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012:今後の方針


 まあ、おかげで嵐のような宴会になった気もするが。


 それでも、ユアンナと接触したってなると、ギルドが把握したって意味になる。

 同業者連中にヴィーデの変な噂を立てられても困るって意味ではありがたいし、もしかすると気を使ってくれたのかもしれない。

 もっとも、単なる天然とか趣味かもしれないんで、詳しいところは不明だ。


 そんな彼女が去ったあとを、ヴィーデが割と真剣な面持ちで眺めていた。


「ん、どうした? なんか気になることでも?」


「その、エイヤ次第ではあるんだけどね。ボクにはまだ判断がつかないんだ……」


「どういうことだ?」


 ちょっと待て。

 いきなり寂しそうに言うことじゃねえですよ?


「ユアンナさんすごくいい人だと思うんだけど、放っておくと一週間後ぐらいにね」


 ユアンナがいい人かどうかはすごく疑問の残るとこだが、それはさておき。


「一週間後ぐらいに?」


「……尋問された挙句、監禁されて死んじゃうんだ」


 ごふっ!?


「……おいおい、シャレになってねえですよ!?」


 思わずむせたじゃねえか。

 尋問とかってことは、俺らが誰かに追っかけ回されるなり、ユアンナがなんかするって話になる。

 最近、ギルドで特に大掛かりなこともやってない以上、たぶん俺のせいだ。


 そうか。ヴィーデがちょっとでも動くってことは、どっかに影響が出るなり魔族とかに観測されるってことなんだろうか?

 すげえな……ここ、帝国なんて直接関係ない西の辺境だぞ。

 それが一週間もすれば、特にめぼしい手がかりもないのに、ピンポイントでどっかの連中が送り込まれてくるってことか?


 もしそうなら、魔族とか帝国ってやつは恐ろしいぞ。


「まあ半分は勘違いで行き違いなんだけどね、結構ヤバイかなって」


 うーわー。それヤバイとかどうとかってレベルじゃない。

 マジなやつだ。


「うん。ユアンナさんって、ボクのこと聞かれても、喋らないで通しちゃうんだよね。こうやってちょっと会っただけなのに。たとえばボクたちが追われてるとしたら、そういうの隠しちゃうでしょ?」


 たしかに、あいつなら秘密は墓まで持っていくと思う。

 その必要があれば。


 ああそうか、そういうことか。


「要するに、ヴィーデみたいになんか事情ありそうな奴がいれば、自分の命より簡単に優先しちまうってことか」


「うん。ボクの見立てでは、そこから先の運命は自力で紡げない」


 ユアンナが普通のやつならともかく、あいつは気が利く。ワケありなんてことはとっくに気づいてるだろうしな。


 俺もそうだが、この稼業やってる連中なんてのは、生き汚ない反面、覚悟を決めるとコロッと死ぬところがある。


 この稼業で生き延びるやつは、だいたい2種類。

 なんでもかんでも生き汚なく自分の命優先で自分中心ってやつか、もしくは軽い自分の命なんてヤツよりも大事な仁義中心か、どっちかだ。


 ユアンナは後者だと思う。


 俺でさえ、自分なんかでいいならって他人を優先したぐらいだしな。

 世の中には、俺より幸せになっていいヤツなんてたくさんいるだろって思っちまう。


 くそッ。俺も、勝手気ままで自分中心だと思ってたんだけどなあ。


 もちろん自分のことも諦める気はこれっぽっちもない。

 そんでも、こんなクソみたいな俺よりマシであるべきやつってのは大勢いるわけで。


 だってそうだろ。ユアンナみたいないい女は、俺みたいなクソよりマシであるべきだろ。

 なんていうのは、俺が欲張りなだけなのか?


 でも俺はやっぱり自分勝手なので、どっちも捨てたくない。


「ってことは、ヴィーデさんや。わざわざそれを話す以上、回避手段があるんだろう?」


「うん、エイヤさえ良ければ、ユアンナさんの話を受けるべきだよ」


 これ、さっきの場で言わなかったってことは、なんか理由あるな。


「すると、どうなるんだ?」


「ユアンナさんの運命をエイヤが握ることになるね」


 おいおい。


「握るってどういう意味だ? 別に結婚するとか恋愛するとかって意味じゃないよな?」


「前に言ったと思うけど、エイヤの運命はボクを巻き込むぐらいの強いものだ。ユアンナさんの運命をエイヤの流れに浮かべることになる」


「つまり?」


「エイヤに関わってるうちは安全ってこと」


 キッパリ言い切った。


 他人の人生の面倒とか、すげえ厄介なんだけど。

 だからって背に腹は変えられねえしなあ。


 ってところで気づいた。


「ああそうか。ヴィーデ、お前さん本当にすげえやつだな。俺が見捨てないってわかっててその話振ったな? しかも、さっきの時点でいきなり話を請けるんじゃ、なんか問題があったんだろ?」


 こいつ、最初っからユアンナを助けたいんだな。

 でなけりゃ、そもそも俺にこんな情報を振ってくる意味がない。

 だけど、ヴィーデにしてみりゃ、人の生き死にですら善悪を測れないってやつだ。


 そりゃそうだ。俺だってそのへんに這い回ってる虫やネズミの生死なんか気にしない。

 そのへんの野犬に肉をくれてやるのがいいことなのかどうかなんて、答えは出ない。

 襲われたら、身を護るために敵を殺したりする世の中だ。


 人外の超絶魔物で、運命なんてのが手軽に変わっちまうコイツには、人間の生き死にどころか、歴史ってモノさえ軽いのかもしれない。

 だから、おそらく宴会の前から全部知ってたくせに、それを今の今までスルーして相談してきたってわけだ。


 俺が納得したのを見てすげえいい笑顔浮かべやがって。


 ずるい。

 俺がこいつをモフったら単なる変態になることも含めて、ずるいずるすぎ。

 ああもう、そんな顔されたら可愛すぎてひたすらモフりたいのを、心の中で悶えて我慢するしか出来ねえじゃんか。つらい。


「うん。そういうとこ、やっぱりエイヤはすごいなって思う。さっきの時点だと、まだ縁が薄くて、OKしても別れちゃう。だから話を出せなかった」


「つまり、先の先まで影響出るってやつだろ。はー、運命ってめんどくせえなあ」


 ちょっとした会話がキッカケでそこまで転がることってのがあるんだな。


 でも、裏を返せば、ヴィーデはそういうのを全部把握してるってことだ。

 趣味も嗜好も、それどころか好き嫌いもほとんどないまま。自分の判断がわからないままに、他人に影響を及ぼすことしか出来なくて。


 だけど【人間になりたい】って、ヴィーデはそう言った。


 コイツは自分で心底そうしたいと思ったら、世界が、運命がその通りになっちまう。

 でも、それは人間らしくない、人間として生きるなら、他人の運命を軽々しくいじるべきじゃない。今の彼女はそう思ってることになる。


 だから、運命なんていつでも都合よく動かせるクセに「それでも俺に頼った」んだ。

 人間の流儀でどうにかしたいって願ってる。


 なら、俺に断る理由なんて無い。


「めんどくせえから、なにやればいいかくらいは教えろ。必要なことだけでいい、どうせ教えたら変わっちまう要素とかもあるだろうし、現場ぐらいはなんとかするさ」


 乗りかかった船だからな。どうせ俺が決めたことだし。

 なにより、ぐちゃぐちゃになった俺の26年は、コイツの1000年で取り返さねえと気がすまない。


「いいのかい? はじめたらもう、後戻りできないのはわかってるんだろう?」


 後戻りする気ないんだろうって顔で聞きやがって。

 嬉しさが隠しきれてないじゃないか。可愛いなあ、もう。


「どうせそのつもりだったんだろうし、俺にそうしてほしかったんだろ。だから一つだけ約束しろ。言いたいことは言え、そしたら俺が運命の、ヴィーデの手足になってやる」


 どうせ運命を切り開くのは俺だからな。

 俺が決めたんだからそれでいいってやつだ。


 でないとお前、泣くだろ。

 まだ泣き方すらろくにわからないから、まともに涙も流せないくせに。

 そんな、1000年やせ我慢した女の子のために、26年分くらい賭けてみたっていいじゃねえか。

 それで運良く26年分返ってくれば、万々歳だ。


 ……どうしてこう、見栄張ってカッコつけちまうんだろうなあ。


「わかった。エイヤの前では言えるだけのことは言うよ。そうか、もっと言ってもいいんだね。ボクは、好きなこと言っていいだなんて……知らなかったんだ」


 あああ、どうしようもない感じの顔で、震えるような嬉しみを込めて言いやがって。

 その程度のこと、そんな喜ぶとこじゃねえだろ。

 いままでどんだけストイックだったんだって話だよ。


 って……俺のバカ野郎、そうじゃねえ、そういう話じゃねえだろ。


 誰だって、自分の気分で他人の生死が決まるとか、すぐに世界が左右されるなんてわかってたら、言葉や望みなんて好きに言えないに決まってるじゃねえか。

 こいつはそれが染み付いてるってだけだ。


 だけどな。


 そんなの、好きにやっていいだろ。

 思ったことくらいやっていいに決まってる。そういう権利ぐらいあるってもんだろ?

 人間なんてそんなもんですよ、そのへんの誰だってやってることですよ。


「おう、言っていいんだ。好き勝手言って、なんでも言いまくって、それでもどうにもならないようなら、俺がどうにかすればいい。そういうヤツだ」


 そういうことは無責任に言っていいんだ、クソみたいな愚痴とか振りまいていい。

 出来ないことを憶測で好き勝手なこと言ったって、許されるべきじゃねえか。

 もっと他愛ないこと言って、くだらないこと言って、自由で楽にしていいじゃねえか。


 でも、ヴィーデの言い方からするに、俺がいるから、やっとそういうことも口にできるってことになるわけで。


 なぜって、ヴィーデが俺に巻き込まれる側だからだ。

 俺の使い魔になった今なら、俺が許可しない限りはヴィーデの勝手だけで運命が変わらないから。


 1000年も待って、やっと出来たのがそれだけっていう。


 くっそ、切なすぎて可愛がりたいぞ、頭撫で回したいぞこんちくしょう。できないけど!

 だからって、そんな事情知っちまったら、なんかできることくらいはしてやりたいってのは、人なら当然だろ?


 すっかり保護者みたいになってきたが、まあ、うん。

 少しくらいは、保護してやってもいいんじゃねえかな?

 まだ歩き方もわかんねえんだし。


 それに、俺の運命は、後味の悪いようには選んでない。


「ありがとう……本当にキミでよかった」


「気にすんな。やれることしかやんねえし、そうとわかってれば出来ることってのは案外多いってだけだから。あとは、実際になってから考えればいい」


 大したヤツじゃねえんだよ、俺は。

 やりたくねえことまでやりたくないってだけだ。


 だから、自分が嫌なことはやらねえって、それだけのことだよ。


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