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悪人面の魔王でも友達になってくれますか?  作者: 梅三六角
第一章 何が正義で何が悪か
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村人と友好関係は築けない

 マチルダ、及び配下の魔物の群れを連れて、言われた村に向かっている。途中、貧しそうな村がある。人々はボロボロの服で、重いものを運んだり、畑で仕事をしたり各々働いている。空が曇っているせいもあり、いっそう惨めさを際立たせる。


「これも前代の魔王の影響だろうか。」


 隣を歩くマチルダに尋ねてみる。


「いや、この村、ブレキアは前代の魔王様から解放されて長い年月が経っていますから無関係のはず。別の悪質な領主か何かが人々を無理矢理働かせておるのですじゃ。」

「そういう領主こそ、魔王の力で倒してしまえば良いのではないか?そうすれば、この村は私の手に落ち、更に村人は私に感謝することだろう。」


 マチルダは少しの間考えていたが、


「今はよした方がよさそうですじゃ。」

「何故だ?」

「何となくですが、あまり良くない予感が致します。そういう勘はよく当たるものですじゃ。」


 たかが勘などと、と言いたいところだが、マチルダの勘が当たることはもう証明済みだ。初対面の俺を、前世で味方が一人もいない苛められっ子だと見抜いたわけだし。


「そうこうしているうちに、着きましたぞ、魔王様。」


 たどりついた村は、所々に畑があり、家も普通に建っている、ごく普通の村、メローナだ。やがて、魔王が現れたのに気が付いたらしい、村人達が騒ぎ出し、次々と集まってくる。


「何故、魔王がここに?この村の冒険者達が魔王復活を阻止するために行ったはずだ。」


 最前列にいる若者が言う。


「私がここにいるということは、そいつらが失敗したということだ。その冒険者達は葬った。ついでに報復として、この村を占拠しにきたのだ。」


 さすがは魔王の体だけあって、言葉は詰まることなくすらすら出てくる。

 

「だが、案ずることはない。こちらの言うとおりにすれば決して悪いようにはしない。事と次第によってはそれなりに便宜を……」

 

 俺が演説している最中、村人達が集団で石を投げてきた。


「魔王め、出ていけ!」


 村人達は声を上げながら我先にと石を拾っては投げる。全員追いつめられてついに手を出してしまったという雰囲気だ。当たっても大して痛くはないが、どうしたものか。助けを求める意味でマチルダに視線を送る。マチルダはやれやれといった感じで


「やられたらやり返す。それだけのことですじゃ。」


 小声で答えた。


(やり返すと言われてもな…。)


 いくら魔王の力が強いと言っても俺は一人、相手は複数人だ。やり返すにしても、いったい誰から先にやれば良いのだろう。悩む俺に対し、マチルダは出来の悪い子供を見るように呆れて頭を掻く。


 と、そこに、


「よくもカトルを殺したわね!ルイのくせに!」

「あんたなんか、大人しくゲルダに退治されれば良かったのに!」

「調子に乗ってるんじゃないわよ!コンテを返しなさい!」


 女の声、しかも知っている声が聞こえてきた。そちらを見ると、茶髪でロングヘアの少女、黒髪短髪の少女、金髪三つ編みの少女。いずれも俺の元クラスメイトだったシエル、パティ、リッツだ。それぞれ、カトル、ゲルダ、コンテと付き合っていた。自分の恋人を殺されたのだから、怒る気持ちは分かる。気持ちは分かるが、


(お前達だって、あの三人と吊るんで苛めに加担してただろうが!あいつらに暴力を振るわれてる時に俺を笑い者にしたり、あいつらを格好良いと持ち上げたり!俺から盗みも働いてきた!転生しても尚絡んでくるか!)


 理不尽にも腹が立った。そこで俺は投げつけられた石を受け止め、


「ふんっ!」


 渾身の力を入れて一番前にいた中年の男目掛けて投げ返した。


メキッ!


 めり込むような音を立てて、石は男の腹にめり込んだ。男は口から血を拭いて跪く。


「悪いな。力の加減がよく分からないものでな。」


 俺がゆっくりと顔を上げながら言うと、村人達は押し黙った。全員の顔が呆然としている。明らかに怯えが見える。


「村を占拠しに来たと言ったが、このような無礼を受けては、他に何かもらわなければ割に合わんな。言い忘れたが、人間は私の大好物でな。特にその後ろにいる三人の娘。ああいう肉の柔らかい奴が限りなく好みだ。」


 俺がにやりと笑ってみせると、

 

「ひっ……」


 三人の顔が青ざめたかと思うと


「いやああああああっ!!」


 三人とも悲鳴を上げて逃げだした。俺はそこで我に返った。


(しまった。またやってしまった。どうも苛めっ子が絡んでくると駄目だ。)


 そう自省していると


「おのれ、よくも!」


 振り向くと体の大きい若い男が鍬を持って襲いかかってきていた。相手は体は大きくとも、所詮は訓練も受けていない、只の村人である。体を少し捻ってかわし、お返しに鳩尾に正拳突きをお見舞いする。男は咳き込んでその場に崩れ落ちる。


 俺は男の胸倉を片手で掴み上げると、そのまま半回転させて投げ飛ばす。魔王にとっては軽いものだ。すると、ケルベロスやヒドラといったいかにも人間の肉を食いそうな魔物の群れの中に男は突っ込んだ。


「えっ。」


 決してわざとじゃなかった。投げ飛ばす先等見ていなかった。

 

「待……」

 

 止めようとしたところで、マチルダが目で俺を制する。分かっている。ここで止めたりしたら、村人達が不審がるし、舐められるかもしれない。第一、既に俺は人を三人殺したのだ。今更止める等滑稽だ。


 だが、俺が止めようとしたのは良心からではない。人間が魔物に食われるところなど、グロテスクで見たくなかったのだ。そうこうしているうちに、魔物達は近寄って、男を喰らいだす。


「来るな、来るなあああああ、ぎゃああああああ!!」


 その凄惨な光景を一瞬目にして、すぐに俺は興味のないふりをして目を逸らす。悲痛な叫びは次第に聞こえなくなっていく。村人達から悲鳴や動揺が見られる。しかし、視線を外す者はほとんどおらず、吐いたりする者もいない。


 吐くという言葉で、俺自身の胃の中にこみあげてくる何かがあった。これは、一体なんだ?考えて出た答えは……


(吐瀉物だ…!)


 マチルダは俺の様子に気が付いたのか


「愚かな人間達よ。このようになりたくなければ、我が魔王様の奴隷となることじゃ!」


 締めにかかった。村人達はもはや誰一人として石を投げたり、罵声をあげる者はない。


「さあ、早く。村の外れまで行くのですじゃ。」

「お、おぅ…」


 嘔吐を抑えながら、俺は鳥の魔物に跨り、村の外れへと向かう。まさか、魔王に転生した初日からこのようなトラブルを起こすとは思ってもみなかった。

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