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001:バケモノとの出会い


「……あー、キミ、ちょっといいかな?」


 真っ暗だってのに、耳元でなんか声が聞こえる。

 む……さっきからうるせえなあ……まだ暗いじゃねえか、もうちょい寝かせろよな……。


「もしもしー? おーい?」


 んぁー、だから人が気持ちよく寝てるっつってんだ……面倒なんだよわかれっての。


「……あー、あー、聞こえるかね、キミ。こけこっこーあさがきたー! それは素敵にあさがきた、きたきたきたよーきたんだよー、あさがきまくりこけこっこー!」


「あああああ!! ……うっるせえええぇ! さっきからずっと耳元でわめきやがって!」


 うぜえ、キングオブうぜえ。

 まったく、いきなり寝落ちで意識がトンだかと思ったら、ぐーすか気持ちよく寝てたところに近くでずっと騒がれてみろ、寝覚めは最悪に決まってる。

 しかも周りは真っ暗だ、なにも見えやしない。


「うん、どうやら十二分に聞こえているようでなによりだ、よかったよかった」


「よくねえよこっちは最悪だよ。っていうか、誰だテメエ。こう暗くちゃなにもわかんないぞ」


 俺はまだ夢でも見てんのか?

 とりあえず身を起こしてみたものの、なんだか気分がふわふわしておぼつかないし、明かりがなくて周りもよく見えないし。

 おまけに寝床が硬いっていうか、これベッドでもなんでもない石畳だしゴツゴツじゃねえか。


 ただでさえ叩き起こされて気分最悪だってのに、これじゃどうにもならないっての。

 世の中まったくままならねえってやつだ。


「ふむ。答えてあげたいが、それはちょっと難しいかもだ。なぜなら、ボクには自分が誰かという確証がいまひとつない。ただ、キミがなにを思っているかはわかってる。ボクのことをろくでもないクソ野郎だと思ってることも」


「はいはい……で、その誰かさんがなんの用で? ご褒美でもいただけるんですかね?」


 あいかわらず、謎の声はさっきからよく通る。妙に澄んでキレイなのが、かえってカンにさわる。

 まあ、だからってこの状態じゃどうしようもないし、気にしてもしかたない。


 そもそもココどこだっての。

 俺、古代の遺跡に探索に入ってたはずなんだけど。


「んー、まあボク自身がご褒美という位置づけではあるんだが、慎み深いボクとしてはもう少しアレだ、せめて運命の人とか出会いとか言ってほしい気はするんだけどね。こういうのはとてもわくわくしないかい?」


「どこが慎み深いんだよ、うざったさランクアップしてんじゃねえか……それに世の中、運命がどうとかいうヤツにろくなやつはいないもんだけどな。だいたいココどこだよ?」


 はー、いきなり運命ときた。コイツ頭煮えてんのか?

 よくわからんままに叩き起こされたこっちの身にもなってみろ。いきなり勝手な話されても単にうざいだけだぞコラ。


「待った待った。言いたいことも聞きたいこともわからなくはないし、運命なんてろくでもないものだっていうのはボクもまったく同意するんだけど。ただ、なりゆきではあっても、キミの命の恩人としては、話ぐらい聞いてくれてもいいと思うんだ」


「おいおい……命とかいきなり物騒だな。だいたいこの俺がそんな素直なタイプだってか? こちとら盗掘荒らしにネコババ掠め取りのプロですよ。人生常に裏街道、暗い夜道を全力爆走中ですよ」


 いきなり命の恩人とか感謝とか、ドコの誰サマですか。

 盗掘探索稼業としては、むしろ真っ先に相手の素性とか状況を疑うやつだろうに。


「うんうん。まあそうだねえ、盗賊王くん」


「なんだそれ。俺がそんな偉そうなやつに見えるのか?」


「ああ、すまないこっちの話だ。すくなくとも今のキミはタダの盗賊だと思う」


「そこを納得されても嬉しくねえが、そういうこった。他人を呪いこそすれ、感謝とかない、マジない。暗がりと背中にはいつも気をつけろってな人生ですよ。だいたいそんな偉そうに言うなら、この状況を早いとこどうにかしろっての」


 こうも暗くちゃなにもわからんし特にやることもないんで、話ぐらいは聞いてやってもいいとは思うけどな。


「なるほど……すまない。ボクはあまり他人と話したことがないから、コミュニケーションをあまり知らないんだ。気にさわったら勘弁してくれ、黒鷲のエイヤ」


「は? ちょっと待て! なんで俺の名前を知ってる!?」


 おいおい、コイツなんで俺のことを!

 ……あと本人の前でやめろその呼び名、こっ恥ずかしい。


「うん、キミのことはよく知っているよ。エイヤール=ゼスト、26歳、黒鷲座の茜日生まれ、恋人いない歴26年。父は不明、7歳で母親を亡くし、スラムで孤児となって暮らす。以来、天涯孤独のまま、裏社会でいろいろ働きながら、案外まっとうに暮らしている」


「……っ!? テメエどこでそれを知って--」


「ええと、ボクは素性を覗きたいわけじゃないし、誰にも話さないよ。単に【キミの運命を見たりすることができる】というのを伝えたかっただけなんだ」


「伝えたかった、じゃねえよ。なんだその薄気味悪い特殊スキルはよ」


 誰も知りようがないことまで知ってやがる。

 それを軽い調子で言ってくれやがって、腕利きの情報屋も真っ青になるやつじゃねえか。


「すまないが、今はそれより大事なことがある。キミは現在、遺跡の最下層でちょっと大変なことになっていてだな……ぶっちゃけて言うと、遺跡が崩れてすごく死にかかってる」


「ちょっ……いきなり死にかかってるとかなんとかなんだそれ!? しかもえらく派手そうなんだが!」


 そういわれれば、俺は確か封印を解いて……どうなった?


「そうだねえ……一般的に言って、とても素敵で劇的にダイナミックな状態だ。おーけー?」


「素敵じゃねえし、誰も喜ばねえよ!!」


 くそっ、なんだコイツ。軽く言ってくれやがる。

 こっちの情報を洗いざらい抜かれた上、死にかかってるとかなんだそれ。そんなん聞いてねえぞマジで、ざけんな。

 確かに、一攫千金狙いの古代のお宝目当てで、誰も知らない遺跡まで行きましたけどね?


「まあ、ざっとまとめるとだ。キミが盗掘に入ってお宝だと勘違いしたのは実はボクの封印でね」


「なんだと?」


「ボク本人がお宝だから情報自体は間違ってないんだけど。でも、外した仕掛けはボクを簡単には解放できないようにするための自壊装置で」


「ちょい待て……今なんつった?」


「自壊装置とか自爆装置とかそういうやつ、って言った。わざとそうなってたぽいね」


「マジかよ!?」


 あっさりと他人事みたいに言いやがって。


 さすがに笑えねえぞ……こんな罠だらけの遺跡で二重の封印ってことは、コイツどう考えても災害級にヤバイやつじゃねえか。


「まあ、おかげで遺跡は崩れて生き埋め寸前。幸い、おかげで封印も半分ぶっ壊れて、なんとか無事にこうして話せているってわけ、めでたしめでたし」


「……おいおい、なんだその、どっかの伝説みたいな封印とか出来事はよ。いくらなんでもそりゃねえだろう、しかもそれで俺が死にかけとか笑えないぞコラ」


 どう見ても、昔々あるところにって感じの子供に聞かせる話で、最初にやらかすやつだ、それ。

 ほら、なんか意味ありげで激ヤバな封印をついうっかり解いちゃうアレ。

 ぜんぜんめでたくない。


 まったく……コイツの声がカンにさわるワケがわかったぜ。

 要は人間じゃねえバケモノ様だってことじゃねえか。

 そりゃいくら澄んだ声だろうがなんだろうが、他人を文字通り食い物にしようってんだから耳ざわりで当然なワケだ。


 こんな絵空事みたいな話が夢でもなんでもねえってのか。

 ……なんだよ、結局クソみたいな人生だったな。


「あー、せっかく一人で状況に納得し始めてるところに申し訳ないが、ボクの話は終わってないぞ。はっきり言うが、キミがこんなとこまで来たのはキミのせいじゃない、ボクのせいなんだから」


 声はあっさりと明るく言ってくれる。ざけんな。


「……おい、どういうことだ?」


「まあ、お怒りはごもっともだ。そこはいくらボクを罵ってくれてもかまわない。キミが26年かけてココまで来て、そうするように仕向けたんだから」


「……はぁ? さすがに聞き捨てならねえぞ?」


 仕向けた、ってのは、一体なんだそれ。


「うん……実はね、キミが生まれるより何百年も前から、ずっとずっと前から。それはもう長いこと、ボクはキミのことを待っていたんだ」


 それはもう、しみじみと感情を込めて、すごく嬉しそうに言われた。

 

「おおおおい!?」


 なんですかそのビッと来てギュッとするような運命論!?

 しかも、なんでそんな期待に胸膨らましてるんだコイツ。


 俺の人生が勝手に決められてるとか、まったく嬉しくないやつじゃねえか!


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