『恋の始め方 volume1』
前編後編の前編。
明日後編。
駅についた彼女を、車の中で見つけた時
久しぶりに胸が高鳴る自分に驚いた。
白に黒のパイピングがセクシーな、すっきりしたラップワンピースを着ていた。
車から降りて、彼女に向かって歩き出すと彼女が気づいた。
目が合った。
嬉しそうに微笑む瞬間、穏やかな風が吹き、彼女の長い髪を舞い上げた。
俺はそのまま彼女の肩を組むと、軽く引き寄せ
額にキスをした。
恥ずかしがり屋の彼女が何かを言う前に「大丈夫。誰も見てない」そう言って車へ促した。
助手席のドアを開け、彼女が乗り込んでからゆっくりと閉める。
ヤバイ。
逢う回数を重ねる毎に、彼女への気持ちが募る。
指先を触れ合って、口付けを交わす度に、どんどん綺麗になる彼女。
俺を見詰め返す瞳が、誘うように開いた唇が、薔薇色に染まる頬が。
全身から光を放つようになった彼女を、今夜は帰したくない。
まだ俺の知らない彼女を、見たい。
中学生じゃあるまいし、落ち着けよ、俺。
深呼吸して、運転席に回る。
車を走らせると、彼女が膝の上の紙袋をチョイと持ち上げて
「お昼、サンドイッチ作ってきた」と笑った。
「マジで?俺今朝食べたいなって思ってた所だよ。」
やった。彼女の手料理だ。
「ほんと?」
「うん、本当。具はなに?」
「えーとね、パン生地がね、黒ゴマと普通のプレーンのと、ライ麦のヤツで。
中身は、1個は卵、二つ目はツナと薄く切ったきゅうり
3つ目はレタスとタマネギのスライスとチキンが挟んであるヤツ」
「あー、すげえ美味そう!超豪華じゃん。
どこで食う?公園行く?」
「それも良いけど、カケルのウチが良いな」
ドキリとした。
「じゃぁ、飲み物タリーズ寄って買って行こうか?」
「んー、カケルが入れたコーヒーで食べたいな」
「オーケー。じゃぁ、ユウの作ったサンドイッチに、カケルが入れたコーヒーね」
ユウは満足そうに頷いた。
玄関の鍵を開けると、後ろに居るユウに振り返り言う。
「ドア開けたら、スグ入って。飼ってるチャイナが外出ちゃうから」
「チャイナ?」
「ネコだよ」
ドアを小さく開けると、チャイナがもう待っていて「にゃぁ」と鳴いた。
さっと入ると、チャイナを抱き上げた。
後ろでユウが「かわい~い」と声を上げた。
「どうぞ、入って」
「お邪魔します、う~、何か緊張する」
「ここへ女の子入れたの、キミが初めてだよ」
「うそ?!」
「うそ」
へへへっと笑うと、ユウが笑いながらも「なによ、もう~」とぶってくる真似をした。
その手首を掴んで引き寄せると、唇にチュッと音を立ててキスをした。
「今日はチェリー味だ」と唇についたグロスを舐めて、リビングへ向かう。
残された彼女が、「もう~・・・」とか何とか、後ろでブツブツ言ってるのが聞こえる。
キッチンでコーヒーを点てる準備をしていると、キョロキョロしながらユウが入ってきた。
「サンドイッチ乗せるお皿、選んでよ」
そう声をかけると、まだキョロキョロしながら「チャイナは?」と聞いてきた。
「キッチンの出窓にいるよ」
小走りで寄ってくると、チャイナが窓の外を見ている姿を眺めてため息をついた。
「綺麗なネコだねぇ~・・・」
「うん、俺もそう思う」
やかんに水を入れて、コンロにかけて火をつける。
「なんでチャイナって名前なの?」
「ん?中国から来た留学生から、譲ってもらったから。
名前付けてなかったんだよ」
コーヒーサーバーに氷を入れて、コーヒーペーパーをセットして粉を入れる。
「えー、そうなの?」
「うちでバイトしてたんだ。最初はノラ猫だったのが、居付いちゃったんだってさ。
それで故郷に帰る時に、困ってるって話を聞いたから、俺が飼うことにしたんだ」
大きなグラスを用意して、氷を入れた。
「猫飼ってるの、知らなかった」
「うん、ウチ来た時にびっくりさせようと思ってた。
お湯沸いたから、すぐコーヒーできるよ」
「あ、お皿選ばなきゃ!」
彼女がお皿に盛り付けてる間に、じっくりと点てたコーヒーの香りが部屋中に漂い始めた。
「あ~、良い香り~」
「ブラック?オーレ?」
「アイスオーレでお願いします!」
「あい。了解」
冷蔵庫から牛乳を出した。
ミュージックDVDをかけながら、ランチを楽しんだ。
久々に、誰かの手料理を食べて嬉しかった。
その後、ソファに並んで何故か「ローマの休日」を観た。
肩に腕を回すと、頭を寄せてきたのでそのまま観ていた。
静かな午後、腹は膨れて、快適な空調の部屋の中でじっとしてたら
眠くなってくる。
あまりにも静かで、彼女を見ると目を瞑ってウトウトしている。
俺が動いた気配で、目を開けて頭を起こそうとしたので
手で彼女の頭を肩につけて、「良いから寝ちゃいな」と囁いて髪にキスした。
ユウは何かを言おうと、口を開きかけたが、眠りに入ってしまった。
俺も彼女の髪を撫でながら、何時の間にか寝てしまった。
気が付くと、ユウが覗き込んでいた。
「んあ~~、先に起きてた?起こしてくれて良かったのに」
身体を起こすと、目を擦った。
「うん、カケルの寝顔見てた」
「つまんないじゃん」
「可愛かった。睫毛が長いなぁって思って見てた」
「俺が寝てる間に、ヘンな事しなかった?」
彼女が笑った。
「しようかと思ったら、起きちゃった」
「へぇ、じゃ、そのしようと思ってた事、今からしてよ」
「え・・・」
「いいよ、何でもして」
「何でもって・・・、言ったって・・・」
俺は彼女の顔に顔を近づけると、触れるか触れないかの所で囁いた。
「俺にどんな事したかったの?教えてよ」
「え、え、言えない・・・」
「言えないような事?ますます聞きたい。どんな事?」
彼女の長い髪を、片側に流してうなじを露わにすると
そこへ唇はつけずに、鼻先だけで触れて鎖骨の方へ移動した。
ユウが身を捩って、小さな声をあげた。
ゆっくり顔を離してユウの顔を覗き込む。
「言う気になった?」
「う、ズルイよ・・・」
目が潤んでいる。
ズルいのはソッチだ。その顔は反則だろう。
「じゃぁ、解ったよ。言うのは良いよ。
その変わり、別のお願いきいてよ」
「なに?お願いって・・・」
「ユウからキスしてよ」
「えっ」
「いつも俺からでしょ。たまには良いんじゃない?」
「・・・恥ずかしい」
「何で?俺とするのが恥ずかしいの?」
「違う、私からするのが恥ずかしいの!」
「解ってるよ」
思わず笑うと、ユウは潤んだ目で睨んだ。
「ほら、してくれないの?」
「ホントにしなきゃ駄目?」
「駄目」
ユウは観念したように、少しずつ近づいてきた。
顔を傾けて、触れるか・・・って所で大きく息を吐いて下を向いた。
「い、息止まる!」
「呼吸しなきゃ、そりゃ止まるよ」
「どうすればいいの?息ってどうしてればいいの?」
「どうって・・・、普通にしてれば良いんじゃない?」
「だって、だって、鼻息がカケルにかかっちゃうじゃん!」
そう言って、彼女は自分の鼻と口を両手で隠した。
笑い転げた。
「笑わないでヨ!」とユウは怒ったけど、だってすげー面白い。
「大丈夫だよ、息は普通にしてて。俺がキスしてる時、鼻息かかってるとか
そんなの解んないでしょ?」
「だって・・・、キスしてる時は息しないのかと思ってたから・・・」
「あ~・・・、それでいつもキスが長くなると、途中で顔反らしてたんだ。
アレ、息継ぎしてたんだ?!」
黙って頷くユウに、また大笑いさせられてしまった。
まずはキスの仕方から、始めよう。




