帰郷-清美
十年。
二度と乗ることのないと思っていた電車に揺られ振り返る。過ぎてしまえば驚くほど一瞬であっけない年月だった。
ここを出たのが高校を卒業してほぼ。小さな村から都会に出ていく者がいなかったわけじゃないし、珍しかったわけでもない。ただ自分自身がちゃんとその選択をするとは思っていなかったし、周りもきっとそうだった。だがそうと決めた私の決心は固かった。
ここを出る。もうここには戻らない。そう思っていた。
『私、ここを出るよ』
全てを知っているのは、親友の佳奈恵だけだった。
親友と言ったが、私にはそもそも友達と呼べる存在がこの村にはいなかった。
村に来た頃、私は父親と二人暮らしだった。
もともと都会で家族三人暮らしだったが、離婚をきっかけに私は父と二人になった。
「落ち着いた場所で暮らそう」
何故都会を出てこの村に決めたのかといった当然疑問を持つべき父の提案。しかし反対意見を聞く気もないのだと分かっていたし、考えるだけの精神と思考のなかった当時の私はそれに従った。そして私達はこの村に来た。
悪く言わなくても、私達はよそ者だった。残念ながら私も父も開けた性格ではなかった。高校一年の終わり頃から転入した私に向けられた視線は、簡単に言えば奇異だった。
私自身、両親の離婚の事とかでいろいろと疲弊していた。いろんな期待や不安を純心で
向き合あうべき年齢の中で、私の心はほとんど閉ざされているに近かった。
初め少しばかりの好奇心、親切で近づいてくる存在に対して閉じた私に、皆あっという間に関心をなくした。小さな村で、人口も多くない中でそういった態度をとった者に友達など出来るわけがないし、結果として私は所謂イジメというものを受けるようになった。
物を盗られる、隠される、小突かれる、足を踏まれる。口も心も開かない私を彼女達は歪な形で彼女達の遊びに混ぜ込んだ。
父親と二人暮らしである事についてもイジメに拍車をかける要因となった。田舎に急にやってきた男と女を、皆勝手な憶測や創作で丁寧に汚していった。
そんな中で唯一私と向き合おうとしてくれたのが佳奈恵だった。
「いろいろ清美とは共通点があったからね」
それは後々分かった事だったが、彼女もよそ者だった。ここに来たのはもっと前の事だったが、そんなよそ者の先輩としての気持ちもあっての事のようだったのだが、当時の私は何故彼女が毎日接してくるのか最初不思議でならなかった。
佳奈恵は気付いたらいつも勝手に横にいた。
べったりとくっついてくるわけでもなく、彼女のタイミングでフラッと現れて勝手に何かを喋り、勝手に離れていく。しかし人形のように反応のない私に向かって意図の良く分からなかった彼女の努力は、それでもちゃんと私の心に沁み込んでいった。
やがてぽつりぽつりと私も言葉を話すようになり、やがて普通の会話をするようになり、気付けば私の方から佳奈恵に近づくようになった。
高校生活は、ほぼ彼女との時間だった。
佳奈恵とずっと一緒にいたい。心の底からそう思った。
けど、そうはならなかった。
私は高校卒業のタイミングで村を出た。出なければならなくなった。
そして二度とここには帰るまいと思った。
電車が止まった。あの日の改札。
『後で読んで』
いくら考えても答えは出ない。ならば、直接聞くしかない。
――佳奈恵。どうして、あんな事書いたの?




