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013:そのころ、帝国の星見台にて(挿絵あり)


 その夜、帝国の星見長である、ラーユル=ディートエルトは自らの目を疑った。


「星が……回った?」


 星見、それも帝国の誇る聖帝星見所の長ともなれば、いわば帝国の未来を予見する、最重要な仕事。


 具体的には、最重要ではないんだけど最重要っぽく見せかけることで最重要な仕事のひとつである。

 作物の出来とか今後の方針とか、そのへんの政策に結構影響を与えちゃったりする。

 ある意味、大きく間違えれば一発で首が飛びかねない、それくらいに大事な責務。


 もちろん、そんな大層な責任なんて、誰だって負いたくないし負わされたくない。


 そのあたり、可能な限りはぐらかしたりしつつ、星見の天才とか才媛としてちやほやされながら、人生のんびりゆっくり過ごしたかっただけなんですよ。


 大帝国いいとこのお偉いさんになって、でも激務とかじゃなくて、適当に書類にサイン書いたりしながら、いい感じの旦那さん見つけてですね、それでもって老後の心配なく悠々自適に過ごすとか理想じゃないですか。


 おいしいご飯が好きなだけの、かよわい魔族の乙女なんだから、老後はめっちゃ心配なんですよ。

 長命種エルダーの寿命なめんな。


 だというのに。


 夜空が示す「星の輝き」が、大きく回ったのだ。

 すっげー回りやがりましたよ、ものごっつ回ってくれやがりましたよ、あの野郎。

 帝国が大きく変わる、と。


「やっべー、めんどくせー」


 これでは、せっかく根回ししまくって星見のトップになったというのに、安心して夜も眠れない。


 いやまあ星見だから、どう考えても昼夜逆転で夜更かし安定なんだけども。


 ぶっちゃけ、報告次第で誰が死ぬとか死なないとかどうでもいいんだけど、私のせいにされるのは勘弁。

 正直、閣僚連中あたまでっかち将軍共のうみそきんにくが戦争しようが粛清しようが、なにしてくれても知ったことじゃない。

 でも、責任までこっちにおしつけてくるとなると、ウザい以外の何物でもない。


 せっかく、責任回避と星見の手抜きをうまく織り交ぜつつ、たまーに運よく先を読む感じに見せかけて、ここまでうまくやってきたのにだ。

 できるだけ穏便にあたりさわりなく、なんとか職務に励んでるようで励まないようにしつつ、ちょっとだけ励んできたのがだいなしになるのは困るんですよ。


 でもこれ、かなりヤバイやつだし。


 アレだ。

 困ったことに、なんか特大の鉄球を投げつけて、帝国っていうでかい組織をめちゃくちゃにするようなやつならまだわかるんだけど、そういうのじゃない。

 もしそれなら「全力で頑張ってね、あとよろしく」って、丸投げすればいい。

 力で解決するなら帝国は絶対強力に違いないし、誰かが望んで殴り合ってる以上は、私にはどうしようもない、勝手にやってくれればいい。


 だけど今回のは、いわゆる連鎖反応ってやつですよ。


 最初の板を倒すと、2つ3つと倒れていき、いろんなところを登ったり落ちたり回ったりしながら、最後に思いもよらないところまでパタパタと行き着くやつ。


 横から見てるぶんにはいいかもしれないけど、当事者からすると、終わったあとは大量の仕掛けが散乱してぐちゃぐちゃになるってヤツなんだけども。


【よくわかんないけど、なんかちょっとしたきっかけで、帝国にいろいろあるかもしれないっすよー】


 とか、さすがに報告で言えない。

 絶対に余計なこと言われたり、仕事増やされたり、変にイザコザするとかになる。

 報告の仕方によっては最悪、首が飛ぶ。


「あーもー、なんで私のときにこういうの起こるかなー」


 正直、いままで真面目にしてきた覚えもないので、バチが当たったのかもしれないが。

 なのに、嫌でもヤバイのはわかってしまう。こういう時には自分の才能が恨めしい。


 普通はなんかのおまけの兆しくらいにしか思わないだろうけど、自分みたいにうっかり12星先まで読めてしまうとそうもいかない。普段はテキトーにサバ読んで報告も7つ先ぐらいまでに抑えてるけど。

 そのへんの、せいぜい2つ3つ先しか読めない凡俗星見連中とは違うのだ。


 うーんうーん、必死に考える。

 ……よし。


「諦めるかぁ」


 とりあえず、キレイさっぱり頭を切りかえる。


 なってしまったものはどうしようもない。私がどうこうできることじゃないし。

 そもそも私、しがない占い師ですよ、いくら有能だろうと自分でなんか動かすわけじゃないんで。 

 だいたい物語とかで、冒頭になんかでマジ激ヤバ超絶悶絶案件とか言い出したりすんだけど、暴君に進言して首はねられたりとか、言う事聞いてもらえない悲劇の予見者ポジションですよ。


 せいぜい、なんかあってもいいから関係ないところでやってくれるといいなあってくらいが関の山だと思うんです。

 魔族は血の気の多い連中もたくさんいるので、穏便にってのはたぶん無理だと思うけど。


 でも、これくらいの内容になってくると、さすがになにもしないわけにもいかない。

 ほっとくと、最悪で職場がなくなるかもしれない上に、下手すれば自分みたいなのは速攻切られるに決まっている。


 だいたい、今までそれほど貢献度が高いわけでもない。

 普通のコトを普通にこなして、ちょっとだけおまけ情報を付けて、そのぶんだけ楽をするのがいいのだ。

 がんばらないのがモットーである。


 テイクイットイージー。あわてなーいあわてなーい。


 とはいえ、占いで悪い結果が出て嬉しい人なんかいない。

 いるわけがない。


 まず私が嫌だ。


 世の中にはハンザのギギみたいに、容赦なくズバズバ言ってしまう人もいるみたいだが、私には性に合わない。

 そういうの言われたらツライ、っていうか世をはかなんで死ぬ。


 ある日、突然に「今日からあなた不幸になります」とか言われたら、多くの人は運命を呪うに決まっている。八つ当たり対象はさしあたって、それ言ったやつだ。


 ……つまり私。


 星が勝手に示しただけなのに、私の責任とかいうのはマジ勘弁願いたい。

 遠足の日に雨が降る予兆が出ても、それは私が悪いせいではない。


 だいたい星見なんて、ちょっと文章の読解力が高いだけの読者とか評論家みたいなものなのに、作者の責任まで押し付けられても困るみたいなやつで。

 星のささやき読んで報告するだけの単なる個人に、他人が寄ってたかって運営責任押し付けるの良くない。


 なので、自衛手段こそ星見の腕の見せ所である。


 真実はそのまま伝えると、厳しすぎてみんな拒否反応を起こすのだ。

 特にこういう激辛案件すぎる場合は。


 ノリで砂場の棒倒し遊び始めたら、ついうっかりで行くとこまで行っちゃって、世界樹まで全部倒しちゃいましたみたいな話だもの。

 そんなの誰も信じないし、星見ごときがでしゃばりやがってとか言われるに決まってる。

 やってらんねー、マジやってらんねー。


「よし、まあ適当に言っておけばいいよね!」


 そもそも、緊急の懸念だけど緊急の事件でもない。

 伝えるだけ伝えといて、いかにして向こうに責任をかぶせるかである。


【西方辺境に星の兆し。一般的には吉兆なれど、将来不安の恐れ有り。調査隊を向かわされたし】


 さらさらさらと報告書を書き終える。

 うむ、これでおっけー。先延ばしばんざい。


 調査隊とか送ったところで、なんかわかるわけでもなし。

 わかったところでどうこうできるものでもなし。

 ついでに言うなら、なんかあってもなくても、あんまり関係ないし。


 伝えることは伝えた以上、知ったことではない。

 本当はどう見てもレベル5案件なんだけど、今すぐ大急ぎで持っていって大マジで知らせようものなら、私の進退まで含めて大騒ぎになるに決まっている。


 なにをしようとどうせなんか起こるのに、その責任まで負わされるのはやってらんない。

 調査隊が向かえば、なんかそれっぽいこと起きたり発見するかもだけど、さすがにそれは現場の方でやり取りして欲しい。


 最低でも星が3つ4つ進むまでは、誰にだってなんだかよくわからないと思うので、それまでは誰がどうなろうと知ったことではない。


 だから今は「なんか見つけた」でいいのだ。


 さー、そんなことよりごはんごはん。

 今日はひき肉のあったか豆スープなのですよー。

 適当にチーズ乗っけて軽く火魔法で炙って、とろーりうまうまするのですわ。

 ひゃっはー。


挿絵(By みてみん)

せっかくなのでラーユル描きました

ふええ星回ったー!?

みたいなそういう

にゃーん(╹◡╹)

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