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悪人面の魔王でも友達になってくれますか?  作者: 梅三六角
第二章 魔王、姫君を攫う
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計画実行

 ノエル近くの町。今日はこの町の貴族の娘、アリス・フルニエが王子、ケヴィン・リーニュのところに嫁ぐ日だった。


「アリス、立派なお姫様になるんだぞ。」


 アリスの父親が馬車に乗り込むアリスに声をかける。


「大丈夫です。王子様と私は両想いですから、お互い力になってきっと良い夫婦になります。」


 アリスが父親を笑顔で見上げる。

 

「そうね。あの王子様なら、きっと良くしてくれるわ。道中、くれぐれも気を付けてね。」


 母親もこれから出発する娘を見送りに来ていた。

 

「はい。それでは、行って参ります。」


 御者が操る馬、そして護衛の者10人程を連れて、アリスは出発していった。


「さて、アリスが姫になれば、我々がノエルの政治の実権を握れるのも夢ではないな。」

 

 父親が既に小さくなって見えなくなっていく馬車を見送りながら、隣にいる母親に話しかける。

 

「ええ。あとはあの子が王子様に気に入ってもらえれば、何も問題ないわ。」


 母親は娘の幸福を願う心ではなく、自分達の未来を想像し、笑顔を浮かべた。


■■■


 馬車は森の中を通っていた。木は次第に増えていき、頭上を覆う木の枝で、地面に届く光は少なくなっていく。


「あの、本当にこんな所を通るのですか?」


 アリスが心配気味に御者に話しかける。

 

「ええ、この道がお城への近道となっております。山賊の類が出たという話もありません。」


 御者はアリスの家に長年勤めており、既にお爺さんになっている。年をとっている分、いろいろなことを知っており、アリスや両親も信頼を置いていた。その彼が言うのだから間違いないのだろうと思い、アリスはそれ以上は聞かなかった。


「何だか、妙だぞ。」


 護衛の者の一人が周囲を見回す。

 

「どういうことだ?」

「誰かに見られているような気配がするんだ。」


 一同を不穏な空気が包む。


「おい、馬を止めろ!」


 護衛の者の命令で御者は言われるとおり馬を止める。護衛の者が馬車の周りを囲むようにして、周囲を警戒しているときだった。突如、草陰から刃物が飛んできた。

 

「ぐあっ!」


 不意を突かれた護衛の者が肩に刃物を受け、その場に蹲る。


「何者だ!」


 護衛の者が叫ぶと同時に、左右の草陰から、狼と人の獣人、コボルド4体、及び人型の魔物、ゴブリンが1体姿を現す。コボルドが盾と剣、ゴブリンが両手にクナイで武装している。


「よう、皆さんお揃いで。」


 ゴブリンが流暢な人語を話す。


「おのれ、魔物供め!この馬車を次期姫となるアリス様の馬車と知っての襲撃か!?」

「その通り。我々の主殿がちょいとその姫候補の娘さんに御用でねぇ。」


 護衛の者達は全員剣を抜く。

 

「多勢に無勢だ!覚悟しろ!」


 全員が敵前衛にいるコボルドに斬りかかろうとしたそのとき、上から液状の何かが降ってきた。

 

「うわあああ!!」


 それはスライムだった。粘液をもち、どろどろの形状のスライムは護衛の者達数人に頭上に落ちて顔を覆い、呼吸困難に陥れる。


「多勢に無勢ねぇ。そいつはこちらのセリフさ。」


 コボルド達が剣を構えてスライムに取りつかれた護衛に斬りつける。たちまち護衛3人が倒れる。


「これはまずい!ここはアリス様だけでも避難させますぞ!」


 御者は、すぐに馬を引き返させて走らせる。


「お、おい!」


 御者のとっさの判断に護衛も面食らう。そうしている間に、コボルドが剣で斬りかかる。護衛は剣で応戦する。


「木の上にスライムとは、姑息な真似を!誰からの指示だ!?」

「馬鹿め、言えるか。」


 コボルドは剣を振り払い、護衛が構えるより先に斬りつけた。

 

「おのれ!」

 

 護衛二人がコボルド達に斬りかかる。

 

「おっと、そっちもいかせないよ。」


 ゴブリンが両手にもったクナイを投げつけ、護衛二人の手から剣を弾き飛ばす。その隙を狙ってコボルド達が剣での一撃を加え、護衛二人も倒れる。


「護衛は、あと4人か。俺達にやられるとは、よっぽど平和ボケしてるんだねぇ。まあ、良い。王室の者に伝えておくんだ。あの娘を返して欲しければ、ノエルの領地の3割を魔王様のものにしろってね。」


 ゴブリンが言うと共に、木の上から紫色のスライムが落ちてくる。


「うっ、これは!?」


 次の瞬間、スライムから毒ガスが放出される。

 

「毒だ!退くんだ!」


 護衛の者達はその場を離れていく。

 

「さあて、これで我々の任務は完了さ。主殿から報酬を貰えるねぇ。」


 ゴブリンは不気味な笑みを浮かべた。


■■■


 御者は姫を乗せた馬車を走らせ続けていた

 

「あの、どこまで行くのですか?家の方向と違うようですけど。」


 アリスが不安がる。実際、馬車は町の方でもなく、王城の方でもなく、人気のない森を走り続けていた。そして、不意に御者が馬車を止める。


「なに、心配ありませんよ。少なくとも、傷を負わせるような真似はしませんぜ。」

「えっ!?」


 御者の口調が突然変わり、アリスは目を丸くする。御者は自分の口鬚辺りに手をやると、そのままびりびりと剥がす。鼻と髭がとれて、下から出てきたのは別人の顔だった。


「だ、誰!?」

「私ですかい?ちょいと旦那様に頼まれて、お譲ちゃんをここに連れてきたんでさあ。本物の御者は今頃、倉庫の中でおねんねしてるぜ。」


 男はにやりと笑って振り返る。


「ご苦労だったな。」


 やがて、木の蔭から何者かの声が聞こえた。


■■■


「まさか、こうもうまくいくとはな。」

 

 俺は姫候補の娘と御者に変装していた男の姿を確認して、木の蔭から出た。ゴブリンやコボルドは魔物の中では知能が高い方だと聞いてはいたが、本当に誘拐を成功させるとは思わなかった。あとは、町にいたゴロツキを雇って、御者とすり替わってもらった。人間に変身できる魔物は現時点では俺の元にはいなかったからだ。


「旦那、約束通りの娘を連れてきました。それで、お約束のものを。」

「いいだろう、受け取れ。」

 

 俺は金貨の入った袋を渡す。

 

「ありがとうございやす。こんな仕事があれば、また引き受けますんで。」

 

 帰っていく男を見ながら、おそらくこいつに仕事を頼むことはこの先ないだろうなぁ、と考えていた。そもそも、魔王としてまともな戦力をもってさえいれば、こんな回りくどいことは必要ないのだから。


「さてと、だ。」


 俺が向き直ると、姫候補の娘がびくっとする。

 

「そう怖がるな。私はただ……」


 言いかけて、俺はそこで相手と初めて目が合った。肩の下までかかる黒髪、ブラウンの瞳で、おとなしい、というより少々地味な感じではあるが、それゆえに真面目なイメージで、俺的には全然ありだ。しかし、この顔、見覚えがあった。それは相手も同じようで

 

「やだ、ルイ君!?」


 俺の名を口にした。

 

「お前、アリスなのか!?」


 俺も改めて相手を見返した。

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