること! 好き勝手ボクに命令すること!」


「はい」


「これからボクは、嫌だったら嫌だってはっきり言うから! 間違ってても気にしないからね! エイヤだって、そうしてきたんだろう? だから、ボクもエイヤに従うんだ……!」


 満面の笑みだった。もうサイッコーにキラキラ輝いてる。


 もう、誰かの言うことを聞くだけの、おどおどしてるだけの自分じゃない。

 踏み出したら、なにか壊してしまわないか怖がってるだけの自分じゃない。

 そういうことを自覚したってやつって感じだ。


 やっぱ、こいつの理解力とんでもないわ。

 そして、女ってのはすげえ、って思った。あと、魔物で魔神だって思った。


 だって、1000年の孤独に耐えきってるんですよ。しかも、他人の運命をめちゃくちゃにするかもしれない、そんな責任まで自覚したってことですよ。たとえうまくいかなくても。


 決心とかじゃなく……心が理解した、納得した。つまり、覚悟を決めたってやつだ。

 それが、俺みたいなクソ野郎に心底惚れ込んで、全て預けるって言ってくれたんだぜ?


 ……マジで惚れそうじゃん、こんなの。


 




 しかし、領主はどう攻めてくるつもりかね。


 回復ポーションによるゴリ押しには限度が出やすい。

 ぶっちゃけ回復しようがなにしようが、罠ってのは痛いし怖いんだよ。

 なにせ、敵と違って勇気振り絞るためのわかりやすい相手がいないし、罠ってのはある意味、ヘマであり失敗だからな。

 つまり、罠にかかるってのは、頑張って前に進んでるのにダメなやつ扱いされかねないし、無駄に経費かけることになるわ痛いわケガするわで、なんにもいいことがない。


 あんな人のいい真面目な部隊長が関わってるならなおさらだろう、部下が嫌がったら無理に進めなくなるに違いない。実際それで足踏みしてたわけだし。


 だからこそ俺に頼み込んだってのに、変に信用しきれてないせいで余計ややこしくしてやがる。人間不信で金しか信じないやつってのは世知辛い。

 そんなヤツが願いを叶えてもらうって、なにを望んでるんだか。


 まあ、こっちは準備万端だぜ?

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