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疑心-清美

 村の景色はまるで変ってなかった。発展も衰退もせず、現状維持を続けている。

 すごいな、と素直に思った。村の過疎化が進む中で、この村は人口が減らない。村を支える人力が常に保持され続けている。

 決して好きな場所ではない。嫌な事の方が多かった。だから感傷に浸るまでの思い入れはない。それでもここで過ごした大切な時間もあった。その感慨に耽りつつ景色を眺める私の姿をすれ違う村人は奇異な目で見た。

 当然か。こんな都会丸出しの恰好をしている女が村を闊歩していれば怪しく思うのも無理はない。しかしこの視線も懐かしい。この村に来た時も、そんな目で見られたな。

 改めて、そんな村によく戻ってきたなと思う。


 この村に戻りたくなかった理由は二つあった。

 一つは父親。私がここを出る事を決めた大きな理由の一つだった存在。彼が生きている限り、私はこの村の敷居を跨ぐことは出来なかった。


『亡くなったみたいよ』


 父は死んだ。孤独死だったようだ。村を通じてその連絡が母のもとに入った。


 村を出た私の行き先は、離別した母のもとだった。家に残っていた郵便物の中から母の住所を控え、村を出てから連絡もせずに飛び込んだ。当然母は驚いた。だが、一度別れても母はまだ私の母でいてくれていた。何も言わず、マンションの扉の前に立つ娘を見るや、ひしっと抱き締めてくれた。長らく触れてこなかった愛情だった。


『ごめんね』


 絞り出すように言った母の一言で全てを許せるほど大人ではなかったが、母の気持ちも分かるし、何より頼れる大人は母以外に考え付かなかった。

 その後、行方を捜そうとした父が私の行き先として母に行き着くのは簡単な話だったし、実際母のもとに電話が何度かかかってくる事もあった。


『いつまでもあなたの言いなりだと思わないでください』


 電話口に向けられた母の声にぞっとした。

 自分の中にある母の印象は良く言えば温和、悪く言えば気弱だった。そんな母が放った冷徹な、今までの父に対する全てに対して向けられた言葉に、私はとても驚いた。

 呆然とその様を見ていると、電話を終えた母は私を見て優しく微笑んだ。


『今更だね。母親ぶって』


 母は母で、ずっと抱えてきたのだ。父に虐げられた時間と、娘を父のもとに残してしまった後悔を。

 私は自然と母に抱き着いた。背中にすっと回された母の腕は、少し震えていた。


 

 悪い意味で絶対的だった父の死。そこで一つのハードルが下がった。

 本当であれば、それさえなくなればいつだって村に戻る事は出来た。しかし、そうはいかなかった。

 もう一つの理由。村に戻れなくなった大きな理由。ある意味では父以上にこの障壁は大きかった。


 戸惑った。恨んだ。

 意味が全く分からなかった。

 これまでの時間の全てを否定された気分だった。

 こんな気持ちになるなら、近づいて欲しくなんてなかった。


『後で読んでね』


 佳奈恵の手紙。

 今じゃなく、「後で」じゃないと駄目だった理由は開いてすぐに理解した。

 あの日電車が発車し、佳奈恵の姿が見えなくなってすぐに畳まれた手紙を開いた。

 親友からの手紙。そこにしたためられたものを想像し開いた私の心は、たった一言書かれたその言葉を見た瞬間に停止した。


















































『死ね』



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