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ショートショート・ラヴストーリーズ  作者: ロミコ


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12/21

『彼女いない歴 3年』

 




 さて、どうしようかな。


 気になる子がいるんだけど、どうしようかな。


 ここの所、そんな事ばかり考えている。


 彼女いない歴3年。


 これが、意外に楽だった。


 時間を気にしたり、ラインのチェックや電話の履歴に縛られたり


 数々のイベント毎からの解放は、俺に自由の素晴らしさを教えてくれた。


 今まで、いかに自分が「ラインしなきゃ」「そろそろ電話しなきゃ」


「次のプレゼントは何がいいか、考えとかなくちゃ」と


「しなくちゃ」「しなくちゃ」「しなくちゃ」と、義務感に捕らわれれていたのかを知った。



「人でなし認定」される事を恐れずに言えば


 この彼女いない歴に突入前は、女が途切れた事はなかった。


 いつも誰かしらいたし、たまにはその誰かが2~3人同時進行したり


 激しく入れ替わったりして、色々入り乱れた。


 その相手に、彼氏だの夫だのがいる事も、少なからずあった。


 同時進行がバレて、泣かれた事もあったし、殴られた事もあったし


 相手の男にバレて、殴られた事もあったし、3倍にして返した事もあったし。


 まぁ、たぶん俺は人でなしの上に、ろくでなしなんだろうと思う。



 そして、空白の3年。


 女に疲れちゃった俺は (はいはい。自業自得は判ってます)


 1人を満喫してきた。


 勝手に部屋に入られて、何か持ち出される事もないし


 勝手に車に乗られて、ぶつけられて帰ってくる事もない。


 そういう自分以外の何かを心配したり、振り回されたりをしなくていい生活だ。




 こう振り返るとあれだね。


 俺も俺だけど、相手も相手だよね。


 とにかく、俺はこの3年、誘われてもついて行かなくなったし


 会社の飲み会で、隣に座った子がやけに触ってきたりして


 意味ありげな視線でじっとり見てきたとしても、手を出すような事はしないできた。


 仕事が終わったらきっちり帰って、気になってた映画やドラマのDVDを観て


 ジムにも通い始めて、水泳をするようになった。


 こういう生活を、楽しくもあり、楽でもあると思っていたんだ。


 このまま、当分は1人でいるのも悪くないって、思っていたんだ。



 キミに逢うまでは。







 女に声をかける事を、恥ずかしいと思ったり、躊躇した事はなかった。


 特別な事だと、思ってない。


 そう、今俺が迷っているのは


 彼女を誘う事が、特別な事にカテゴライズされると気づいたからだ。



 俺は、初めて


「俺が誘ったら、あの子はどう思うだろう」と言う事を考えるようになった。


 俺の周りの男たちが、「誘えない」とイジイジしている気持ちが


 やっと判った。



 だが、俺は俺の答えも知っている。


『そんなの、誘ってみなきゃ判らない』だ。








 仕事が一段落ついたので、飲み物を買いに行こうと思った。


 うちの会社はセキュリティの強化に伴って、部屋での飲み食いが禁止になった。


 社食に行くか、廊下の突き当たりにある自販機とベンチのコーナーへ行くしかない。


 部屋を出るのにも、首から下げた従業員カードをドアに通さなければならない。


 当然、入るときも同じだ。


 俺がそうして廊下に出た時、もうひとつのドアから彼女、忍ちゃんが出たのが見えた。


 俺に気づかず、先を歩いて自販機に向かっている。


 小さなポニーテールが歩くたびに揺れる。


 オフホワイトのジーンズに、黒いTシャツ。


 何でもない普通の格好なんだけど、この普通っぽい感じが、和むんだよな。


 自販機の前に着くと、忍ちゃんが選んで迷っていた。


 俺が近づくと、それに気づいて「お先にどうぞ」と一歩下がった。


 俺はいつも買うのが決まっているので、無糖の紅茶を買った。


 それから、忍ちゃんを振り返って「何飲む?」と聞いた。


「えっ、いえ、そんな」と遠慮される前に、お金を入れてしまう。


 もう遅い。と言うように、ニヤリと笑うと彼女に自販機を譲って


 ベンチに座った。


 忍ちゃんは諦めたようで「すみません。いただきます」とミルクティーを買った。


 そしてベンチの端の方に腰掛けて、「ありがとうございます。いただきます」と


 ミルクティーを掲げて見せて、会釈をした。


「どうぞ」と返事をして、紅茶を飲みながら見ないふりして観察した。


 こげ茶の、少しカールした髪はパーマじゃなくて、天然なんだと


 どこかで聞いた。


 前髪も内側にくるりとカールしているし、耳の後れ毛もくるりとしている。


 小さくて、柔らかそうな手をしていて、指輪はしてない。


 彼氏はいないと思ってる。・・・思いたい。




 会話がない。


 俺は、あんまり人に嫌われる方ではないと自負しているけれど


 忍ちゃんは、どうだろう。


 嫌われているとは思わないけど、警戒されてるようには感じる。


 俺の振る舞いの何かから、もう危険な人と思われているのか


 古株の女子から、俺の昔の話しを聞かされて、要注意人物と思われているのか。


 当時は、誰に何を思われても平気だったからなぁ。


 あまり隠そうともしなかったし。


 好き勝手やったからなぁ・・・。


 と、そっとため息をついた。



 そこへ、コツコツとヒールを鳴らしながら、俺にとっての要注意人物が迫りくる事を知った。


 気づかないふりをして、そっちは見ない。


「あ~、牧田さんだ~。おはようございます」


 河合さんが、小さくて可愛らしい声で挨拶をしてきた。


 仕方ないので、「河合さん。どうも」と義理的に返した。


 河合さんが自販機でジュースを買う瞬間に、さっと席を移動して忍ちゃんの隣に詰めた。


 さっきのままだと、河合さんが必然的に、俺と忍ちゃんの間に座っていただろう。


 忍ちゃんが急に隣に移動した俺に、驚いた目を向けた。


 それを至近距離で見たら、判った。



 よし。俺は嫌われてない。



 河合さんは、オレンジジュースを買ってベンチに振り向くと、俺が移動している事に


 驚いたようだが何も言わずに隣に座った。



 近い。


 近い近い。


 腕が触れてる。



 河合さんは、黒くて長い髪を下ろして、両サイドの髪を後ろで結いて


 白いレースのリボンをつけてる。


 肌も真っ白で、白いフリルのブラウスに、黒のフレアのミニスカートを履いて


 膝上までのソックスを履いて、腿を見せている。


 足元は黒のエナメルのストラップシューズ。


 赤く艷やかなリップをして、清純派のようでどこかエロい。


 男には人気があるみたいだ。


 特におじさんに。


 俺はシックスセンスで、この子とはあまりお近づきになりたくないと思っている。


 魔性の女っぽいんだよな。怖い。


 この子、絶対普通の清純派じゃない。


 河合さんは、そんな事を俺が思ってるとも知らずに


 小さくて可愛らしい声で「あの、最近新しい仕事を任されたんです。


 それで、前にその仕事は牧田さんがやってた事があるって聞きました。


 今度、その事で相談に乗ってください」



 消え入りそうな声で、隣でジュースを見つめたまま言う河合さんは


 きっといかにも守ってあげなくちゃいけない女の子に見えるんだろう。


 俺が何かを言う前に、隣の忍ちゃんがまだ残っているミルクティーに


 キャップを閉めて、立ち上がってゴミ箱にそれを捨てた。



「その仕事、俺の後に遠藤がやってるから、俺より遠藤に聞いたほうがいいよ。


 がんばってね」



 そう言って立ち上がると、ゴミ箱に空のペットボトルを捨てた。


 河合さんを、振り返りもせずに、忍ちゃんの隣にならぶ。


 忍ちゃんは何も言わない。


 俺も、何も言わない。


 そのまま、カードをドアに通して、部屋に入る。


 忍ちゃんと俺は、お互いに反対側にデスクがあるので、別れてしまう。



「忍ちゃん」 声をかけた。


 どうせ、みんながやがやしていて、2人が何を話しているのかなんて


 よっぽど近くにいないと聞こえやしない。


 彼女が振り返る。


「明日さ、ランチ外に食べに行かない?


 俺は今日でもいいんだけど、忍ちゃんお弁当派でしょ」



 俺の中で、女を誘う時は当日って言うベストルールがある。


「明日」まで時間を置いてしまうと、相手が色々考え直してしまうのだ。


 相手が真面目で男に慣れてないと、ドタキャンされる確率が高い。


 かと言って、忍ちゃんを初めて誘うのに、いきなり今夜はダメな気がした。



「えっ?」



 眉をひそめた顔を見て、「しまったかな」と思った。


 急に警戒されてしまったみたいだ。



「なんでですか?なんでわたしと?」


 小細工はしなかった。


「忍ちゃんと、ご飯食べに行きたいから。


 忍ちゃんと、もっと話したいから」



 真っ直ぐ見つめた。


 忍ちゃんは、嬉しそうな顔をしそうになって、慌てて顔を引き締めた。



「何食べに、行くんですか?」


「忍ちゃんが好きなもの、食べに行こうよ。


 この辺、いっぱい食べに行く所あるじゃん」



「そうですねぇ。


 え~~と・・・」と考え始めたので



「じゃあ、午後の休憩までに考えておいて。


 午後の休憩の時、また自販機のとこで、オーケー?」



 彼女はにこっと笑って頷くと、自分のデスクに戻っていった。



 それでも覚悟した。



 ドタキャンを。








 ランチ、社食も混むし、外も混むし、どうしよっかな~と


 エレベーターじゃなく、階段を下りながら考えた。


 すると、一階下の踊り場で、人の声がした。


「いつも、気になってたんです。


 今度、どっか遊びに行きませんか?」



 おっと~。


 デートのお誘いか~。


 ニヤニヤしながら階段を降りていくと、そこにいたのは


 他の階にいる、別の部署の奴と、忍ちゃんだった。


 手にお弁当の手提げを持っている。


 忍ちゃんは俺に気づいて、赤い顔して慌てて下を向いた。


 男は俺も知ってる。


 いつもニコニコして、ハキハキした感じ良い奴だ。


 俺より、きっと良い奴だろう。


 男は俺に気づいて気まずそうではあったが、彼女を隠すように立ち位置を変えて


 俺に照れくさそうな笑顔を向けて、会釈した。


 俺も会釈を返して、会社を出た。



 俺よりも、ずっとずっと、良い奴だろう。








 混んでる店に並ぶ気になれずに、コンビニでおにぎりとお茶を買って


 会社の周りにある遊歩道のような場所で、ベンチを探してそこで食べた。


 3年前、本気で好きになった女がいて


 その女には旦那がいた。


 あんまり幸せな結婚生活をしているようには見えずに、事実、幸せじゃなかった。


 旦那は外に女を作っていて、家に帰らず


 そのおかげで、わたしも好きにできる・・・と彼女は笑っていた。


「旦那と別れて、俺と結婚しちゃえよ」そう言った。


 彼氏持ちや、夫持ちとも付き合ってきたけれど、こんな事言った事なかった。



 一度も。



 彼女は「そうしちゃおっかな」と笑ってた。


 俺は、彼女に愛されてると思ってたんだよなぁ。



 だから、彼女が自殺した時、本当に驚いた。


 彼女が実は旦那を深く愛していて、旦那の女遊びにとてもとても傷ついていた事を


 まったく気づかなかった。


 気づかなかったんだ。



 彼女は俺に、何も言わなかったし、何も残さなかった。


 つまり、彼女の中に、俺はいなかったんだ。


 彼女の中にいたのは、いつだって旦那だけだったんだ。






 忍ちゃんと初めて話したのは、彼女が一週間後に控えた歓迎会への出席の確認を取りに


 俺の所へ来た時だった。


 俺はぼんやりしていて「いや、1人になりたい気分だからいいや」みたいな事を答えたんだった。


 そうしたら彼女は、くすりと笑った。


 俺は、てっきり「牧田さんでも1人になりたい時があるんですね」と言う意味で


 笑ったのかと思った。


 まぁ、別にそれでも構わなかったけれど。


 でも、彼女は俺を見て、「ごめんなさい」と済まなそうに口を押さえてこう言った。


「だって、牧田さんは誰といても、いつも1人じゃないですか」



 ハッとした。


 誰かが、俺の事をちゃんと見てくれている感覚を、久しぶりに味わった。







 仕事が終わり、会社を出た所で、忍ちゃんに明日どこに食べに行きたいのか


 聞くのを忘れていた事を思い出した。


 と言うか、午後の休憩自体、一緒に取るのを忘れていた。



 なんだろう、やっぱりショックだったのかな。


 あいつに告白されてた忍ちゃんを見て。


 弱くなったなぁと思った。


 女の事で、傷つくことがものすごく怖い。



 参ったなぁ。



 明日、元気に話しかけて、それで忍ちゃんに申し訳なさそうな顔でキャンセルを


 告げられる事を想像したら、やんなってきた。


 駅の改札口に近づくと、改札口手前の柱に忍ちゃんが寄りかかっていた。


 俺に気づいて身体を起こす。


 トコトコと近づいてくると


「イタリアンに決めました」と言った。



 俺は、じっと忍ちゃんを見つめた。



「俺は、それを自分に都合の良いように受け取るよ。


 それでもいい?」



 彼女も、俺をまっすぐ見た。



「わたしも、牧田さんがわたしともっと話がしたいと言ったのを


 自分に都合よく受け取りました。


 そして、わたしはすごくすごく、ヤキモチ焼きです。


 それでもいいですか?」



 俺は笑った。



「はい。いいです」





 頭上を、ばたばたと鳩が一斉に飛び立って、白い雪のように空に消えた。











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