018:3層攻略
未攻略ってことは、こっからは魔物もでてくるかもってことだ。
ヴィーデをかばいながらってことになる。
コイツの戦闘関係については、一応、ざっくりだが事前の打ち合わせで確認してある。
結論からいうと、全力で逃げに徹した彼女をどうにかする方法はあまりないと思う。そういう意味では安心だ。
とにかく個人的な対応については、やっぱりとんでもねえヤツだだってのは改めて実感した。どんなフェイント入れようがなにしようが触れやしねえ。
本人に言わせれば、相手の運命を読めばこういうのも結構行けるってことらしい。
その上で、コイツの身体能力は見た目以上なんで、危機感ないのも納得だ。ぶっちゃけ、反射が異常に速い。
こういうところは、やっぱり人間じゃねえってのを思い知らされる。
ただ、本人は気づいてないが、それでもおそらく無敵なわけじゃない。
とはいえ、もしそれが露呈するにしても先のことだ。
いまは便利に使わせてもらおう、とりあえず俺は俺だけで手一杯だ。
「さて、まずは奥まで行かねえとな。ココからは罠だけってわけにもいかないし」
「そうだね、ボクもこういうのは初めてだ」
あからさまに高揚した様子を隠さないヴィーデ。
初めてもなにも、マジであまり外に出たことないっぽいからなあ。
俺も、初めての探索はそんなもんだったかね? いや、だいぶビビってた気もする。
まあ、少しぐらい余裕ある方がいいし、俺も嬉しい。
そんなわけで、罠に警戒しながら索敵しつつ先に進む。こんな依頼、やるとこまでやっちまっていいだろう。
ありがたいことに、2層の残りでは魔物は出なかった。そして3層が最終区画らしい。
そこだけ人工的な石畳のダンジョンだし、一本道で罠もなく、敵はすぐに見つかった。
「……アレか」
奥の広間にケイブウルフ、数は6匹。そして大きさが普通よりふたまわりはでかい。
ありゃあグレートケイブウルフだ、中ボスが6匹もいるようなもんじゃねえか。
普通は洞窟をねぐらとする狼なんだが、こんなダンジョンに居るんだから、もちろん野生じゃない。れっきとしたガーディアンだ。
かなり広い部屋だし、構成からして、もしかすると最終関門かもしれない。
まさかコレをわかって攻略止めやがったか? パーティが消耗した状態であんなの相手出来ねえのわかってんなら、なんでここまで来てんだよ。マジでひどい攻略だぞ。
まあ、普通にやったら1匹でも6人がかりで倒すような相手と正面からやりあったら、あっという間にズタボロにされちまうってのはわかるんだが。
「やれやれ、めんどくせえのが出たな、おい」
「どうするんだい?」
「どうもこうもしねえよ、あの手のやつは潰し方ってのがあるんだ。少し待ってろ」
ヴィーデに、じっとしたまま物陰で控えるよう指示する。
アレ相手じゃ今回、彼女の出番はない。
この手の獣は、バカ正直に相手する必要なんかない。でなけりゃ、俺がこうしたダンジョンを一人で探索するような無茶なんてできないに決まってる。
日陰者には日陰者のやり方ってヤツがあるってな。
「まずは、こういうヤツをね」
煙玉に火をつけ、そのまま部屋に向かって転がす。
こうしたガーディアン系の連中はそもそも部屋移動ってのは少ない。せいぜい、部屋のちょっと先まで追いかけてくる程度だ、最悪でもどうせ3層から先には出てこねえ。
ってことは、まともに取っ組みあって戦闘する必要もない。
連中が煙玉のあからさまな異変に反応するが、もう遅い。
いくら部屋が広かろうとせいぜいダンジョンだ、部屋に煙が充満するに決まってる。
警戒した唸り声が聞こえるが、やっぱり部屋の外には出てこない。
別に部屋の外からダメージを与えに行ってるわけでもないし、まあ、異変が起きたがゆえにアクティブな対応が取れねえってヤツだ。獣のガーディアンってやつは悲しいね。
ただ、ボスクラスが6匹もいるから、こっちもそれなりの準備が必要だ。
部屋は大きさがあるので、念入りに煙玉を追加して煙を増やす。
いきなり大量にやると部屋から出てきちまったりするかもだから、異変を警戒させてからやるのがコツだ。これで視覚を完全に潰す。
もう、煙だらけでしみるし、超接近戦で近づかねえとなにも見えねえってやつだ。
人間様にはゴーグルとマスクってやつがあるんで、煙でやられるってことはねえ。
「……ほらよ、パーティだ」
次に、爆竹。
まあ、耳の塞ぎようがない獣じゃ避ける方法なんかないに決まってる。
これで聴覚を潰す。こっちは弾けてる間だけ耳に栓してればどうってことはない。
「それじゃ、前菜からどうぞ」
ラストに、ニオイ玉。薬草を調合して、獣の嫌がる匂いが出るやつだ。
普通は獣に追われたときや野営なんかに使うんだが、どうしようもない香りで部屋を満たしてやれば、犬っころには効果てきめんだろう。耳も鼻も塞げない獣ってやつはどうしようもない。
これで、嗅覚を潰すと同時に、堂々と部屋に入る。
ここまでやると、だいたいは獣でも平衡感覚が狂う。
目をつぶっただけで、片足立ちしたら立ってらんなくなるようなもんだ。
感覚が鋭い獣なら、なおさら感覚が狂うとまともな行動が取れない。
だが、俺には部屋の状況なんてあらかじめ把握済みだ。
俺には「目ざとい」ってだけの、いわゆる観察スキルしかねえが、代わりに、一度状態が把握できれば、見なくたってだいたいのことはわかるし、動くのになにも困らない。
あとは、まともに身動き取れなくなって唸るしかできない獣の始末をするだけだ。
「まず、ひとつ」
「ギャウゥン!?」
首筋もいいが、効果的なのは内蔵まで皮一枚しかない腹だ。まあこういうときは、とどめより当てやすさを重視する。
行動に一貫性のなくなった獣なんざ、毒のナイフとダガーでざっくりですよ。まともに身動きの取れない、でかい動物でしかないからな。
そもそも、コイツら真下からの攻撃なんてモノは予想もしてない。変にでかいのが災いしたな。
「そして、ふたつ」
「ガ……ァッッ……!?」
ありがたいことに、目がしみるのか迷っているのか、獣ってやつはすぐ唸ったり悲鳴を上げたりする。混乱してるから仕方ねえんだけど。
でもそんなのは、真っ白な視界の中、わざわざ居場所を教えてくれる相手でしかない。
数がいるんでまだ深追いは禁物だが、コイツはすぐ首筋が把握できたんで、腹のついでにざっくりカットしておく。
「みっつ」
「グルァ……ァ……!?」
ボスクラスの狼だけあって、気配でヤバさを感知してるみたいだが、手探りで闇雲にしか動けないやつのまぐれで当たるわけもない。
だいたい、狼の利点ってのは、群れと徹底したヒットアンドアウェイだ。
連携も取れない上に、無茶な振り回しの爪なんて当たるかよ。音をたてるだけ無駄な行為だが、恐怖に溺れた獣に理屈なんてない。
毒を塗ったダガーで深々とえぐっていく。
まあ、ココまでくれば流れ作業だ。
感覚潰しの効果が切れる前に、残りの連中も同じように順に始末していく……そして。
「これで最後!」
「ガフゥ……ッ!!?」
深々と喉元に短剣を突き立てて、こそぎ斬る。
次もいねえし、むしろしっかりえぐってとどめを刺す。
俺ひとりだけだから取れる戦法だって話もあるが、まあとにかく他人と相性が合わない俺にはちょうどいい。
戦闘なんてのは、できるだけ相手の全力を出させないに限る。勝負事の鉄則だ。
あとは視界が戻るまで待つだけだ。ヴィーデの所に戻ろう。
「おう、なんとか終わったぜ」
「すごいなエイヤ! あの狼、普通はもっと大変な戦いになるんじゃないか?」
ヴィーデがずいぶんと興奮気味に声をあげる。
煙だらけの部屋を眺めて待つだけじゃ面白くもなかったろうに、本人はご満悦らしい。
「いい条件が揃ってたしな。俺は盗賊だから、相手の得意なことを盗んでいくんだよ」
好き放題しても問題ないってなら余裕だ。
もう、派手な音を立てても他の連中が寄ってきたりとかないし、煙だって、ダンジョンってやつは空気が淀まないよう風が流れてるから、放っときゃ晴れる。
なにをやってもいいなら、人間様ってやつはそれだけで案外強い……今回の場合、俺が視界ゼロでも動けるってのはあるけどなあ。
「それにしても鮮やかだったと思うよ。人間はあんなこともできるんだねえ」
「大したことでもねえよ……まあ、正面からどうにかできるようなスキルもガタイもないからな。だからって、諦めたりもできなかっただけだ」
正直、手放しでこんなに褒められるのはもどかしい。
俺には正面から戦うような強さはねえから、普通と逆を鍛えただけでな。
暗闇で光がなくても動ける訓練とか、足音立てずに移動するとか、歩幅で距離や方向を把握するとか、地味な訓練やってるとそうなるんだよ。
人間、どんなモノでも、できるとこまで順を追って鍛えると、意外と出来ることは多いってね。
ただ、こんなえげつない攻略とかしてると、悪い意味で便利屋扱いされるか、気味悪がられたり、そんなの戦闘じゃねえみたいに言われることもよくある。
結構な確率で「今回はこれでもいいが、いずれ正面から戦える強さを身につけろ」みたいな話されるし、ぶっちゃけ、ほとんど暗殺だからな。そんなわけで、世間様にはあまり評価されない。
「あんなの、さすがにボクでも普通じゃないってわかるぞ。エイヤ、キミは自分で思ってるよりずっとすごいんじゃないのか?」
おかげで、ヴィーデに興奮気味に褒められると調子狂う。
こういう裏技じみた攻め手が、正統派を自認する連中や、ロマンとか名声を求めるヤツらに毛嫌いされるってのは慣れてるんだけどねえ。
「うーん、そんなもんかねえ?」
「そんなもんだよ。ボクはキミを尊敬してるんだからな?」
「……お、おう」
ヴィーデは誇張気味に絶賛するが、比較対象が特にあるわけじゃないんで、すごいかどうか俺にはイマイチわからん。
なにせ、彼女自身が戦闘じゃ完全な素人のくせに、俺がおいそれと触れねえ。
それだけすげえ存在ってやつなのかもだけど、それでも納得いかん……おのれ。
ただまあ、その。
やってきたことが誰かに認められるってのが、そんな悪い気はしないってのは実感した。
こそばゆいけど。




