手紙-佳奈恵
「本当に、行くんだね」
言う必要のない無駄な言葉だった。けど、結局口にしてしまった。
この電車に乗れば、清美と会う事はもうないだろう。
ここを出る事を決めた清美。ここに残る事を決めた私。
「……うん」
この電車が動き出せば、清美はもうここには帰ってこないだろう。
俯く清美。そんな彼女の姿を見て、私は思わず目を見開いた。
――ダメ。
彼女の選択は正しいのだ。清美はそれでいいのだ。
――迷わないで。
「これ」
私は結局、ポケットに入れた紙切れを清美に手渡した。
清美は不思議そうな顔をしてしわくちゃに折りたたまれた紙をしばらく見つめた。やがて、それが何なのかを理解したように、私の顔を泣きそうな笑顔で見返した。
『開いてもいい?』と彼女の目が問いかけて来る。私はゆっくりと首を横に振った。
「後で読んで」
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
田舎の無人ホームに、いつものように電車がやってきた。私達にとっては、もう二度と来ない時間。けれど電車にとっては、いつもの予定通りの一つに過ぎない。きっとそうやって、すぐに私と清美は、それぞれのいつもに飲み込まれていくのだろう。そう、信じたい。
プシューっと扉が開き、清美は電車に乗り込んだ。
「じゃあ」
清美が一言。私もそれに「うん」とだけ答える。
会話は弾まなかった。お互い言葉がまるで出てこなかった。
歯痒い思いもしつつ、これでいいんだと納得する気持ちもあった。
電車に乗り込んだ清美は扉のそばで私の方を見たまま立っている。私もホーム側で清美を見返したまま佇んだ。
一歩足を踏み出せば、お互い一緒の世界にいられる。僅かな、どちらかが手を伸ばせば自分の世界に引きずり込む事の出来る距離。
でも、出来なかった。それが私達の決意だった。
扉がゆっくりと閉まっていく。
「また、会おうね」
閉まる間際、清美は確かにそう言った。私は言葉を返せなかった。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
電車は走り出した。ドラマのように、走る電車と並走するなんて事はしなかった。ただじっとその場で清美を見送った。
――それでいい。あなたは間違っていない。親友として。
最後の清美の言葉を聞いて、私は自分で自分を褒めてやった。
だってきっと、誰も私の事なんて、褒めてくれないだろうから。
そこでようやく、私は素直な心で涙を流す事が出来た。




