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『例えば こんな夜に。』

 





 風呂から出ると、先に出た雪乃がクーラーの効いた部屋で、ペディキュアを塗っていた。


 パン一(パンツ1枚)でソファに座ると、タバコに火をつけて雪乃の後ろ姿を見た。


 彼女は小さな扇風機の前で、床の上に座り込んでいる。


 黒い下着姿のまま。


 俺は、女が身支度を整えている様子を眺めるのが好きだ。


 着替えて


 メイクをして


 ヘアセットをする。


 まるで、何かの儀式のようだ。


 男とは違う、何かを感じる。


 雪乃は、下着姿で俺の前に立つことを厭わない。


 今まで付き合った女たちは、比較的恥ずかしがり屋だったのか


 あまり下着姿でウロウロしてるのを見たことがなかったので


 雪乃のその仕様に、初めは驚いた。


 そうして見てみると、女の下着姿は実にいい。


 今まで、下着は脱がすものであって、あまり気にしたことはなかった。


 だが、雪乃が下着姿で部屋をウロウロするのを見るようになって


 下着姿を見ないのはもったいないとまで思うようになった。


  雪乃の着ける下着はセクシーだ。


  大体黒い下着が多い。


  今着けてるのも、腰の横でヒモで結ぶタイプのものだ。


 あれ見ると、ひっぱってほどきたくなる。


 それでもって、あの小さな布をめくって、それから・・・。


 と妄想を始めようとした時


  「灰が落ちるよ」と雪乃が顔を上げずに、作業したまま言った。


  「おっと」


  慌てて灰皿に落とす。


  何故、こちらを見ないで灰が落ちそうなのが判るのか。


 ミステリー。





  「ねぇ、アイス食べたくない?」


  雪乃が聞く。


  「アイス?」


  「うん。ソフトクリーム食べたいなぁ。

 ああ、ジェラートでもいいなぁ」


  相変わらず、背中を向けて作業したまま言う。


  「ジェラートってなに?

 別の国の、要するにアイスの事じゃないの?」


  俺が聞くと、背中が揺れて笑った。


  背中で交差している、細いブラのヒモがそそる。


  「違うと思う。

 ってか、ジェラート知らないの?ウケル。

 ジェラートは・・・そうだなぁ。

 シャーベットとアイスクリームの中間みたいな感じだよ」


  「へえ。

 いいよ。コンビニ行く?

  俺もタバコ買いたい」


  「やった。

 これ塗り終わってからでいい?」


  「いいよ。

  俺もまだタバコ吸ってるから」


  「灰が落ちるよ」


  「おっと」


 だから、どうしてこちらを見ずに(以下省略)






  「ん~~~!おいちっ」


  雪乃はほっぺたに手を添えた。


  結局、コンビニではなくファミレスへやってきた。


  今、スイーツフェアなるものをやっていて、ジェラートが盛られたプレートがある


  と雪乃が言うので。


  俺も同じものを頼んだ。


  「これがジェラートですか」


  「うん。どう?」


 ほっぺたを押さえて、頬杖を付きながら身を乗り出してくる。


  「うん。美味いよ。

 なめらかでしゃりしゃりしてる」


  雪乃がテーブルに敷かれた、紙のランチョンマットに目を通した。


 スイーツフェアの色々なメニューについて書かれている。


  「あ、そうだよ。

 ジェラートってイタリアじゃん。

 リック、イタリアンの厨房で働いてるのに知らないの?」


 “リック”とは俺の事。


 “陸”なので、呼びやすいのか中学からずっとリックと呼ばれている。


 別に外国の血は混じっていない。


  「あ、そうなん?

 うちの店、ドルチェはパンナコッタとティラミスと、あと普通のケーキだもん。

 ジェラートは置いてない」


  「リックんとこのパンナコッタ、美味しいよね!

 上に3種類もフルーツ乗ってるしさ」


  「そうだよ。うち材料ケチんないんだよ。

 ドルチェ、余ったらお前に持って帰ってやりたいんだけど

 最近入ったバイトの子に、持って帰られちゃうな」


  雪乃のスプーンの動きが止まる。


  「バイトって女子?」


  上目遣いでこっちを見る。


  「と、男子1名ずつ」


  「ふう~ん」


  「・・・・・」


  「・・・・・」


  二人して黙ってジェラートをすくう。


  「・・・・・」


 テーブルの下で、雪乃が俺のブーツをスニーカーでゴンゴンと蹴ってくる。


  知らんぷりしたまま、俺も雪乃のスニーカーをゴツゴツと蹴り返した。


 チラッと見ると、雪乃がくすくすと笑い出したので、俺も笑った。


  「ヤキモチ焼~~き!」


 そう言いながら、自分のプレートに残ったジェラートと


  マンゴーがカットされたものを、雪乃のプレートに盛り付けた。


  「食べな」


 と言うと、ニカッと言う感じでを歯を見せて笑った。





 ジェラートを食べ終わり、二人でドリンクバーの飲み物を飲んでいた。


  雪乃は身体が冷えたのか、あったかい紅茶を飲んでいる。


  俺はアイスコーヒーにコーラをブレンドしてみた。


  時々、こういう「味のチャレンジ」をしたくなる。


 どっかでコーヒー味のコーラが発売されたらしいし。


 それは試してないけど、俺がブレンドしたもののお味は・・・・


 悪くないけど、うん、まぁ、想像してた味。


  「筑間ちくまさん、元気?」


  雪乃が聞いた。


  筑間さんは、俺が働くイタリアントラットリアにいる、厨房のスタッフの一人だ。


  50代で色白の小太りなおいさん。


 うちの店で、今問題児なのだ。


 すごく人柄も良く、温厚で忍耐強く、怒鳴ったりモノに八つ当たりしない。


 だが。



  彼は開店前の下ごしらえの準備などの時、まだ制服を着ずにTシャツで作業している。


 それは別にいいのだが、そのTシャツが度肝を抜かれるくらい薄いのだ。


  何度も洗って、すっかり生地が薄くなり、彼の乳首がばっちり透けて見えている。


 しかも、その乳首に長くて太い毛が1本生えているのまで、透けて見える。


  名前が「筑間ちくま」なのもあって、「チクビン」と影であだ名されている。


  「乳首」+「メンズ」で「チクビメン」だったのが、短くなった。


 その話を雪乃にしたことがあったのだ。


  「ああ、元気。

 相変わらず乳首毛透かせて、張り切ってるよ。

 良い人なんだけどさぁ

 笑いのネタにされるよね。やっぱ。

 あんだけ透けてっと」


 ぎゃははと雪乃は笑った。


  「もうなんかのアピールかなって思うもん。

 もうこれ男同士でもセクハラでしょ?って。」


  更に雪乃が笑う。


  「それにさ。

  最近、チクビンがやばいんだよ。

  閉め忘れがひどくなってさ」


  「あ、いるよね。

 ボールペンのフタ開けっ放しの人とか、醤油とかのフタが

  いつもきっちり締めてなくて、ゆるく空いたままにする人」


  「いやもう、そんなレベルじゃないんだよ。

 冷蔵庫もトイレのドアも開けっ放しだよ」


  「えー!

 トイレはやばくない?」


  「まぁ、奥にあるスタッフ専用のトイレだから、お客さんに見られるわけじゃないけど

 女子のスタッフは怒ってるよね。

 そんで、極めつけが、オープンザチャック。

 チャックからあれが顔覗いちゃってるからね」


  雪乃がお腹を抱えて笑いだした。


  「うちのお店、ポロリもあるよってね」


  一応周りのお食事中の方に気を使って、小さい声でしゃべった。


  「筑間さん、すごいなぁ」


  雪乃は笑いすぎで涙を出して、指で拭った。


  「そんで、こんにちわーしてたらどうするの?」


  自分で言いながら、想像したのかまた笑いだした。


  「女子スタッフがさー、何とかしてくださいって言いつけてくるからさー

 一応「筑間さん、具が出ちゃってますよ」って言うんだけどさー」


  雪乃は大笑いだ。


  「実際毎日毎日、なんでこんなに男の乳首とチャックの中身を見なきゃならんのかと思うわ。

  一度言ったら、俺がこんにちわ現象の注意係になってるからさ

 今度から当番制にしようかと思って。

 トイレから帰ってくるたび、股間チェックしてる分は、俺の給料にぜってぇ含まれてねえし。

 なんで俺が、人のちんこの面倒まで見なきゃならないんだよな?」


  雪乃は笑いすぎて、顔を真っ赤にしてた。





 アパートに戻ると、まだクーラーの冷気が残って涼しかった。


 とことこと雪乃が近づいて、俺の腰に腕を回して抱きつくと


 見上げてきたので、そのままキスをする。


  両手で雪乃のジーンズの上から尻を掴む。


  雪乃の柔らかい唇に、舌を深く差し込んで味わう。


  何度も角度を変えて、舌を絡めると、雪乃の息遣いが乱れる。


 そっと尻から手を離して、顔を両手で包むと、最後に唇を舐めた。


  雪乃がかすれた声で「リック、ジェラートの味がする」と言った。


  「お前もな」


  俺も言って、今度は「チュッ」と音を立ててキスをした。


  「これ、脱いじゃえよ」


 Tシャツとジーンズを引っ張ると、ふふっと笑って


 大胆に俺の目の前で、Tシャツを脱いだ。


 もつれた髪が、顔にかかる。


  黒くてつるつるした手触りのブラに、手を伸ばそうとすると


「歯、磨いてくる」


 と、片手にTシャツを持ったまま、小悪魔的な笑顔を浮かべて背中を向けた。


 やべぇ、もう勃っちゃった。と思いながら


  ソファに腰を下ろして、思い出した。


  「あー!」


  思わず言うと、洗面所から「なにー?」と雪乃の声が聞こえた。


  「忘れた!タバコ買ってくるの・・・」


  謎に倒置法で言って、ソファに寄りかかった。


  「あ~ぁっと」



 洗面所で雪乃の笑い声がした。


  俺は身体を起こして灰皿を掴むと、シケモクの為に物色をしはじめた。




 そんな夜。









 


~おまけ~


リック「ま~だ~?」


雪 乃「お待たせ」


リック「今度、一緒に下着買いに行く?」


雪 乃「やだよ、恥ずかしいもん」


リック「お前・・・。下着姿でウロウロするくせして」


雪 乃「それとこれとは別なんですぅ」


リック「え~」



そんな夜。


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