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ショートショート・ラヴストーリーズ  作者: ロミコ


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13/21

『時間を止められる男』

 




 やあ、久しぶり。


 この間はどうもね。


 みちるも喜んでたよ。


 うん。そう。


 え?元気がないって?


 うん・・・、実はちょっと不思議なことがあって。


 不思議な事っていうのか、なんていうのかな。


 聞いてくれる?


 俺ね、三ヶ月くらい前にさ、ヨシオの家の近くにあるバーで飲んでたの。


 あのでっかい水槽のある・・・そうそう!オッパッピー七分袖みたいな。


 うんうん。ノーパンのね。もちろんりんごは入ってるよ。そう。



 みちるも一緒でさ。


 結構飲んでたんだよ、いい気分で。


 カウンターにいてさ、気がつくと隣の席の奴がなんかいざこざ起こしてるの。


 普通のしょぼいオヤジって感じの男の胸ぐら掴んで、若い奴が絡んでてさ。


 で、俺もいつもだったら店員に任せて放っておくのにさ


 そん時はなんでか、仲裁に入ったりしてさ。


 オヤジをかばって、若いのに頭下げたりして、うん。


 で、若い奴らが席を移動していって、収まったわけよ。


 そしたらそのオヤジが一杯奢ってくれたからさ、なんか話すようになったりして。


 俺、ケンカの原因は何だったのか聞いてみたの。


 そしたら、オヤジの隣にいた若い奴らが「時間を止める能力があったら何をするか」


 みたいな話をしてたのを聞いて、つい笑っちまったんだって。


 それが若い奴らに聞こえて、「ジジイには関係ないのに、何鼻で笑ってんだコノヤロー」って事に


 なったらしいんだよ。


 で、そのオヤジがね、こんな事言い出したのよ。


「お兄さんは、わたしの話を信じないと思いますけど


 わたしね、時間が止められるんですよ。


 ええ、嘘だと思いますよね。でも、本当なんです。


 もちろん、今まで誰も信じた人はいませんでしたけどね。


 嘘つき呼ばわりされて、わたしも傷つきますからね。


 だからもう、長いことずっと誰にもこの事を話してこなかったんです。


 お兄さんは、助けてくれたっていうのもありますけど


 なんとなく話しちゃいましたね」



 で、俺は言ったわけ。当然のセリフをね。



「おやっさん、あんたその話が本当なら、何で嘘つき呼ばわりするそいつらに


 時間を止めてみせてやらなかったんだ」ってね。



 そしたら、オヤジの奴、両手で酒持ったまま、うつむいてさ。


「当然そう思いますよね。


 目の前でやってみせればいいって。


 やってみたんですよ。やってみせるんです。


 でも、信じてもらえないんです。


 なぜってね、お兄さん。時間を止めたら、その中で動けるのはわたしだけなんですよ。


 だからね、せっかく時間を止めたって、誰も気づきゃしないんですよ」



 それ聞いて、隣に一緒にいたみちるがさ、横からオヤジに



「じゃあさ、おじさん。


 何かを動かして証拠にしたらどう?


 例えば、このグラスを時間を止めた時に、ここからあの水槽の中に沈めておくとかさ」


 って言ったわけ。



 オヤジはそれ聞いて、悲しそうに首を振ってさ。


「そんなの、証明して見せるためじゃなくても、自分でも実験として


 何百回とチャレンジしてみましたよ。


 でもね、ダメなんです。


 時間を止めている間に動かせても、時間を動かすと元に戻ってるんですよ。


 何を壊そうが、どんな離れた場所に移動させておこうが、ダメなんです。


 すべてが、時間が動き出すと同時に、元通りになっているんです。


 それに、時間を止めるとすべてが止まるので、空気がね、吸いにくいんですよ。


 何なんですかね。肺になかなか入ってこないというか。


 だから、時間を止めた中でも、いつまでも自由に何かできるわけじゃないんですね。


 何秒時間を止められるかって質問もされるんですけど


 その答えは何秒ってよりも、自分が息を止めていられる間だけって感じですね」



 って、こうだよ。


 どうにも都合良すぎだろ。


 いかにも時間を止めてる証明ができない事の、言い訳みたいな感じじゃん?


 俺もみちるも黙っちゃってさー。


 酔いなんてすっかり覚めたよね。



 で、オヤジが申し訳なさそうに


「すいませんね。やっぱり信じられませんよね。


 わかります。わたしだって、誰かがこんな話してたら信じられませんよ。


 まぁ、信じてはいただけないと思ったんですけれど


 何でかお兄さんには話しちゃいましたね。


 お兄さんには、何かわたしの話をきいてもらいたくなっちゃいましてね。


 わたしもね、何で自分がこんな力を持っているのか


 不思議でならないんですよ。


 誰にも証明できないし、何の役にも立ってないでしょ。


 誰かが目の前で転びそうになって、時間を止めて起こしてあげても


 時間を動かせば、結局転んでしまうんです。


 助けられない。


 これは一体、何の為の能力なんでしょうね。


 そうそう人が持ってない特殊な能力だと思うのにね


 役に立たなきゃ、意味ないですよね。


 わたしなんてね、最近この力をなんとかして役立てたくて


 持てる時間をすべて実験に費やしたんですよね。


 そして、仕事も家庭も失ってね。当たり前ですよね。


 だからね、余計に役立てなきゃ、わたしは本当に何の為に生まれたのか


 わからないじゃないですか。ね。


 でもね、お兄さん。


 もう少しで、もう少しで何かが出来そうな気がするんですよ。


 大きなね、事がね。


 もしかしたら、人類を救うような大きなことが。


 ふふふ・・・」





 でさ、なんか俺は判んないけど、なんとなくそのオヤジの雰囲気に飲まれて


 ぞっとしてたわけ。


 早く帰りたいなって。


 ところが横では飽きてきたみちるがさ、オヤジに向かって



「ねぇねぇ、おじさん。時間止めて見せて!


 それで、わたしのグラスを少し動かしてよ。


 わたし、グラスをじっと見てるから!ちゃんと見てるからさ!」って。



 そしたらオヤジの奴、「いいですよ。なんだか今日は上手くいくような気がします」とか言っちゃってさ。



 妙な雰囲気になってさ。なんていうの?こう、オーラ?


 冴えない感じのオヤジが、急にでかくなったように見えてきたっていうか。


 そう、迫力!迫力だよ。それ!


 迫力が増しちゃってさ。


 俺も、なんか起こるかもしれないって思えてきちゃってさ。


 うん。それでどうなったかって?


 いや、どうにもならなかったよ。


 みちるの奴はさ、「なんか一瞬だけどグラスが滑ったように見えた!一瞬だけど!」とかって


 えらく興奮してたけどさ。


 あいつは俺より飲んでたからさ。


 え?俺?俺には一ミリも動いたようには見えなかったって。


 そう。うん。


 いや、それで終わったよ。


 なに、それじゃただのヘンなおじさんと逢ったって話だけになっちゃうって?


 いや、まだ続きがあるのよ。




 その時はそれで終わった。



 で、俺はすっかりそんなオヤジに逢ったことも忘れてたわけ。


 それがね、この間、つい2週間前くらいにさ


 また水槽のあるバーね、行ったの。いや、ゾウじゃなくてキリンになってた。


 イヤ、パンツは被ってた。穿いてないよ。


 え?そこでまたオヤジに逢ったんだろうって?


 いや、逢ってないよ。


 バーでは逢ってない。でもね、帰りに見たんだ。


 逢ったんじゃなくて、見たんだよ。


 あれは午前3時くらいだったと思う。


 ヨシオの家とは反対方向に、大きな交差点があるじゃない?


 あそこで事故があって、夜中だっていうのにすごい数のパトカーと


 救急車がいてさ。


 大型トラックが、電柱にぶつかってめり込んでてさ。


 すごいなーと思って覗いたら、救急車の担架に乗せられようとしているのが、そのオヤジだったわけ。


 目をカッと開いて、異様な感じで、一目で息をしてないのが判ったよ。


 で、俺はびっくりして「おやっさん」って駆け寄ったら


 救急隊員に「知り合いですか?」って聞かれてさ


 思わず「そうです」って答えたら、警官が来てさ。


「ちょっと話いいですか?」って。


 傍では小さな女の子が泣いててさ。赤いスカート履いた。


 小学校低学年くらいの。


 なんで小学校低学年の女の子がそんな時間に外をうろついてたのかって?


 それは俺にも判らないよ。


 まぁ、そんでね。


 訳が判らなくて、とにかくパトカーの中連れてかれて話を聞いたわけ。


 そしたら、あの女の子がトラックに轢かれそうになったのを


 いつの間にかあのおじさんに助けられたって言ってるんだけど


 意味が判らないって言うのよ。


 女の子が言うには、自分は1人で歩いてて、傍には誰もいなかったって。


 でも、トラックに轢かれそうになって、気づいたらあのおじさんの腕の中で


 道路の真ん中から、歩道に移動してたって言うんだから。


 トラックの運転手も、女の子を轢いちゃうって思ってブレーキ踏んでハンドル切ったって。


 で、その瞬間には女の子の他には誰もいなかったって言ってるって言うの。


 でも、あのオヤジが確かにいて、女の子を助けてたって。


 で、更に判らないのが、あのオヤジがね


 何の外傷もなくて、息をしていない、死んでるって言うのよ。



 それがさ・・・


 窒息死のようだって言うの。


 俺もう、ぞ~っとしちゃってさ。


 オヤジが救急車に乗せられる前に、開いた目でじーっと俺を見てたのが


 忘れられなくて・・・・。


 俺さ、それ聞いて、オヤジは最後についにやったんだって判ったよ。


 女の子を時間を止めて助けたんだって、判ったんだ。


 多分、自分の能力ギリギリまで使って、女の子を移動させてそのままにしておく事に成功したんだよ。



 こんな話ししてさ、俺のこともヘンだと思う?


 頭がおかしくなったんだって思う?





 俺さ、怖いんだよね。


 なんだかそれから、どうにもおかしな気分でさ・・・。


 それでさ、昨日の事なんだけど


 夕食にさ、コロッケが出たの。


 いや、笑わないでよ。ただコロッケの話をしたかった訳じゃないんだって。


 それで、コロッケにソースをかけようと思って、テーブルの上のソースに手を伸ばしたら


 うっかりソースを倒しちゃったんだよね。


 で、フタが開いてたから「あっ!」って思ってさ。


 そしたらさ・・・・。


 ソースが傾いたまま、止まって見えたんだよね。



 それで、手にとって・・・・。コロッケにソースをかけた・・・。



 でも、俺、確かにソースを倒したはずなの。



 ねぇ、これどう思う?



 まさか、俺・・・。ねぇ、どう思う?







 どう思う?










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