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017:探索依頼の実態


 街から出て半日、ユアンナに指示された洞窟を見つけた。

 しかし、こんなとこにダンジョンなんてあったのか。よく見つけ出したな。


 場所的には、森の中の山肌っていうか切り立った崖になってる部分にある洞窟で、森の外周からそんなに深くない部分に位置している。木漏れ日が気持ちいい。

 地形からすると、どうも天然洞窟っぽい気配はあるが、さすがに中がどうなってるかは調べてみないとわからない。


「さて、地図でだいたいの感じを頼りに来たわけだが、思ったより楽に見つかったな」


「そうなのか? これを楽っていうのは、たぶんキミぐらいだと思うぞ」


 ヴィーデから突っ込まれる。

 なお、彼女には一応、魔術師っぽい格好をさせてある。


 こう見えても、俺だってそれなりの経験もスキルもあるからな。

 場所を他人に知られたくないのかそこそこ隠しちゃいるようだが、踏み分け跡や折れた枝など、ちょっとした目印があるんだ。

 誰も来てねえ人里離れた森の中って割に、本来あるハズもない人の跡が沢山隠れてる。

 それと地形を組み合わせて考えれば、なんてことない。


 でもまあ、突っ込まれるくらいだってことは、俺も多少はマシな腕になってるってことで、悪い気はしない。


「大したことじゃねえよ。出来ることなんてみんなそうだ」


「そうなのか? キミはたぶん自分で思っているよりずっとすごいぞ」


「お前さんだって、運命とかすげえモノ操ってるけど別に普通だろ? そういうもんだ」


 やれるようになったことは、どんなことでも本人にしてみりゃ案外普通だ。

 話のネタとしてはともかく、卑下するものでも自慢するものでもない。

 普通に息を吸ったり吐いたり出来ることを、ワザワザひけらかすヤツとかいないようなもんだ。


「……キミは本当にすごい人物だな、エイヤ。感心するよ」


 ヴィーデがまた目を輝かせている。


 うん、こいつにはこういうのが似合ってると思う。

 俺にとって普通のことで誰かが喜んでくれるなら、それはありがたいって話だ。

 そういう意味では、たしかにすげえことかもしれないかもな。


 今まで、喜ばせる相手なんぞいなかったし。


「気にすんな。それより、それでなにが出来るかのほうが大事だろ。能力なんて所詮はツールなんだし、ドラゴンとか探索のが大事だってことだ」


「言われてみれば。ボクにもなにが出来るかわからないが、いろいろ探っていきたいな」


「大丈夫だろ。やりたいと思ったら運命がそうなるかもだし、なるようになるさ」


「……あ」


 言われて気づいたって顔してやがる。


「逆らっても否定しても自分は自分でいいってことだ。出来ることまで気にしても始まらねえよ」


 今まであまりに出来て当然だから戸惑ってるんだろうし、知らないことやってるから慣れないのはわかるんだが、ヴィーデならなんとかする気があれば出来るだろ。

 そういう能力なら、それはそれでいいんじゃねえのとしか思わねえし。


 今の自分を否定しても、いいことねえからな。


「うん、そうだ……そうだな! あは、すごいな、素晴らしすぎるよエイヤ。なんでキミはボクの運命までわかるんだ。ボクなんかよりずっと運命を操るじゃないか」


 ヴィーデが、感極まって笑顔のまま俺の腕に抱きついてきた。


 うぉっ……そういうの慣れてねえんだよ!?

 よほど嬉しかったのかなんだか知らねえが、女っ気とかまるでない独り身生活だった男としては、こういうの苦手なんだっての。


 アレだ、アレ。照れると言うかなんというかこう、もどかしいっていうかその、なんだ、よくわかんねえけど気恥ずかしい感じのヤツ。

 だからって、こんな喜んでるのに引き剥がすわけにもいかねえだろ……。


 結局、ヴィーデが満足するまで堪能された。


「ああ、すまない。ボクもこういうのは初めてで。でもこう、モフるとかっていう気持ちが少しわかった気がする」


 それはモフるってやつじゃないです、ヴィーデ先生。

 まあ無粋なツッコミで気持ちに水をささないでおこう。


「いやその、ええとだ……その、こう。俺もこういうこと慣れてないんで、不意打ちだとどうしていいかわからん」


 うん、こんだけ純粋に喜んでくれてんのに、こう、いろいろ変な気を起こしたりとかしちゃいけない気がするしな。

 だが、だからってコイツはとんでもない美人で美少女で、なのにあけすけで安心しきってて、どう考えても可愛すぎるせいで対応に困る。


 こっちだって、いきなりだとどうしていいかわかんねえんだよ。

 いきなりじゃなくても困る気はするんだけども!


「ふふ、キミへの尊敬と感謝と歓びを表しただけだよ。ボクに出来ることがあったらなんでも言ってくれ」


 そこに来て笑顔でこのセリフですよ。

 俺に、そんなコイツの純な気持ちを邪魔出来るような権利なんかねえじゃん?

 動揺を必死に隠すのが精一杯だっての。


 だって俺、一応は主人マスターなんだし。半分、仮みたいなもんだけど。

 そこを受け入れちまったんだから、コイツの好きにさせるってのは俺の義務みたいなもんでさ。


 でもこう、それはそれとして人にはどうしようもないとこあるじゃん!

 ナイスな異性を見たときとか、ナイスな異性に気安くされたりとか、ナイスな異性にあけすけな対応をされたとか!!


 なのにヴィーデさんってば、俺の気なんかお構いなしにすげええええええ嬉しそうなんですよ。


 ぶっちゃけ可愛くて仕方ねえんですけど!

 まったく悪魔かコイツ! 悪魔だった!


「う……なんかあったらな。それよりさっさと奥に行くぜ、やることやってまた宴会しないとな」


「そうだね、宴会のためにも頑張らなきゃだね!」


「お、馴染んできたじゃねえか、その調子だ」


 ふぅ……強引に話を戻して上手く引き離したが、まあ結果的に俺も落ち着いた。


 なんにせよ、今回の目的は洞窟の探索だ。

 もし、情報通り貴族とやらがなにかしでかしてるってなら、罠がある可能性は低い。


 だが、情報自体が罠で、俺とヴィーデを生贄にするなんて線もある。


 事前情報はもちろん大事だが、鵜呑みにしすぎると現場と食い違ってるなんてことは珍しくない。

 だいたい、貴族が絡んでるような依頼が俺みたいな所に降ってくるってときは、結構な確率でロクな話じゃない。


 ってことで警戒して進む。


 洞窟は思ったより広く、入口から想像するよりずっと天井が高い。

 古代の遺跡って感じよりかは、天然の洞窟をそのまま改造したってところか。


 ダンジョンの種類は主に3つ。

 封印、実験場、保管庫だ。


 この内、実験場が一番の当たり。クソでかいし、魔物がわんさか出て討伐に人が集まったりして近所の街が潤う。

 保管庫は、苦労は多いが実入りも多い。ただし罠が解除できないとどうしようもない。

 封印はハズレ。せっかく攻略しても魔物を解き放つだけになる。


 ヴィーデがいた遺跡は、保管庫と勘違いした俺が封印を開けたってことだな。


 で、この洞窟は、これだけ罠が多くて魔物が少ないとなると、封印か保管庫の可能性が高い。

 ヴィーデのおかげでわかってたけど!

 あと、やっぱりどう見ても誰かに入られてる。むしろ、さんざん罠食らったり外した跡があるし!


「おいおい、未探索って話じゃなかったのかよ」


 ってことは、ココを見つけたどっかの誰かさん……たぶん依頼主が地道に攻略してるってことだ。

 魔物の方は最近の攻略で魔物は倒したばかりなのか、新しいのが復活した(リスポーン)様子はなく、しばらくは無事って感じだ。


 ただ、腕が悪いのか、罠が多いダンジョンだってのに、とにかく罠の解除率が低い。強引に攻略してるってことになる……まだ新しい血の跡が痛々しい。

 一度こうなると、だんだん失った対価を求めて引き返せなくなったりする。

 

「泥沼ってやつだな……」


「どろぬま? ココは洞窟じゃないのかい?」


「ああいや、そういう話じゃない。攻略組のスキルが悪くて、強引な進み方をして罠にかかりまくってるってこと。おかげで、なにか得られないと帰れないって状態になってるか、誰かの命令で帰りたくても帰れない状態になってるってワケだ」


 お互いにうわぁ……って顔をする。

 あまり気持ちのいい話じゃないしな。


 ヴィーデの遺跡に比べればまだ軽いが、それでも、ココは結構凶悪なダンジョンだ。

 見た目は洞窟のくせして、その実、罠だらけで全然洞窟らしくない。


 自然系のダンジョンを見慣れてないと、ヤバさのオンパレードでやがる。

 なにせ石畳じゃないので、相当の熟練者でもないと罠が見破りにくい。 


 あるべきでない場所に岩などがあったり、湿っているべき場所が濡れていない感じで不自然な場所があるとか、前に入った冒険者の落とした装備っぽいのが変に転がってるとか、場数踏んでないと気づけないヤツばかりだ。

 しかも、この手のは、魔力などによる自動メンテナンス機能が備わってることが多くて、ちゃんと対処できないと、知ってても2度3度引っかかるなんてことも多い。

 魔物との交戦中に発動させたら最悪だ。


「あっぶねえな……これちゃんと処理してねえだろ」


「エイヤはさすがだなあ」


「ヴィーデもついて来れるだけですげえっての」


 お互いの腕を確認しつつ、丁寧に、面倒な罠を避けたり解除しながら進んでいく。

 それでも、俺には上の下ぐらいって程度で、それほど無理しないでも行ける範囲だけどな。

 ヴィーデも、前回の件があってか、全く心配ない立ち回りでうまくなってる。


 だが、先に入った連中には地獄だったろう。

 幸か不幸か、矢とか小岩、穴など、ケガや骨折などで足止めする系の罠が多いダンジョンだ。怪我したら先に進めなくなるってやつだな。

 それを、人が死なないのをいいことに、力づくと人海戦術で押し入った感がある。


 つまり、犠牲前提のゴリ押し。


 まったくもってクソ野郎の所業だ。こんなんじゃ負傷者だけで確実に2桁行ってる。

 よほど高額な成功報酬につられたか、上司の命令でもない限りありえないっていう、最悪なパターン。治癒関係のコストだけで赤字じゃねえのかこれ。

 唯一、死体とか転がってないのが幸いだが、こんなんじゃパーティ編成も偏ってそうだ。


 しかも、そこまでして攻略が終わってないと来てる。


「マジかよ。こんだけ犠牲出して2層の途中までしか行けてねえって」


 それで、ギルドに調査依頼が回ってきたってのか。

 えげつねえ話だなオイ。


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