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「優しい雨」

昔にブログへアップしたものです。

 



「もうイヤ!」



 サトミがクッションを掴んで振り回す。


 顔に当たる前に掴んで奪うと、サトミの手の届かないところへ放り投げた。



「サトミ」



「もうヤダ!」



 落ち着かせようと、腕に手を伸ばしたが、身体を捻ると玄関へダッシュして夜に飛び出した。


 追いかけて玄関を出ると、一瞬鍵が気になり、戸締りをしている間にエレベーターに乗られてしまった。


 エレベーターは下へ向かう。


 ここは3階なので、そのままエレベーターすぐ脇の階段を駆け下りる。


 ビーサンが滑り、2~3段尻餅を付いた。


「いって」手のひらを擦りむいて、ケツを打つ。


 すぐさま立ち上がり、走る。


 マンションを出て、すぐのところで腕を掴んで捕まえた。


 サトミは振り返り、こぶしを握って俺の胸を叩いた。


 反対の腕で、その手も掴んで引き寄せる。



「サトミ。俺の話聞いて」



 サトミの長い髪に隠れた顔を覗き込むと、涙でぐしゃぐしゃだった。


 髪がいくつも頬にはりついている。


 その疲れきった子供のような哀しみの表情が、俺の胸を深く突き刺す。


 今すぐ抱きしめて、慰めてやりたいのに。



「う~~~~。離して」



 両腕を俺の胸に突っ張って、2人の間に距離を空けようと踏ん張る。


 片手を離すと、そのまま崩れるように歩道にしゃがみこんだ。


 肘を支えると、「ナオ、わたしもう耐えられない・・・」


 サトミが絞り出すようにして言った。



「いっつもヤキモチ焼いて、いっつも不安で、もうクタクタ。


 女はみんなナオの事好きになる気がする。


 みんなナオに話しかけてきて、みんなべたべた触るんだもん。


 ナオがモテるのは、ナオのせいじゃないの判ってるけど


 それでももうわたし、疲れた。もうやめる」



 午後10時すぎ、人通りの少ない通り、街灯の下でサトミは力尽きたように、最後に深いため息をついた。


 俺は膝を付けるようにしてしゃがむと、うつむいているサトミの顔を隠す髪を耳にかけた。


 サトミの青白い顔に、新しい涙が次々と流れていく。


 濡れたまつげの影が、頬に濃く影を落としている。



「サトミ、俺を、俺のことを ちゃんと見て欲しい」



 頬の涙を、親指で拭き取る。


 俺の言葉に、サトミはキッとなって顔を上げると



「見てるよ!めちゃめちゃ見てる。

 見てても辛いのに、それでもナオから目が離せなくて見ちゃうの!」


 涙で鼻声のまま怒って、また涙で頬を濡らした。



 俺はサトミの乱れた髪を、そっと撫でて、また耳にかけた。


 サトミが少し震える。



「なぁ、サトミ。 サトミちゃん」



 またうつむいたサトミの手を握って振ると、しぶしぶ顔をあげて俺を見た。



「サトミ。お前が見てるのは、俺じゃないんだよ。

 お前が見てるのは、俺の周り。

 誰が俺を見てるのか、誰が俺に話しかけるのか、誰が俺に触るのか。


 だろ?」



 手をしっかり握り締めたまま、サトミを見つめる。



「でもな、お前が本当に俺を見てたら 俺が誰を見て、誰に話しかけて、誰に触ってるのか

 判るはずだよ。


 な?」



 サトミのぼんやりした目に、光が戻ってきたように感じた。



「俺は、お前しか見てない」



 サトミの目に、涙が盛り上がり、光を含んでこぼれ落ちた。



「あ~あ~

 涙でぐちゃぐちゃだ」



 俺はそう言って、自分のチェックのシャツの裾を引っ張って


 サトミの顔をちょいちょいと拭いた。



 ハンカチとか、そんなの持ってませんから。



「ナ、ナオは、わたしにこんなにヤキモチ焼かれて、イヤにならないの?

 毎回こうやって騒がれて、疲れないの?」



 すべてが鼻声なので、俺はくすっと笑った。



「イヤじゃないし、疲れないよ」



「どうして?

 わたしならこんな女イヤになるよ。

 どうして、どうして俺のこと信じられないんだって怒らないの?」



 どうしてどうしての連続に、ちょっと笑いそうになる。



「怒って欲しいの?」


 とイタズラっぽく言って、上目遣いで見ると「そういうわけじゃないけど・・・」とごにょごにょ言った。



「なぁ、サトミ。

 だってさ、相手のこと好きだったら、どんな理屈言われたって正論言われたって、ヤキモチ焼いちゃう時は焼いちゃうじゃん。

 そのことをどうこう言うより、どうしたら不安にならないか 信じてもらえるかって考える方が、俺はイイと思うから」



 サトミは濡れた目をパチパチとしばたたいて、手でこすった。


 それから、繋がれている手に視線を落とした。



「・・・・」



 何か言いたそうにしているので、「ん?」と首をかしげる。



「どしてそんなに、やさしいの・・・」



 またうつむいて、不安そうな顔をしたので、ジョークを言った。



「え?やらしい?」



「んもう!違う!」吹き出して、またぶってきたのでその手を掴んで引き寄せた。



「お前が好きだからだよ。

 お前が大事だからだよ。

 ほかに理由なんてない」




 せっかく笑わせたのに、また泣かせてしまった。



 サトミの顔がくしゃくしゃに歪み、抱きついてきた。



 そのまま抱き上げて、サトミの脚を俺の腰に回すと、子供を抱っこするようにして部屋に戻った。




 そのあとすぐに、優しい雨が降りだして、街を包んだ。












ナオ「サ、サトミちゃん、悪いんだけど、もう下ろしてもイイ?」


サトミ「重いって言うの?!ヤダ、バカバカ下ろして!」


ナオ「イヤ、重くないよ重くない。羽根のように軽いけど、俺が非力なだけだよ」


サトミ「ぷっ」


ナオ「ははは」



リア充爆発s

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