022:スカウトギルド
覚えてやがれドラゴン野郎、そのうち一発殴る。たぶん、きっと。
そんなどうでもいいことをこっそり心に秘めつつ、森の洞窟をあとにする。
ありがたいことに、迷宮には魔法的にゴルガッシュしか使いようがない裏口があって、そこから出してくれた。とくに今回みたいな場合、入口を回避できるのは助かる。
ドラゴンの魔法ってのはホントよくわかんねえなこれ。
でもよく考えると、願い叶えてもらったあとに洞窟を戻るってのはカッコつかねえから、威厳と手順を大事にするゴルガッシュのヤツがそんな手落ちをするわけねえって考えると、いろいろ納得だ。
ヴィーデのときみたいに、崩落する封印ダンジョンとかマジ勘弁して欲しい。
「さて、じゃあ、ちゃっちゃと行きますか」
ざっくりとした計画だが、おそらくゴルガッシュのところまでは引っ張れる。
アイテムを揃えて竜の前で願えば叶う、みたいなでっち上げなら、2層攻略も終わってない連中には真偽の確かめようもない。
そして、願いとなると、おそらく本人がわざわざ出てくる必要がある。
もともと、突破が確定した時点でお出ましになるはずだったんだろうしな。
まあ出たトコ任せではあるが、あとは時間と段取りの勝負になる。
俺たちは大急ぎで、なんとか夜の街にたどり着いた。
「まずは、アイツのところだな」
「ユアンナさんのところだね?」
そう、なんにしてもギルドへ報告にいかないと始まらない。
街へ戻ってくるなり、そのままギルドに直行した。
表向きは売れないオンボロ雑貨店の裏口から扉を開け、呼び鈴を3度鳴らし、いつもの合言葉を言う。
「よう! なんでもいいんだ。かまわない。まともな品を見つくろってくれ」
仲間である符丁を済ませると、奥からいかついおっさんが応対に出てくる。
頭文字で【通し】をするバレバレのやり取りなんだが、こんなワンクッションでもあると面倒がかなり減る。
この程度がわからん連中なんぞ、ギルドに入れる理由もないってな。
盗賊ギルドはその性質上、いろいろとクソめんどくさい。
基本的にスラム出が中心の、義理堅いだけのチンピラギルドだからな。
おかげで、本来は斥候ギルドであるはずなんだが、蔑称も込めてうちの街では盗賊ギルドって呼ばれてる。まったくもってふざけた話だ。
それを甘んじて受けざるをえない俺らも、どうしようもねえけどな。
なぜって、俺らのギルドは諜報とか裏情報なんかも扱ってる関係上、表立って堂々とやってると、よそといらん軋轢が生まれるからだ。ぶっちゃけ、ある意味ギャングに近いところもある。
なので、低く見られるぐらいで多少でも良好になるなら、その程度は受けるって話だ。
まったく世知辛い。
「おう、じゃあ中入りな。注文を詳しく聞かせてくれや」
「ありがてえ、よろしく頼む」
いつものように、奥の廊下からつながってる別棟のギルド本部に入る。
ヴィーデとは離れるわけにもいかないんで、俺の後ろに隠れさせながらギルドまで連れてきた。いまはとにかく時間が惜しい。
「おーい、ユアンナはいるか! 大至急!」
「……ん、どーしたのそんなに慌てて。エイヤらしくもない」
ユアンナが、応接室のソファで寝っ転がったまま、耳をぴこぴこ揺らしながら笑顔で応える。
暇そうでけだるげなくせにいちいち態度がなまめかしいが、コイツこれで天然だ。相手にしてると時間の無駄でしかない。
それより、この時間ならギルドにいると踏んでたが、助かった!
「どうもこうもねえ、おまえさんのクソ案件だよ! あんなのどっから持ってきやがった。依頼人が踏み倒す気まんまんじゃねえか……後始末手伝ってもらうぞ!」
「えー、割のいい仕事だと思ったし、アンタならそれでも十分イケるでしょ?」
イケるでしょ、じゃねえよ! 当然のような顔しやがって。
割がいいってことは、スジの悪い依頼って知っててよこしやがったってことじゃねえか。
「まあ出来るコトは出来るけどな、そのためにおまえさんも必要なの。ほら依頼の品と完了報告だ……さっさと行くぞ!」
「え、やだ……そんな強引に、もうやだエイヤったらそんな積極的もがもが」
めんどくさい口を黙らせて、ヴィーデと二人がかりで強引に引きずり出す。
「いいから来いっての。テメエにも責任とってもらうからな!」
「ボクは散々モフられたんで、やるだけやっていいって聞いたよ」
「もがーーーーーーー!?」
容赦なんかしねえし。
ユアンナの依頼はいつもこうだ。
だいたい内容以上にめんどくさいことになるんで、いつもの恒例行事だな。
色気と天然に任せて依頼持ってくるもんだから、トラブル満載すぎて大抵はエライことになる。そのくせ、絶妙にギリギリこなせないレベルじゃねえってのがまた腹が立つんだが。
おかげで、こうしたスレスレのことになるってのに、それを綱渡りと交渉だけでどうにかするってのがまたコイツのすげえトコだ。
アフターケアが上手いとも言えるが、まさに文字通りの女狐っぷりと言える。
つまり、こういうときは、相手しないで口塞いで連れ出すに限る。
ヴィーデと二人で外に連れ出して、そのまま移動がてら説明する。
「もう……一体どういうことなのよ!?」
「どうもこうもねえ。依頼がヤバすぎて、下手すりゃおまえさんまで狙われかねないってだけだ」
ユアンナは不満たらたらに文句つけてくるが、自業自得だ、知ったことか。
ギルドに入るところは張られてたかもしれねえから、こっからは時間勝負だ。
どっちにしろ、依頼の完了報告した以上は情報が向こうに行く。遅くても半日、早けりゃすぐにでも、大急ぎで動き出すに決まってる。
「ふーん、なるほどねえ……でもいいわ、ヴィーデちゃんが一緒ならモフり放題よねえ?」
「ええっ、ちょ……ま……!?」
「もふーん!」
ほんとにコイツは察しが早い上に調子いいな。
ヴィーデがさっそくおもちゃにされてる。
まあ、ヴィーデが読んで避けないってことは心底嫌がってるワケじゃないんだろうけど、大変だな……。
「おい、じゃれるのもそのへんにしとけ。俺の読みだと、遅くても今日中には例の洞窟に依頼人が来るんだよ。マジでクソ攻略のゴリ押し野郎だから手段なんか選ばねえだろうし」
「はぁい……で、算段と計画はどんな?」
だからそこ、ヴィーデから手を離せ。
「まあダンジョンに引きこもって罠をうまく使う」
「いいけど、今回の依頼主ってバックにいるのはボンテール子爵よ、大丈夫なの?」
「マジかよ!? 領主じゃねえか!」
コイツ、あっさりと依頼主バラしやがった。
依頼終わったし、向こうが契約違反にでてきてると思って容赦ねえな。
っていうか領主か、領主なのか……まあたしかにヴィーデにしてみりゃ辺境貴族だけどさ……重い話になってきやがった。
「そうよ。まあ、スラムを放置するような素敵な領主だけどねえ」
「まあ、金儲け主義だからミルトアーデンが栄えたとも言えるし難しいとこだな」
ボンテールの野郎は、ぶっちゃけ領主としてはクソ野郎だと思う。ただ、優秀だ。
よくも悪くも金があれば通せるって意味では話が早いし、商売はうまい。
金があるから街も栄える。栄えれば金が入ってくる。
もちろん、その一方で街の闇も深い。
スラムは放置され、金を失った連中はスラムに流れるし、そうなると面倒事は全部スラムのせいになる。
なぜって、スラムは金にならねえからだ。
貧乏な裏通りは放置されて闇を一手に押し付けられ、表通りは華やかで安全ってことになる。当然、金のない連中には衛兵も冷たい。
そうなると自警団やギャングみたいなのが発生するし、それを進化させて表との窓口になったものが俺らのギルドとも言える。
ただ、そんな掃き溜めの窓口に金持ち領主が絡んできたとなると話は別だ。
だいたい、ボンテールのクソ野郎は金しか興味ない。利権が絡まないと動かない。だが、面倒なことに、金を回せる領主ってのは世の中を回せる。
問題は、そんな金の亡者が、いい額でお忍びの依頼を出したってとこだ。
「ユアンナさあ……なんで毎回、そういうヤバイところに足突っ込むわけ?」
「だって、お金くれるならいい話でしょ? 支払いは良さそうだし」
そんなの当たり前って調子で、嬉しそうに言いやがったよ。
ああそうだった。コイツ、いつもどうにかできると思ってやがるんだ。
ホント悪気もなく面倒見もいいし絶妙なんだよな……。
だが、街を出ようと門に向かおうとしたところ、ヴィーデが口を挟む。
「エイヤ。盛り上がってるところすまないが、ボクらは街を素直には出れないぞ」
「マジかよ」
「門番に通達が出てるんだ。このまま行ったら捕まるんじゃないかな」
相手もなかなか動きが早い。この感じだとギルド前で張られてて、伝達とかは魔法か?
こりゃ、ゴルガッシュに裏から出してもらわなかったら洞窟の入口で捕まってたな。
さて、ここからどうするかだ。




