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019:ドラゴンとの対峙


 思ったとおり、3層を抜ければダンジョンは終了だった。


 魔物ってヤツは、死んだら素材と魔石に変わるんで、魔素が抜けないうちに魔石袋に回収しておく。

 素材はまあ、持ちきれる分だけだな。盗賊の常として荷物の重さは命取りなので、相応の空間収納袋を持ってはいるが限度がある。

 さすがにグレートケイブウルフ6匹分の素材は無理。せいぜい3匹分ってとこか。


「ふむ、持ちきれないのかい?」


 その様子を見て、ヴィーデが声をかけてくる


「お、なんかいい方法があるのか?」


「今はない。でも、あとでどうにかすることはできなくはないかな」


「そっか、ありがとな、期待しておくぜ」


「えへへ」


 ヴィーデは相変わらず、ちょっとしたことで笑う。

 礼を言われただけでこの喜びようですよ。 


 でもなんだろうな。

 今はすごくいい笑顔なのに、なんか違和感があるな。

 まあ、いまは考えないでおこう。


 それに、残るは最後の部屋だけだ。

 つまり、この先は、一般的に言って【非常によろしくないもの】とのご対面と言える。


「あー、ココはやっぱりドラゴンってことかね?」


「そうだねえ、ボクはあまりなにもしてあげられないけど、応援ぐらいはできるかな」


「そっか、ありがとな。まあやるだけやってみるさ」


 正直、特にコレって対策が立てられたわけでもないが、話が通じる可能性もある。

 期待しない程度に頑張ろう。


 それじゃ、嬉しくないご対面といきますか。

 いかにもな彫刻の入ったでかい扉を開くと、4層どころか6層ぐらいまでいくんじゃねえかと思うぐらい、延々と坂を下らされる。

 そして、いきなり外かと見間違いそうなほどに、めちゃくちゃ広々とした超巨大な空間が開けたかと思うと、ヤツがいた。


 まあ、その……いわゆるドラゴンってやつだ。


「いまのうちに後ろに下がれヴィーデ。ありゃマトモに相手するやつじゃねえ」


 でかい。とにかくでかい。まるで城みたいなヤツが、金銀財宝の上に寝転がってる。

 これって、本当に生き物なのか? 鱗一枚でも人間よりでかいっておかしくねえか? たぶん、文献で見た古代種エンシェントかなんかじゃねえのかって思う。


 歴史に残る激ヤバ案件だろう、コレ。


 こりゃ対策どころじゃねえ。アリが人間相手にどうにもできないみたいなもんだぞ。

 なんでこんなヤツ倒そうとか思えるんだみんな。そこにいるだけで超圧倒的じゃねえか。


 そんな、人間なんて存在感だけで殺せそうなやつが、洞窟中に響き渡るような音で言葉を発した。


「ずっと見ていたぞ、人間」


 うおおおお、空気が震える! 超うるせえ!!

 まあ、あの大きさで話したらそうなるとは思うんだけど、死ぬほどやかましい。

 あの野郎、城みたいな巨大サイズなもんだから、とにかく声が響きまくる。


 ただ、やべえなーとは思うものの、思ったより気が引けてない。

 産毛が逆立ちそうなほど鳥肌立ってるし、声を聞いただけで吐き気がしそうなほど押しつぶされそうなくせに、その割にはマトモな心持ちでいられるって気がする。


 あまりに凄すぎて、現実感なさすぎるのかもしれない。なんかあったら一瞬でぺしゃんこだもんな、こんなの覚悟するしかねえだろ。

 とはいえ、話してくれるって以上、相手してくれる気はあるってことだ。

 それだけでもありがたい。


「おお……こんなすげえドラゴンに見てもらえるってのは、なんか冒険者冥利に尽きるってやつだな」


 ああ、やべえぞ俺。

 バッドハイってやつだこれ。なに偉そうに言ってんだ。

 胃がグルングルン回ってる感じなのに。


「は! よく言う、人間が! 他人の犠牲で此処に来るのがそんなに栄誉か? おおかた、つまらぬ欲に駆られて来たのだろう? だが契約は契約だ。願いを言え。そして死ね」


 あ、これ、マジで怒ってるやつじゃん……。


 だいたい、なんで俺が他人の人身御供にされてんだよ。これアレか。もしかして俺をいけにえにして、クソみたいな依頼人にいいとこ取りされるってやつか?

 っていうか、そもそも契約とか願いってなんだ。そんなの知らねえぞ。


 くっそ、ユアンナのヤツ、とんでもない依頼よこしやがって。

 ……だんだん頭きた。


「すまないがちょっと待ってくれ! 俺はギルドの依頼で来たが、単独だ。先行隊の連中は面識ないしまったく知らない。その契約ってやつもわからん。まあその……アンタの前じゃ、命ぐらいしか賭けるものはないが、そこは賭けてもいい」


 マズイマズイマズイ。全身が警報を発してる。魂が、コイツに逆らえねえって悲鳴あげてる。

 なのに、あまりにヤバすぎて、逆に体が奮い立ってやがるぞ!?

 だいたい、命賭けるとか頭おかしいだろ俺……吹けば飛ぶ命だってのに。


 それに、さっきから人間人間って、意外とヴィーデが人間じゃねえって気付かれねえんだな……って、待て。なんか、少しおかしくねえか?

 こんなすげえドラゴンなら、それくらいすぐわかりそうなもんだと思うんだが。違和感は大事にするんだ……考えろ俺。


「……ははッ、矮小な癖に、命とは大きく出たな?」


 うおお!? ドラゴンが少し首振っただけで山が動くような地響きだ。実際に山が動いてるからだけど!

 こんなの死ぬ、死ぬって! 命賭けたばっかだけど、コレじゃその前に死ぬぞ!?

 安っぽいかもだが、それでも俺の命だからな、一応! 無駄づかい厳禁!


「ふ! 人間ごときが対等のつもりか! 人の言葉など信用に値せぬ、価値は己の身で示すが良い」


 ドラゴンが俺の方に向き直るだけで、ゴワンゴワン地面がきしみやがる。

 こんなんじゃ、マジでどこか崩れたりすんじゃねえのか!? ってくらい揺れた。

 ただ、とりあえず思ったよりかは頑丈らしくて、なんとか大丈夫っぽい。

 すげえな洞窟。さすがダンジョン。


 いいぜ、盛り上がってきたじゃねえか……押しつぶされそうなプレッシャーだが、もう知ったことじゃねえ。こうなりゃ、やるとこまでやるぞ。

 さっきから、頭振られるくらい重くて吐きそうだけど。


「示すったってなにをだよ。ないものは出ねえぞ。とにかく俺は誰も犠牲にしてねえし、する気もねえ。だいたい、俺をハメたヤツの思い通りになる気もねえ!」


 ああそうか! わかった。わかったぞ畜生!!

 どいつもこいつも俺をハメやがって。


 このドラゴン、ワザと(・・・)だ。


 コイツ、全部わかってて俺を試してやがる!


 さっき【見てた】って言ってたじゃねえか。

 もし、ドラゴンみたいなすげえ存在がまともに見てたなら、俺が【連中が解除できなかった罠を外してた】のも【ヴィーデがとんでもないヤツ】なのもわかってるはずなんだよ。


 だから、ヴィーデを無視して俺に全部話を振ってやがるのか。

 クソッ! 俺がビビると思って、わざと脅かしてやがるのか。


 ふざけんな、なんで俺がこんな目に合わされてんだよ!!

 俺がなにしたってんだ! ヴィーデもユアンナも見過ごせねえだけじゃねえか!


 ドラゴンなら人間になにしてもいいのかよ、ナメんじゃねえぞこの巨大トカゲ野郎!!


「なにかするってならいつでもやってやるっての! 人間がどいつもこいつもドラゴンにビビるとか思ってんじゃねえぞ、人を試すのもいいかげんにしやがれ! いいぜ、どんなことでも言ってみろよ! 俺のくだらねえ命で遠吠えでもなんでもしてやらァッッ!!」


 思いっきり、振り絞って叫んじまった。

 もう、とことんなるようになれっての! 遠吠えでもかまうもんかよ!


「だけどな、サイズと質量に物を言わせて上から目線ってのは違うだろ! それじゃ世の中、でかくて強いだけでエライってことになっちまうじゃねえか! エライってのはそういうもんじゃねえだろ!!」


 うず巻くような圧力に全身が総毛立ってやがるが、相手が城だろうと山だろうと、ビビったら負けだ。っていうか、ビビりまくってるけど知ったことじゃねえ。

 人間、負けても大事なことってのがあるんだっての。


「たしかに、すげえドラゴン様から見れば俺はクソだよ! でもな、カッコつかなくても、死んでも、魂までは譲れねえに決まってんだよ!!!」


 これ以上ないくらい、限界まで吠えた。

 相手が俺をどう思ってようと知ったことじゃねえ。所詮、大きさが違うだけで一対一じゃねえか。

 ちっぽけ上等、矮小で短気な存在で結構。俺はそんなどうしようもない人間様ですよ。

 人間が人間でなにが悪い、人間ってだけでバカにされるいわれなんか無いに決まってる。


 ……うん。でもまあ、たぶんこれ死んだな俺。おいおい死ぬわアイツってやつだ。


「くく……うわっ、はっ、はっ!!」


 ……は?

 どうなるかと思いきや、ドラゴンがいきなりでかい声で高笑いしだした。

 いったいなんだってんだ!?


「そうきたか人間! なかなかに頭が回るヤツだな、うむ。いや失礼した、久々の来客だから流石にイタズラが過ぎた、許せ!」


 相変わらず空気は震えるものの、今までの圧力が嘘みたいに消え失せた。どういうこった?


 ところで、なんですかねイタズラって。命を天秤にかけられるイタズラとかね、もうね。

 うん、さすがにドラゴンジョーク笑えない。ヨワイモノイジメヨクナイ。

 あと、吐きそうなプレッシャーこそなくなったが、笑うだけでぐわんぐわん地面が揺れるので、大笑いも勘弁して欲しい。こっちはもうヘロヘロで立ってるのもしんどい。


「え、ええと。よくわからんが、お題かなんかクリアしたってことでいいのか?」


「ふ……まあそう言うところだ、人間。どこで気づいた?」


 ドラゴンは嬉しそうに言うが、こっちは全然嬉しくない。


 ひさしぶりの暇つぶしに命がけの圧迫面接されるとか、マジやってらんない。胃が痛い。ストレスで死んじゃう。

 いやまあ、ちょっと来客をからかってやろうぐらいのつもりなんだと思うんだが。


「おかしいと思ったんだよ……ヴィーデを無視して俺のことばっか話すし。しかもドラゴン様なんていうすげえ存在なら、俺が罠を突破できるくらい簡単にわかるだろ。そのへんのいばったクソ貴族みたいな、ダサい考え方とかするわけねえし」


 あああ一気にどっと疲れたわー、ってことでその場に座り込む。


 まあ、冷静に考え直してみるとだ。

 もし、俺のダンジョン攻略をちゃんと見てたってのに、他の連中と仲間だと勘違いしてたなら、ドラゴンはずいぶんおマヌケなアタマの脳筋巨大トカゲってことになる。

 だって、俺がクリアした罠を、先に来た連中はまるでクリアできてないんだから。

 そもそも、はずせる罠で犠牲を払う必要はないし、攻略の差がわかるに決まってる。


 ドラゴンなんて、頭よくてクソ強い存在ってのは文献からも明らかだ。なのに、そこまでお粗末だってなったら、もっと討伐される件数だって増えてるはずだし、ロマンもなくなる。


「ほう。いい読み筋だな、人間。気に入ったぞ」


「や、気に入った、じゃねえですよホント。こっちはなにするにも命がけなんだから、勘弁して下さいマジで……」


 見返り要求するぞこの野郎……その、ほら、そのへんに財宝転がってるじゃないですか。

 ほんのちょっとでもなにかこう、迷惑料おきもちなんかいただけるとありがたいなーって……言えないけど。


 しかし、それはそれとして、なんでこんなドラゴン様なんぞからおちゃめないたずらされる羽目になってんの俺。

 悪い意味で特別扱いされてない?


「はは、半分は冗談だが半分は本気だぞ。竜の言霊にひるむことなく、己を保てるその胆力、素晴らしい。ふふ……さすがは時計塔の魔神が認めるほどの実力者ということか」


 え、まってなにそれ聞いてないですよ。

 竜の言霊ってその、もしかしてさっきのはなんかヤバイ魔力とか乗ってたの? 気の利いた世間話で、俺を語り殺す気満々じゃないですか先生。


 それに、あの……ちょっと。

 魔神に認められる実力とか、勝手に話が大きくなってやしませんかドラゴンさん?


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