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ショートショート・ラヴストーリーズ  作者: ロミコ


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11/21

『ロマンス列車』

 




 誰も、幸せになどできない。


 そう思っていた。


 大切な人を、苦しめるしか出来ない。


 そう思ってきた。


 人と関わる事を恐れるようになり、好かれる事も


 愛する事もすべてが煩わしく感じられた。


 家族と言う列車を走らせ、自分の勝手から途中下車した俺は。


 俺と言う存在を、呪って毎日を過ごした。











「おはよ~」


 まるで“おわよ~”としか聞こえない、あくびと同時の挨拶をしながら


 理沙が起きてきた。


 上だけ、俺のパジャマを羽織ってすらりと長い足を見せている。


 ちょっとX脚なのが、けっこう好きなんだよな。


 俺はTシャツと自分のパジャマズボンを穿いている。


 さっと読んでいた新聞を下ろし、席を立った。


「カフェオレ飲むだろ?入れるよ」


 理沙はキッチンテーブルにつくと、両手を上げて「わーい」と喜んだ。


 プ。単純すぎ。と思いつつも、喜ばれると悪い気はしない。


 理沙お気に入りのマグカップに、たっぷり注いでテーブルに置く。


「はい。仔豚カップでお待ちどう」


「もしもし?コレはワンコですヨ」


「またまた、ブタだよブタ」


「ワンコで間違いありません」


「いや、よく聞け。ブヒブヒ言ってるぞ」


 豚の真似をして、鼻を鳴らしてやった。

 自分で言うのもなんだけど、かなり上手い。


「クンクン言ってるって!」


 理沙なりの物真似でク~ンクゥンと犬の鳴き声をする。

 何故か両手をグーに丸めて、顔の横につける仕草まで。

 だが俺の渾身の豚っ鼻には敵うまい!


「ブヒハブッファ、ブッヒッハ」


「圭ちゃん、きらあああい!」


 この単純さがおもしろい。


「んじゃ、このカフェオレは没収って事でいいですか?」


 カップに手を伸ばす仕草を見せると、慌てて自分の方に隠すように寄せた。


「いやややや!いっただっきまーす」


 わざとらしい満面の笑みを浮かべる。


「圭ちゃんの入れるコーヒーは世界一だよね!」


 そう言って、両手でマグカップを持つと、ふーふーと息を吹きかける。


 読みかけの新聞に手を伸ばすと、まだぶつぶつと「いやっ、やっぱり宇宙一。いやっ、銀河一?」


 と続けている。笑える。



 宇宙から銀河にランク下がってるし。


 ふと理沙を見ると、大きく開いた胸元から昨日俺がつけたキスマークが見えた。


「理沙、今日さ、襟の開いたシャツは着ないほうが良いよ」


 そう言うと、「ん?」と言う顔をした後に、意味を理解して赤くなった。


「嘘!つけないでって言ったじゃーん!今度は私がつけるからね!」


「無理無理。理沙吸うの下手だから無理だね」


「・・・くっやし」

 テーブルに拳をどんどんと打ちつけている。

 いつでも本気だな、こいつ。


「あ、俺今朝早番だから、もうそろそろ仕度して出るよ」


「えー、もう?まだちょっとしか顔見てないヨー」


「知りませんよ(笑)」








 着替えていると、理沙が寝室に入ってきた。


「けーい、今日もスーツ姿かっこいい」


「いつもと同じだよ」


「今日はシャツとネクタイと、スーツの色がバッチリだね」


 普通の紺のスリーピースに水色のシャツに紺色のネクタイしてるだけ。

 理沙はいつでも人を褒めてる。


 ドア枠に寄りかかって、パジャマのままニヤケた顔している本人は、その事に気づいてないんだろうけど。

 そして、そのいつも本気で褒めてくれる所に、俺がどれだけ救われているかも知らないんだろうな。


「見とれてる所悪いけどお嬢さん、行きますよ」


 理沙の鼻を軽くつまむと、頭を撫でてくしゃくしゃにした。


「カバン持ってったげる」

 鞄を胸に抱えると、俺の後ろをついて歩いてくる。

 親鳥になった気分だ。








「まだゆっくりできるんだろ?ゆで卵ならできてるから。朝はちゃんと食えよ」


「はいはーい」


 玄関で靴を履いて、カバンを持ち「じゃ、行ってくる」と振り返ると


 理沙が両手を広げて、にっこり笑った。


 近づいて、そっとキスをしてすっと離れた。


「やーだ、短い!だめ!もっかい!」


「急いでるんですけど」


「じゃ、早く早く」と両手を広げる。


 仕方ないなぁと、カバンを置いて理沙の腰を抱き寄せると


 ゆっくり小さく、ついばむように何度もやわらかい唇に触れたり離れたりを繰り返し


 最後にたっぷりと深く、彼女の中を堪能して離れると、おまけで理沙の唇を舐め上げた。


「・・・どう、満足した?」


 覗き込むと、潤んだ瞳が熱っぽく見詰め返してきた。


 理沙は返事の代わりに、頷いて見せた。


「そんな顔してると、襲うよ」


 また鼻を摘む。


「あうっ」


「じゃ、行ってくる」


 頭をくしゃくしゃと撫でると、さっとドアから出て小走りになる。


 すると、ドアの閉まる音がしないので振り返ると、理沙が顔だけ出して見ていた。


 おまっ、まだ上だけパジャマじゃねぇか。

 誰かに見られたらどうすんだ。


「けいちゃーん、カフェオレごちそうさまー。早く帰ってきてねー」


 そう手をひらひらっと振ると、俺が返事する前にドアは閉まった。






 誰も幸せになどできない。


 そう思って来た俺が、誰かとまた時を重ねる日がくるなんて。


 誰も要らないと頑なだった心は、いつしか素直な笑顔に溶かされ


 愚かだった昔の自分を、切ない過去として受け入れるまでになった。


 無邪気で、無防備で、俺が傷つく事を恐れるが故に排除しようとしていた部分を


 そのまま持ち続けてきた彼女が、俺を変えようとするでなく変えた。








 仕事が終わったら、彼女の好きなチーズケーキを買って帰ろう。


 そんな風に思う俺も、悪くない。






 ロマンス列車は、まだ走り出したばかり。











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